19.賢者は古代白竜を打ち倒す
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特に「バージン魔王が~」は本作と関連が強い作品となります。
イセスにより召喚された古代白竜ル・ジーヴと模擬戦を行う事になったユーティ達一行。しかしアマリエの一撃により、見事ル・ジーヴの片目を潰し、一本の角を斬り落とす事に成功したのだった。
『ガアアアァァァァアアッ! 貴様ラァ、許サン、許サンゾォォォッ!』
残る左目で地面に落ちた自らのツノを確認し、怒り心頭に発して立ち上がるル・ジーヴ。
『不味いですね。怒りの余り正気を失っているようですよ』
「やむを得ん。これは止めんといかんのう」
このままでは周囲に被害をもたらしてしまうと、ついにイセスは腰を浮かし始めた。しかしその前に、ユーティが更なる命令を下している。
「シャテル、トールハンマー! 後頭部だ、手加減を忘れるな!」
「ったく、面倒な事を言いおってからに……」
愚痴りながらも右手を挙げ、詠唱を始めるシャテル。
「"汝、粉砕するもの。トールが愛用せし鎚にして聖なる炎を纏いし物。父祖と汝が契約により、ここに現れ我が命に従うべし"――いでよ、ミョルニル!」
言葉に応じて彼女の目前の空間に光が走り、虚空から巨人が使うような巨大な槌がわき出てきた。
「ミョルニルよ、あやつにガツンと一撃入れてやるのじゃ! ――殺さぬ程度にな」
空中をひらひら舞っていた神槌であったが、命令に従い、回転しながらル・ジーヴに向けて突進を開始した。最初はゆっくりであった速度が、次第に加速をつけて勢いを増していく。
『食ラウカァ!』
しかしそれも、右手を裏拳のように使ったル・ジーヴによって弾かれてしまった。ミョルニルは勢いを保ったまま空中に向かって飛び去ってゆく。
ユーティ達の方を向いて立ち上がり、腕を大きく広げて威嚇するル・ジーヴ。伏せていたときは3階建ての建物くらいの大きさであったのが、立ち上がると5階建ての塔が目の前にそびえ立っているように見える。
「小サキ人間ドモガァ、細切レニシテ……ガッ!」
そしてユーティ達に襲いかかろうとその右腕を振りかぶっていたのだが、言葉の途中でいきなり硬直してしまった。
次の瞬間、その巨体はゆっくりと横に倒れ始める。
初撃を外されたミョルニルは空中でUターンを果たし、ル・ジーヴの後頭部に襲いかかっていたのだ。
手加減するように命じられていたため、ミョルニルは直撃せずにル・ジーヴの後頭部をかすめただけだった。しかし、それでも十分な打撃力を持っていたようだ。
ついには、ズズゥンと小さな地震のような地響きと共に、倒れ伏したル・ジーヴ。完全に意識を喪っているように見える。
「よくやったぞ! ご苦労じゃった」
目の前に戻り、空中で回転して待機状態に入っていたミョルニルに対して、ねぎらいの言葉を掛けるシャテル。
ミョルニルは嬉しそうに数回舞うと、再び輝いて光の中に吸い込まれていったのだった。
◇ ◇ ◇
Sランク冒険者、イセスが呼び出した古代白竜ル・ジーヴと対戦し、見事勝利したユーティ達一行。
ル・ジーヴが昏倒した後、広場は静けさに包まれていたが、そこにぱちぱちと拍手する音が聞こえ始める。
「ユーティとやら、見事であったぞ!」
イセスが座っていた椅子から立ち、ユーティ達に向けて拍手を送っていた。
その声により、呪縛から解き放たれたかのように、観客からの歓声、拍手が怒濤のようにわき起こった。所長も遅まきながら、試合終了を告げる声を上げている。
「そ、そこまで!」
歓声の嵐の中、ユーティ達一行はお互いに顔を見合わせてにっこりと笑いあう。
「シャテル、完璧だ。よくやったな」
「うむ、朝飯前じゃ。もっと褒めてくれてもいいのじゃぞ!」
ユーティがシャテルの頭をなでると、嬉しそうに胸を張っていた。
「ティエンもよく護ってくれた。君の結界がなければ即座に反撃に移れなかっただろう」
「いえいえぇ、旦那様の指示通りにしただけですぅ」
ユーティにふらふら~っと近づいてナチュラルに抱きつこうとしたティエンであったが、さりげなくアマリエにガードされる。
「ティエン様、公衆の面前ではいささか破廉恥かと」
「ああん、いけずぅ~」
「アマリエくんに最も危険な役目を負わせてしまったね。ありがとう」
ユーティはティエンと自分の間に入ってきたアマリエに、彼女の肩を軽く叩きながら礼を言った。
「いえ、それほどでもありません。ユーティ様もご支援ありがとうございました」
ユーティに対して頭を下げたアマリエであったが、一瞬、何かを言いよどんでいるように見える。
「あ、あの……できれば、その、しゃ、シャテル様のように」
「ん?」
「い、いえ、なんでもありません」
アマリエの顔を見ると、ぷいっと横を向いている。
ユーティは少し考え込んだ。さて、彼女が求めている物は何か……? 一つ思いついたユーティは、早速試してみることにした。
「これで、いいかな?」
頭に手をやり、軽く二、三度撫でてみる。
「――ッ!?」
アマリエは一瞬びくっとなったが、そのまま体を硬くしているように見える。ただ、消え入るような声で礼を言ったように聞こえた。
「あ、ありがとうございます……」
ユーティは、試してはみたものの、これが正しかったのかどうか判断しかねており、所在なげに頭を掻くしか無い。ともあれ、アマリエは顔を赤くして、そそくさと後ろに控えて行ったのだった。
と、そこに、イセスとシャノンが歩み寄って来る。
「汝ら、そういうのは宿屋の部屋ででもやってくれんか?」
「あ、イセスさん」
あきれ顔のイセスに、ユーティは赤面しながら苦笑するしかなかった。
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