10.賢者は着替えシーンをやり過ごす
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女性陣が着替えを始めるため、二段ベッドの上に追い払われてしまったユーティ。仕方が無いので腕を組んで窓の方を見ながら、なるべく気にしないように努力している間にも、下では女性同士での話が進んでいた。
「さ、着替えてしまいましょう。シャテル様は着替えはお持ちですよね?」
「うむ、勿論、自分の物は持参しておるぞ」
「ティエン様は……ありませんよね」
「そうですねぇ。着の身着のままですぅ」
「では、私の予備をお貸しします。少々サイズが合わないかと思いますが……」
アマリエの方からゴソゴソ言う音が聞こえる。恐らく、彼女のポーチから寝間着を二着取り出しているのだろう。彼女のポーチも、見た目より大量に入る魔導具であるため、長旅が見込まれる割には、大きな荷物を持たずに済んでいた。
「ありがとうございますぅ」
衣擦れの音からすると、どうやら全員着替えに入ったようだ。
なお、シャテルはゴシック風の少女用ドレス、アマリエはメイド服にその下は革鎧、そしてティエンは東方の薄衣と、それぞれ全く異なる服を身に纏っていた。
女性同士和気藹々と脱ぎながら、アウターからインナーに至るまで、お互いの服に関する品評会が続いているようだ。
「それにしてもお二人とも、全く戦闘用では無い装備を身につけられているのですね」
「私はぁ、いざとなれば、龍の姿に戻れますしぃ。――今はまだダメですけどぉ」
「うちは魔術師じゃからのう。ただ、おんしは前衛職と言えども、薄い方じゃないかの? うちが知っている前衛職は全員、金属鎧でガチガチじゃったが」
「防ぐのでは無く、避けるのが主任務の斥候ですので。でも、この網状のインナーもそうなのですが、意外に防御力あるんですよ?」
ユーティは覗かぬように頑張っていたため、彼女たちが交わす言葉から想像するしか無かったのだが、ついにはお互いの体型がよく分かる下着状態にまでなったようだった。
「それにしても……おんしら、つくづくでかいのう」
「背、でございますか?」
「胸じゃ、胸! 遠慮せんとぼよんぼよんしよってからに」
「シャテル様もすぐに大きくなりますよ。ティエン様の域に至るかどうかは分かりませんが……」
「努力して得た物ではありませんからぁ、なんとも言いようがないですぅ」
何というか、男性としては非常にもやもやとする会話が続いており、ユーティの居たたまれなさが最高潮に達してきた。
(ロビーででも時間を潰していた方が良かったかな……)
明日からはせめて部屋から出ていようとユーティが固く心に決めた頃に、全員寝間着に着替えられたらしく、ようやく下から声が掛けられたのだった。
「ユーティ様、ありがとうございます。もう大丈夫ですよ」
「あ、ああ。私も着替えさせて貰う事にするよ」
ユーティもベッドの上でそそくさと着替え、外出用の服をアマリエに渡してハンガーにかけてもらう。
「それじゃ、おやすみ」
「お休みなさいませ、ユーティ様」「うむ、おやすみなのじゃ」「おやすみなさいですぅ」
お休みの挨拶の後、窓際に置いてあった燭台の明かりを消し、帝国一日目の夜は更けていったのだった。
◇ ◇ ◇
明けて翌日。
朝一番に宿をチェックアウトした一行は、早速冒険者ギルドを訪れていた。
"帝国冒険者ギルド・アヴェニオ出張所"と書かれた看板の下にある、木製の大きな二枚扉を開けて中に入って行く。
中は少し広めのホールとなっていて、右側には依頼書が張られるボードがあり、奥には職員が座っているカウンターが設えられていた。左奥には二階に上がる階段が存在しており、その手前には軽く座れるように、座席が幾つか並んでいる。
依頼ボードには様々な出で立ちをした数グループの冒険者が張り付いていて、数多く張られている依頼の品定めを続けていた。
ユーティ達がドアベルの軽やかな音と共に室内に入ると、部屋にいた冒険者達の視線が、黒づくめの男性……は、ともかくとして、その後ろに続くメイド服、ゴシック調に極東の天女風の着物と、明らかに冒険者らしからぬ衣装を纏った、美しき女性陣に集中する事となった。
何人かの男性の冒険者は目が離せなくなり、更にその一部、つまり、男女混成パーティでは、彼らの傍らの女性冒険者に耳を引っ張られたり、頬をつねられたりして引きずられていく。
中の様子を見たシャテルが、小首を傾げながらぽつりと呟く。
「王国の冒険者の酒場とはえらく違うの」
「ここは帝国冒険者ギルド、つまり公営、お役所だからね。飲食もできないから、ここは依頼の斡旋や冒険者資格の管理に立ち寄るだけさ」
そう答えたユーティは、彼の目的である冒険者資格の管理を行う窓口を探して、素早く視線を走らせた。
「ふむ、あそこかな?」
奥のカウンターには、女性の職員が座っている窓口が三つほど見えているが、一番左端の職員の前には、"資格登録・変更"と書かれた木札がある事に気がついた。
ユーティはそちらに向かって革靴の音高く足早に近づいて行く。
なにやら書類を書いていた年若い女性職員――公務員らしく、こざっぱりとした揃いの制服を身に纏っている――は、目の前に立った人影に気がついたのか、顔を上げるとユーティに向かって微笑みを浮かべた。
「帝国冒険者ギルドにようこそ! どのようなご用件でしょうか?」
「ビシゴート王国からの冒険者です。こちらで冒険者登録を行えると伺ったのですが……」
「はい、こちらで大丈夫ですよ!」
元気よく返事した職員は、ユーティの後ろに並ぶ一行に目をやった。
「後ろの皆さんも一緒のパーティですよね?」
「ああ」「はい」「うむ」「そうですぅ」
「それじゃ、簡単にシステムを説明させていただきますね!」
口々に返される返事を聞いた彼女は、改めて元気な声を上げたのだった。
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