18.賢者は古代白竜と正面から戦闘する
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特に「バージン魔王が~」は本作と関連が強い作品となります。
ユーティ達一行は、模擬戦兼スキップ試験のため、Sランク冒険者であるイセスが呼び出した古代白竜ル・ジーヴと一戦交える事になってしまった。イセスの命によりユーティ達の先制攻撃を待ち受けるル・ジーヴに対し、一行はついに戦闘状態に入ろうとしていた。
「前進!」
ユーティの号令により、展開した一行はゆっくりと前進し、ル・ジーヴとの距離を詰め始めた。
待機を命ぜられたル・ジーヴは、首をゆらゆらさせながらもそれ以上動きを見せる事は無い。その後方で背もたれつきの椅子に足を組んで座っているイセスもまた、一行を興味深そうな目で見つめているものの、同様に動きを見せることはなかった。
およそ20mまで近づいた所で、ユーティはついにシャテルとアマリエに指示を出した。
「シャテル、攻撃魔法を。アマリエはまだ待機。隙を見て突進を頼む」
「うむ」「はい」
一声返事すると、シャテルはその場で立ち止まり、精神を集中して自らの目の前に手を掲げた。
「"マナよ、地獄の業火となりて、我が前に立ちふさがりし全ての愚か者に裁きを下さん"」
魔法の詠唱と共に、彼女の前面に大きく輝く魔法陣が形成され、彼女の魔力と周囲のマナを飲み込んで一気にエネルギーに変換される。
目の前で発動しようとしている攻撃魔法に、観衆のうち一般人はどよめきを挙げ、彼女が使おうとしている魔法のレベルが分かる冒険者達も、同様に感嘆の声を上げていた。
「――業火の息吹」
最後に力の言葉が唱えられ、魔法陣の中心から白く輝く灼熱の業火が吹き出して行く。
灼熱の奔流は進むにつれて拡散されていくが、それでも巨大なル・ジーヴの身体に対してはその一部、胸元を灼くに止まっている。
『グウゥッオォォォオオォォッ!』
とはいえ、流石に有効なダメージを与えているらしく、ル・ジーヴは痛みに身体を打ち震わせていた。
「む、なかなかの熱量のようじゃの。よし、フロストブレスで押し返せ!」
イセスの指示に従い、ル・ジーウは首をもたげて息を吸い込んだかと思うと、その口から細く絞り込んだ超低温のブレスを放ち、"業火の息吹"を押し返し始めた。
超高温と超低温の激突に、その衝突点から真っ白な水蒸気が吹き出し、周囲に濛々と立ちこめてゆく。
当初は互角の勢いであった"業火の息吹"であったが、先に発動した事もあってその放射は終わりかけていた。それに引き替え、ル・ジーヴのフロストブレスは勢いを増し、ついにユーティ達に迫ろうとしている。
「ユーティよ、もう持たんぞ!」
「ティエン、寒冷防御!」
シャテルの叫びに、ユーティは鋭くティエンに指示を飛ばす。
「はぁいぃ」
ティエンは素早く両手を動かし、最後に印を結んで術の言葉を発した。
「"隔冷屏障"♪」
術が発動した瞬間、フロストブレスが到達したが、術の効果によってそのブレスは左右に分かれ、ユーティ達の横を吹き抜けていった。
◇ ◇ ◇
ル・ジーヴのフロストブレスが終わってもなお、"業火の息吹"との衝突で発生した水蒸気によって、周囲の視界は全く閉ざされてしまっていた。
一瞬、膠着状態が発生していたが、ユーティはその隙を逃さず、鋭い声で指示を出す。
「アマリエくん。電光石火!」
「技名違いますってば!」
その声に応じたアマリエは文句を言いつつもル・ジーヴに向かって駆けだしていった。
「瞬歩……ッ」
真っ直ぐ向かっていった彼女であるが、少し目を細めて精神を集中し、技の名前を口にすると、その姿がまるで瞬間的にかき消え、少し離れた別の場所に出現する。
アマリエはそれを繰り返してあくまで一直線でありながら、迎撃の狙いが定まらないよう分散して突き進んでいった。
「ふむ、面白い術を使っておるな。よし、ル・ジーヴよ。邪魔な水蒸気ごと、翼で吹き飛ばせ!」
『承知』
イセスの指示に従い、白竜はその翼を大きく振り上げて羽ばたかせると、まるでいきなり台風がやってきたような暴風が周囲に吹き荒れた。
「くっ!」
至近距離まで接近し、いよいよ跳ぼうとした瞬間に、暴風によって体勢を崩され、たたらを踏んで踏みとどまるアマリエ。
ユーティ達も、その暴風に倒されないように踏みとどまるのが精一杯であった。
「ほうら、姿勢が崩れたぞ。もう一度、フロストブレスじゃ!」
イセスの指示により、白竜は首を振り上げて息を大きく吸い込んだ。そして、目の前にいるアマリエに対して、口を広げて今にもブレスを吹き出そうとしている。
アマリエは、まだ崩れた姿勢から回復しておらず、すぐには避けられる状態ではなかった。せめて転がり込んで、直撃を回避しようとしている所に――タ、タンッ!と、広場に破裂音が響き渡った。
◇ ◇ ◇
「ユーティ様!」
見ると、後方にいたユーティが、右手に持った拳銃状の物体を白竜の方に向かって構えており、その筒先からは一条の白煙がたなびいていた。
『オオォォォオオオゥゥゥッ!?』
ユーティが放った攻撃は、ル・ジーヴの右目と口内に命中したようだ。それぞれの場所から血を流し始めたル・ジーヴは、苦しみの余りのたうち回り始めた。アマリエは巻き込まれないようにバックステップで少し距離を取る。
「今のは何じゃ? ユーティとやらが右目と口の中に打撃を与えたようじゃが……攻撃魔法か?」
『魔導具の類いに見えますが、あの発動速度は異常ですね』
状況を確認しているイセス達を横目に、ユーティはアマリエに指示を下した。
「アマリエ君、今だ!」
ユーティの指示に従い、再び突進を始めたアマリエは、苦し紛れで振り回している両手の爪を"瞬歩"であっさりとかいくぐると、白竜の目前でぐっとかがみ込んだ。右手に握りしめた筒からは、小剣ほどの長さの緑色に光り輝く刃が出現している。
「殺すな! ツノを狙え!」
「はっ!」
アマリエは振り下ろされた白竜の右腕を足がかりにし、跳躍して白竜の首に迫る……が、更にそれも通り越して、白竜の頭の横を通過した。
右手の光の剣を振るった瞬間、ヴィンッ!と言った低周波音が一瞬聞こえたが、それ以上の手応えは無く、アマリエはしなやかに着地する。
しかし次の瞬間、断たれた白竜のツノがガランガランと言う音を立て、石畳の上を転がっていった。
『ガアアアァァァァアアッ! 貴様ラァ、許サン、許サンゾォォォッ!』
ル・ジーヴは残る左目で落ちた自らのツノを確認し、怒り心頭に発して立ち上がったのだった。
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