13.賢者は高ランク認定特例を勧められる
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特に「バージン魔王が~」は本作と関連が強い作品となります。
ユーティ達一行は、所長と呼ばれた中年の男によって、ギルド二階の応接室に案内されていた。
普段は中級以上の冒険者パーティとの打ち合わせに使われる部屋なのだろう。落ち着いた雰囲気の高級家具が並んでいる。そして一方の壁には、この地方を示す大きな地図が貼られていた。
所長はユーティ達にソファを勧めた後、自らもその対面に腰を下ろす。
「帝国冒険者ギルド、アヴェニオ出張所の所長を務めております、パウルと申します」
所長の挨拶に対し、ユーティ達一行もそれぞれ自己紹介を交えて挨拶を行った。
「ご丁寧にありがとうございます。フライブルクのユーティ・ミードと申します」
「うむ。シャテルじゃ」
「ユーティ様の使用人を務めさせて頂いております。アマリエと申します」
「ティエンと申しますぅ」
所長はユーティ達が書いた書類に軽く目を通した後、ユーティに向かって口を開いた。
「帝国冒険者登録をご希望いただき、ありがとうございます。王国から馳せ参じて頂けたと言うことは、魔王軍との戦いにご助力いただけると考えてよろしいでしょうか?」
ユーティは、どう答えるか一瞬考えたが、本当の事を語っても意味が無い事から、無難に肯定しておく事にした。
「ふむ、そうですね。正直申し上げて我々の王国とこの帝国は、国境で小競り合いを起こしたりする事もある間柄ではありますが……しかし、ここで魔王軍を止めておかなければ、次は我が国の番ですから」
ユーティが何気なく告げた嘘に、シャテルは微妙に口角を上げただけで目立った反応はしなかった。アマリエは完全に制御された表情を通し、ティエンはまるで気にしていない風情であった。
一方、所長は疑う節も無く、ユーティの言葉をそのままに受け取っている。
「なるほど、それも道理ですね」
「ただ、一つだけ――」
ユーティは、そう言いながら、所長に人差し指を一本上げて見せた。
「これは我々の国王陛下の与り知らぬ事です。ビシゴートの五英雄が、ではなく、一介の冒険者として参画している事にはご承知置き頂きたいですね」
「承知しました。我々としても、外交はその任にありませんから、その方が助かります。冒険者ギルドとしては、折り紙付きの実力者がいらっしゃったと言う事実だけで、十二分に喜ばしい事ですよ」
所長の返答に、ユーティは軽く頭を下げる。
「ご理解いただき、感謝します」
「それでは、今後は魔王領へ向けて旅を?」
所長の問いに、ユーティは壁に張られている地図に目をやった。魔王領が色違いで記されていて、魔王城が在る場所には×印が打たれている。
「ええ。魔王城への最短距離を辿ろうと考えています。と、言いたいところですが……」
軽く肩をすくめて言葉を続ける。
「路銀に不自由していましてね。なので、仕事を請けながらの旅になるでしょう」
「なるほど。事情は理解いたしました。で、あれば、極力高ランクで認定できた方がいいでしょうね。――ただ、申し訳ないのですが、この出張所ではCランクまでしか発行できる権限がございません」
「Cランク……まあ、それでも、Gランクよりはまともな仕事があるでしょうか」
ユーティの言葉に、所長は大きく首を振った。
「いえいえ、英雄と呼ばれた方をCランクで済ませる訳には参りません! 実は、特例がありまして――」
所長の言によると、上位の冒険者による試験を受ける事によってお墨付きが得られれば、タグとしてはCのままでも、そのお墨付きの範囲内での仕事が請けられる、と言うことだった。なお、タグそのものは、大都市の冒険者ギルドであれば、お墨付きを受けたランクで更新する事が可能であるため、ぜひ立ち寄って欲しい、と付け加えている。
「――それで、ですが。運が良い事に本日、Sランク、その中でも伝説級に凄腕の冒険者が滞在していましてね。彼女とお手合わせ頂けるでしょうか? ユーティさん、シャテルさんであれば、間違いなくSランクのお墨付きを得られるでしょう」
「彼女? 女性なのですか?」
「ええ、彼女も元々は他国からの来訪者ですが、帝国冒険者として類い希なる活躍を示されている方です」
ユーティの質問に答えると、所長は言葉を続けながら立ち上がった。
「さて、続きは彼女と同席の上でお話しさせて頂きます。腰を下ろした所で申し訳ありませんが、隣室までご足労願えますか」
◇ ◇ ◇
所長に先導されたユーティ達一行は、これまで入っていた応接室から出て、隣の応接室に向かっていった。所長がノックした後に付き従って中に入ると、その内装は先程の応接室と同様の作りになっていた。
ただ、違いとして、そこには先客が二名座っていた。
手前の一名は、人間なのか、年齢性別すらよく分からない。つまり、頭の先から足の先まで、余すところなく綺麗に全身鎧に覆われていた。ただ、その体格は少なくとも、人間の標準体型のように見える。
もう一名は、妙齢の美女だった。その年齢は、見るところアマリエと同程度である20歳頃に見える。
服装のみ見ると、この地方の女性がよく着ているディアンドルと呼ばれる、臙脂色の胴衣に同色のスカート、胸元が大きく開いた白いシャツにエプロンを組み合わせた素朴な衣装となっていた。素材もどうも絹やカシミアなどではなく、ただの亜麻であるようで、服装だけなら、その辺の普通の人と全く変わらない。
しかし、その衣服に包まれた中身が普通ではなかった。もともと、胸の部分が強調されがちな服ではあるのだが、彼女の豊かな胸はその強調に耐えうる質感を持っており、その上半分が晒されてもなお、布に隠れて見えない部分に、出番を待っている部分がまだまだ有るように見える。
組まれたすらりと長い脚を見ると、この辺りでは珍しい絹のストッキングに覆われていた。普通は農家や商家の使用人が着る服だけに、都会の貴婦人が穿くような絹のストッキングは、普通はあり得ない取り合わせだ。
血のように赤い、深紅の色を持った長髪は無造作に流しているが、まるでベルベットのように深い反射光を放っている。そしてその顔立ちは、少女から大人の女性に移り変わったその一瞬を示すかのように美しく咲き誇っていた。
ユーティ達の方を見詰めている、彼女の黄金色の瞳を見ると、それは軽く細められており――怒りの感情に満ちていた。細く整った眉をひそめつつ、濡れたように紅く光る唇を開いたかと思うと、所長に向かって叱咤の声を上げたのだった。
「遅いぞ! 余をいつまで待たせるつもりじゃ!」
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