27.賢者はハーレムを否定してみる
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特に「バージン魔王が~」は本作と関連が強い作品となります。
ヴェルコール山地。アヴェニオの北東、南北50kmに渡ってそびえ立つ、標高2000m前後の山地である。稜線の西側は比較的緩やかな斜面であるが、東側は場所によっては高さ百m以上の断崖絶壁となっていた。
アヴェニオを出立してから7日後の午後、一行の姿はこのヴェルコール山地にあった。途中で立ち寄った麓の村での情報によると、この山中、崖の途中にある洞窟に、今回の依頼の目標である火竜の棲家があると言う話だったのだ。
一行が稜線に沿って登っていくにつれて、木々は次第に低くなり、今は低木がまばらに生えているだけになっていた。
「そろそろ、上空から来る可能性がある。注意していこう」
ユーティは広い空を見上げながら皆に向かって警告を発した。見事な晴天に恵まれ、僅かな雲が見えるほかは何の姿も見られない。
「今来たら、どうされますか?」
「格闘戦に来てくれれば話は早いのだがね。ティエンはともかく、私を含めて、他の誰でも倒せるだろう」
「そうですねぇ。もう少し戻らないと殴り合いはちょっと、自信ないですねぇ」
ユーティの指摘に、ティエンは右手を構えて、手の平を開いたり閉じたりしながら答えている。
「問題は、遠距離戦じゃな」
「その通り。上空からの炎の吐息に徹されると厄介だね。まあ、洞窟で眠りこけてでもいない限り、そうなると考えておいた方が良さそうだ」
ユーティは肩をすくめながら話を続ける。
「ちなみに、その場合は私は何の役にも立たないだろう。私は火竜の鱗を抜ける銃火器を持っていないし、飛んでいる火竜の目や口を射貫くほどの自信はない」
「炎の吐息をしのげるのは、うちの魔法とティエンの仙術かの」
「そうですね。私はユーティ様と同様、なにもできません」
アマリエの反応に、ユーティは首を振った。
「いや、アマリエ君にはアレを使って貰うつもりだ。敵が弱い今のうちに、実戦を経験しておくことにしようか」
アマリエは少しの間、目を見開いていたが、直ぐに納得したのか、小さく肯いていた。
「承知しました。ユーティ様の仰るままに」
「む、アレとは何じゃ? まさか、火竜を屠れる魔導具でも開発できたのかの?」
「秘密です。ですよね、ユーティ様?」
アマリエの反応に違和感を持ったユーティは、彼女に顔を向けた。普段の彼女なら、このような場合は口を挟まず、スルーしていたはず。でも、わざわざ自分の方を向いて微笑んでいる?
「ん? うーん、そうだね。先の楽しみにしておこうか」
僅かに首を傾げつつも、当たり障りのない返答をしたユーティに対し、今度はシャテルが後ろから飛びついてきた。
「なんじゃとぉ? ユウよ、うちとの仲に隠し事は無しじゃろっ!?」
「ちょっ!? シャテル、歩きにくい!」
まだ成長途上とはいえ、それなりの柔らかさを持った肢体にぶら下がられてユーティは動揺する。
「シャテル様、そろそろ離れて頂けませんか?」
「あらぁ、押しくら饅頭でしょうか? 私も参戦しますぅ」
アマリエはシャテルを引きはがそうとしているが、ティエンは逆に全員に覆い被さるように抱きついてきていた。
色々触ってしまったり押しつけられたりで、収拾が付かなくなってきたユーティは、やむなく大きな声を上げて制止する。
「君たち、嫁入り前の身でそんなに男性にくっつくものじゃ無い!!! 一旦離れなさい!」
三人は、渋々ユーティから離れ、ニヤニヤ、あるいはニコニコしながら彼の顔を見つめていた。
「ふう……まったく、私だって男性だよ? 勘違いしてしまったらどうするつもりなんだ?」
――その瞬間、周囲は静寂に包まれた。
たっぷり10数えるほどの時間が経過した後、シャテルは一言、「い……」とだけ発した。
「い?」
ユーティは思わず問い返す。
「いま頃、それなのかのっ!?」
次の瞬間、静かな山中に、シャテルの叫び声が響き渡っていた。
「勘違いするも何も。うちはいつも、いつでも構わぬと言っておるではないか!」
「旦那様のお世話には、もちろん、褥をご一緒させていただくのも含まれますよぉ……うふふ❤」
「私は二人目でも三人目でも構わないとはユーティ様に申しましたが、やはりできれば一番の方が……」
口々に言い募る三人を前にして、ユーティは頭を抱えるばかり。
「そうは言っても、ハーレムでもあるまいし。どうしてこうなったんだ……?」
そこへそっとアマリエが彼の肩に手を掛け、耳元で囁きかけたのだった。
「諦めて下さい。どこをどう見ても、立派なハーレムパーティですよ、ユーティ様。いえ、ご主人様?」
◇ ◇ ◇
緊張感が削がれる一幕はあったものの、気を取り直して縦走を続けていたユーティ達は、ついに火竜の棲家と思われる洞窟の真上にたどり着いていた。
山の稜線、崖の上から頭を出して見下ろすと、絶壁の中腹にぽっかりと開いた洞窟が見える。洞窟の床には巨大な足跡が幾つも残っており、火竜が住んでいる事は間違いないように見えた。
「さて、いよいよだね」
ユーティは、アマリエ、シャテル、ティエンの顔を順番に見て回る。全員、程よい緊張感を保っているようだ。
「先程話し合った作戦通り、まず最初に降りるのは私とシャテル。そして、私たちが着地するまでは、アマリエ君とティエンで上空警戒を頼む」
「承知しました、ユーティ様」
「済まぬが、"浮遊"で降りている間は完全に無防備じゃ。よろしく頼むぞ」
シャテルの声に、アマリエは肯いて答えている。
「私達が着地したら、今度はアマリエ君とティエンが降下してくれ。ティエンはアマリエ君を連れて下ろせるね?」
「はあい、問題ありませんよぉ」
ティエンの答えを聞き、改めて全員の顔を見回すと、ユーティはパシンと手を一つ叩いて作戦開始を宣言したのだった。
「よし。では、始めるとしようか」
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