25.賢者はメイドから希望を伝えられる
新刊3本同時投稿中です。下部にバナーを貼ってありますのでぜひご覧下さい。
特に「バージン魔王が~」は本作と関連が強い作品となります。
出立に備えて、宿屋の一室で早めに就寝した一行。全員が寝静まった深夜、ティエンはふと目が覚めてしまった。
(お手洗い……馬の頃なら、その辺でできたんですけどねぇ)
ふわふわと寝間着のまま空を浮かび、廊下に出てお手洗いに移動し、用を足す。
(眠い……早くベッドに戻りましょ)
ティエンは半寝ぼけのまま、ふわふわと幽霊のように廊下を移動して客室に戻り、ベッド上段の布団に潜り込んだのだった。
(暖か~い……おやすみなさいぃ)
◇ ◇ ◇
明けて翌日。
メイドであるアマリエの朝は早い。いつも夜明け時には目覚めて身支度を済ませ、朝食の準備に入るのが日課であった。
その習慣から、旅の途中でも一番に目が覚めてしまっていた。宿屋なので朝食の準備を行う必要はないが、もう一度寝直すのは性に合わない。
他の人々を起こさぬようにそっとベッドから抜け出したアマリエは、普段の装備である革鎧と、その上に着込むメイド服に着替え、桶を下げて静かに部屋の外に出て行った。
井戸で顔を洗い、ついでに身体を軽くほぐした後に、アマリエは綺麗な水を桶に汲んで部屋に戻ってくる。そしてついに、二段ベッドの上で寝ているユーティの様子を見に行ったのであった。
ハシゴを鳴らさないように静かに上っていくアマリエ。
「――――ッ!?」
そこで彼女が見た物は、ティエンと同衾しているユーティの姿だった。
ゆったりとした寝間着がはだけられており、たわわに実った胸の谷間がはっきりと見えている。
そしてユーティの頭がその間に抱え込まれるようにして抱かれていた。
アマリエの心臓が一瞬大きく打ち、反射的に腰の短剣に右手を走らせる。そして強烈な怒りと共に、瞬間的に殺気を迸らせてしまっていた。
それに当てられたのか、宿屋の外に止まっていた鳩や鴉たちが一斉に飛び立っていく。
「くっ!!」
その音で一瞬のうちに正気に戻ったアマリエは、そのままハシゴを駆け下りて廊下の外に飛び出していった。立て付けの余りよくない木造の床であっても、殆ど軋ませること無くハシゴから飛び降り、駆けていく。しかし、部屋から飛び出して扉を閉めた時に、初めてバタンという大きな音を立てていたのだった。
「敵襲!?」「なんじゃ!?」
殺気に気付き、飛び起きるユーティとシャテル。
「うわわわわわっ!?」
「うう~~ん……」
ユーティは何か柔らかい物に手を掛けながら起き上がったが、右手の先を見るとそれがティエンの胸である事に気付き、慌てて手を引っ込め、シーツを上から掛けておく。
「アマリエくん?」
周囲を見渡し、室内にいる人間を確認する。ティエンはここ、そしてシャテルは、眼下の床の上に立っている。
「今、飛び出していったのがそうではないのかの?」
「一体何事なんだろう?」
「ふむ、ユウのベッドを覗き込んでいたようじゃが」
首を捻るユーティに、彼が座っているベッドの上段を覗き見ようとするシャテル。ユーティはベッドの上のティエンの姿を見て、アマリエが見た物に気がついてしまった。
「これか……」
そして頭を一つ掻くと、ひらりとベッドの上段から飛び降りた。意外にも身のこなしは軽く、それほど大きな音を立てること無く着地する。
「済まない、探しに行ってくる」
「落ち着け、まずは着替え、じゃな」
ベッドの下段に腰掛けて靴を履こうとしている寝間着姿のユーティ。外出着をハンガーから降ろしたシャテルは、それを彼に向かって放り投げたのだった。
◇ ◇ ◇
大都市であるフライブルクであれば、走り去った人を当てもなく見つけるのは不可能に近いだろう。ただ、それほど大きくも無いこのアヴェニオの街では、それはそれほど難しいものではなかった。
ユーティがまずは大通りで行けそうな所を探していると、先日の試験でも使った中央広場に辿り着いた。もう試験用の設備は総て取り払われ、そこに古代白竜が出現していたと言う名残は残っていない。そして、まだ朝早い広場に、人の姿は無いように見えた。
ただ、広場を囲うように幾つか置かれていたベンチに、頭を抱えるように俯いて座っているアマリエの姿がある事にユーティは気がつく。
「アマリエくん、隣りに座っていいだろうか?」
声を掛けたが、返事は無い。ただ、断りの言葉も無かったので、ユーティは彼女の隣りにそっと腰を下ろしたのだった。
「申し訳ありません、ユーティ様」
「――何がだね?」
か細い声で謝っているアマリエに、ユーティは敢えて気がつかない風に答えた。
「動揺してしまいました」
「君はもう暗殺者じゃない。常に冷静であらねばならない理由は無いよ」
そして小さい声で付け足す。
「――あと、誤解だからね?」
「分かっております。ユーティ様はあのような状況で、手を出せる方ではございません」
そっと立ち上がったアマリエは、静かにユーティの背中側に回り込んだ。ユーティの後頭部に自分の胸を押し当て、ユーティを掻き抱くように両手を彼の胸に回す。
「あ、アマリエくん!?」
メイド服の下にソフトレザーを着込んでいるため、その膨らみを直接感じられるわけでは無い。ただ、ぎゅっと押しつけられているため、その中に十分な重量物が詰まっている事はよく感じられた。
「もし、そのような御用事がお有りでしたら、私をお使いいただけませんか?」
「だ、大丈夫だ!」
顔を赤くしながら立ち上がり、アマリエの方へ振り向いたユーティ。
「血に汚れた私では……お役に立てませんか」
その台詞を聞いたユーティは、アマリエの表情が悲しみに満ちている事に気付いたのだった。
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