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26.賢者はメイドの希望を保留にする

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 特に「バージン魔王が~」は本作と関連が強い作品となります。

 早朝の噴水広場。アマリエはユーティに対し、欲を満たしたいのであれば自分を使って欲しいと提案する。しかしユーティはそれを言下に拒否していた。


 ユーティがアマリエの顔を見ると、それが悲しみに満ちている事に気付く。


「血に汚れた私では……お役に立てませんか」

「確かにアマリエ君のかつての職業は暗殺者だった。しかし、それは強いられてのこと。君に責任はない」


 ユーティは首を振って言葉を続ける。


「人を殺した数で言えば、私はアマリエ君とは比べものにならないよ。一人殺せば犯罪者、百万人殺せば英雄とは、よく言ったものだがね」

「ユーティ様……」


 アマリエの知識では、ユーティは二十五年前の戦争で、冒険者でありながら革新的な様々な作戦を提案し、王国の防衛に多大に貢献していた。確かに、彼が混沌の軍勢に与えた損害は、数百や数千では効かないだろう。

 ただそれは、民を護るための戦いであって、自分のように、邪悪な教団の手先となってその敵を暗殺していたのとは訳が違う。


 その"違い"を痛感し、気持ちが引けているアマリエの姿を見て、ユーティはなるべく優しい声に聞こえるように語りかけた。


「私は、君の気持ちは分かっている……と、思う。勝手な想像かも知れないが」


 ユーティの声を聞いて、アマリエは微かに顔を上げた。その顔を見つめながら、ユーティは言葉を続ける。


「その気持ちは嬉しいし、私も、ぜひ応えたいと思っている」

「では……?」


 アマリエは手を口にやり、目を見開く。


「この旅が終わったときに、総てのけりをつけたい。返事は、それまで待ってくれないか?」

「は、はい……はい! 分かりました」


 目を潤ませながら肯くアマリエの肩を、ユーティは軽く叩いた。


「さ、皆が待っている。宿に戻ろうか」

「はい!」


 そして踵を返して二、三歩歩いた所で、ユーティは背後からの声に足を止めた。


「一つだけ、お伝えしたい事があります」

「何かな?」


 そして、静かに笑みを浮かべているアマリエの言葉を待つ。


「私達のうち、誰かを()()ための保留なのでしたら、心配は無用です」

「つまり?」


 アマリエの言いたいことが理解できず、首を傾げるユーティ。

 彼に向かって、アマリエは満面の笑みを浮かべながら、自身の意志を伝えていた。


「私は、二人目でも三人目でも、別に気にしませんよ?」


 それに対してユーティは、赤面しながら「いやいやいや……」と誤魔化すしか無かったのだった。



              ◇   ◇   ◇



 その後、一行は街を出て目的地であるヴェルコール山地を目指していた。

 アマリエの告白の後でも互いの関係は余り変わっていなかった。ただ、アマリエとシャテルが互いに牽制しているうちに、ティエンが美味しいところを持っていく、といった展開が頻発するようになっていた。


 例えば、急流を渡らなければならなかった時の事。


「ユーティ様、川です」

「上流も下流も、しばらく橋は無さそうじゃの」

「じゃあ、どうにかして渡るしかないですねぇ」

「ふむ……」


 と、考え込むユーティ。川幅は10m程で、人の脚で跳べる距離ではない。


「ユーティ様、私にお任せ下さい」


 アマリエは、木に二本のロープを結びつけたかと思うと、ロープの束を抱えて川に向かって駆け始めた。


「はッ!」


 軽く声を掛けて跳躍するが、やはり距離が足らず、川に墜ちていく。


「はああああっ!!!」


 更に力の入った気合いの声と共に右足を蹴り出すと、何も無い空中で見えない足場があったかのように跳躍し、美しく一回転しながら向こう岸に降り立っていた。


「ほう、二段ジャンプか。面妖な術を使うのぉ」

「恐れ入ります。さあ、これでユーティ様もお渡り頂けます」


 アマリエは抱えていた二本のロープを同様に木にくくりつけると、ユーティに向かって優雅に礼を示した。

 渡したのが一本のロープであれば、それは曲芸並に難しい行為であっただろうが、足下と胸の辺りに二本渡されているため、これなら素人でも渡る事ができそうに見える。


「アマリエよ、ユウにそんな無様な格好で渡らせるつもりか。うちならば、こうじゃ!」


 ロープに歩み寄ろうとしたユーティを止めたシャテルは、身振りと共に高らかに詠唱を開始した。


「"汝、輝く(たてがみ)を持つ者。ダグが馬車を()き空を渡る者。父祖と汝が契約により、ここに現れ我が命に従うべし"――いでよ、スキンファクシ!」


 言葉に応じて、シャテルの目の前の空間が輝きに満たされる。そしてそれが消えたときには、太陽のように輝くたてがみを持った馬の姿が現れていた。


「これは……噂に名高い、五英雄シャテル様の天(かけ)る神馬ですね」

「うむ、まさしくその通りじゃ! ユウを渡らせるのにこれ以上の物はあるまい?」

「でも、なんだかご機嫌斜めなようですねぇ?」

「なんじゃとぉ!?」


 ティエンの指摘にシャテルがスキンファクシを見ると、それは四つ足を踏ん張り、いかにも不機嫌そうに顔を背けていた。


「あああああ、いかん、機嫌を損ねたままじゃったわ! こりゃ、首を下ろさんか!」


 慌てて(なだ)めに入ったシャテルだったが、スキンファクシは頑としてシャテルを乗せようとしない。

 ユーティはわちゃわちゃしているシャテルを苦笑しながら眺めていたのだが。


「あらあらぁ、これは時間が掛かりそうですねぇ。では、こうしましょう~!」

「え?」


 真後ろでティエンの声がしたかと思うと、突然、ユーティは自分が持ち上げられるのを感じた。


「なっ!?」

「旦那様、それじゃ、お運びしますねぇ~。暴れると落ちてしまいますよぉ?」


 ティエンはユーティを軽々とお姫様抱っこし、浮遊した状態で急流を渡り始めていたのだ。


「ユーティ様!?」

「なっ、ズルいぞ!」


 呆然と見送るアマリエとシャテルの前で、ふわふわと川を渡り、ユーティを地面に降ろすティエン。


「はぁい、到ちゃ~く! 良い子にしてましたねぇ」


 ユーティは何と答えれば良いか困惑しつつも、まずはティエンに礼を言うしかなかった。


「と、ともあれ、渡る事はできた。ティエン、ありがとう」

「いえいえぇ、お安い御用ですよぉ」


 そしてアマリエとシャテルは敗北に落胆しつつ、一刻も早く旅を再開できるように準備を急いだのだった。


「してやられました。ティエン様は、シャテル様より強敵かも知れません」

「ええい、スキンファクシよ! とりあえずうちだけでも運ばぬか! 置いてきぼりになってしまうぞ!」

 ご覧頂きありがとうございます。

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