24.賢者はSクラス任務を品定めする
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特に「バージン魔王が~」は本作と関連が強い作品となります。
冒険者ギルドを訪れ、応接室に案内されていたユーティ達は、ギルド職員にAランク以上の依頼は希望を聞いた上で、クローズドで案内されると聞かされていた。
「ふむ……そうだね。では、以下の条件の依頼はあるだろうか?」
ギルド職員の言葉に小さく肯いたユーティは、指折り数えながら条件をゆっくりとした口調で伝える。
一つ、依頼の達成確認が、この街から北方の街で行える事。
一つ、討伐依頼など、捜索の手間が少ない依頼である事。
一つ、報酬が現金である事。
一つ、モンスターレートの上限は20である事。
「に、20、ですか?」
条件を冷静に聞き取っていたギルド職員だったが、魔物の強さを示すモンスターレートを聞いたとき、初めて動揺した声を上げた。
「20を超えると流石に骨だからね。今回はそこまでリスクを負いたくない」
「そ、その、20でも充分伝説級の魔物の世界です。もしそのような魔物が出たとしても、冒険者ギルドに討伐依頼が来ると言うよりは、神に懇願して勇者を降臨させていただく事になるでしょう」
一つ咳払いをしたギルド職員は、気を取り直して机の上に置いたファイルをゆっくりと開いた。
「こほん、ご要望はお伺いいたしました。そうですね、ご希望を満たした依頼ですが……これと……これと、これ」
ギルド職員はファイルをぱらぱらとめくり、迷うこと無く三枚の用紙を取り出してユーティの前に並べる。
「こちらの三件となります。いずれも報告先不問、つまり、どの街の帝国冒険者ギルドでも報告可能な討伐依頼でございます」
ユーティは三枚の依頼書を取り上げた。他の三人もその内容を覗き込む。
「ふむ。ヴェルコール山地の火竜、推定モンスターレートは16。レ・ヴァンの迷宮に潜む、推定モンスターレート13の巨大目玉。そして、カーマーグ湿地帯で目撃された、推定モンスターレート15の巨大芋虫、か」
「報酬は金貨で1300枚、850枚、1100枚ですか。どれも豪邸が建ちそうな額ですから、路銀の問題は完全に解決しますね」
「ユウとうちの前では、どれでも大差ない相手じゃの。ユウよ、どれにする?」
「わたし的にはぁ、火竜とやらに格の違いを教育してやりたいんですけどぉ」
しばし考え込んだユーティは、心を決めて一枚の依頼書を手に取り、ギルド職員の方に差し出した。
「よし、これで頼むよ」
「ヴェルコール山地の火竜でございますね。ル・ジーヴ様と相対したユーティ様ご一行の実力を疑うわけではございませんが、他2種と比較すると、遠距離攻撃能力が鍵となりますのでご注意ください」
「ああ、大丈夫だ、問題無い」
ギルド職員の指摘に、爽やかな笑みを浮かべたユーティであった。
◇ ◇ ◇
冒険者ギルドを後にした一行は、旅行道具の買い出しに出かけることにした。
達成すれば莫大な報酬を得ることができる依頼を受注したものの、現時点では路銀に問題がある事に変わりは無い。少なくとも徒歩で移動しなければならず、道中では野宿も予想されていた。
もともと二人分は用意していたものの、シャテルとティエンという予定外の二人が増えたため、彼女達の分を用意する必要があったのだ。
「まあ、なるべく野宿はしたくないがね」
「私は慣れておりますので、問題ございません」
(待ち伏せで泥濘の中、三日間伏臥していた頃に比べると、天国同然です)
ユーティの言葉に、アマリエは脳裏で昔の光景を思い出しながら返答していた。
また、シャテルとティエンも、野宿に関しては問題無いようであり、肯定的に返答していたのだった。
「ユウと冒険していた頃以来じゃのう。懐かしいの」
「わたしもそれは同じですねぇ。馬でしたけどぉ」
雑談しながらも、一行は様々な道具店をハシゴして、寝袋に携帯食料といった旅行道具を調達を済ませていた。
そして宿屋に帰って夕食を済ませた一行は、客室に戻ってきていた。
ただ今回は、ユーティは女性陣の着替えを室内で待つ事は無く、その間、階下の酒場で時間を潰す事にしていた。着替えの際に身体を拭くこともできるだろうと、ついでに桶一杯のお湯とタオルを部屋に届けるように頼んでおく。
軽く呑んだユーティが部屋に戻った頃には、彼女達によって既にベッドの配分も決まっていたようだった。
二つの二段ベッドの二つの下段にはアマリエとシャテルが入り、上段の一つにはティエンが寝る事になっていた。
アマリエから寝間着と下着の替えを受け取り、ユーティは桶の方に向かいながら声を掛ける。
「すまない、身体を拭かせて貰うよ」
ユーティとしては向こうを向いていて欲しい、と言う意味で声を掛けたのだが、なぜか全員、ユーティの方に寄ってこようと言う構えを見せていた。
「ユーティ様、お拭きしましょうか?」
「そうじゃな、おんしは背中側を頼もうかの、うちは前側を担当するでな」
「わたしも、やりますよぉ?」
ユーティは慌てて断りを入れる。旅に出ている際、アマリエに背中を拭いて貰った事はないでもないが、年頃の女性三人に囲まれて、と言うのは流石に恥ずかしさが先に立ってしまう。
「い、いやいやいや、それはダメだろう!?」
「旅行中は拭かせていただいていたと記憶しておりますが」
「いつもわたしの身体を拭いてくれてたじゃないですかぁ」
「それは馬の頃の話じゃがな。ユウよ、綺麗どころに囲まれて、まるで王侯貴族のようじゃぞ? 遠慮するでない」
笑顔でにじり寄ってくる三人に、大きく手を振って拒否するユーティ。
「勘弁してくれ!」
「――仕方有りませんね。それでは、私一人の時にでも」
「へたれじゃのう」
「鷹揚に構えるのも器量ですよぉ?」
流石にそれほど無理に拭こうとは思っていなかったようだ。口々に文句を言いつつも、おとなしく引き下がってくれる。そして三人の気が変わる前にと、ユーティはそそくさと自分で身体を拭き、寝間着に着替えたのだった。
「それじゃ、おやすみ」
「おやすみなさいませ、ユーティ様」
「おやすみなさぁい」
「うむ、おやすみなのじゃ」
明日は朝早く出立しなければならない。ユーティ達は比較的早めに就寝する事にしたのだった。
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