9.賢者は旅の理由を説明する
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予算の都合から、一室に泊まる事になってしまった一行。明日は冒険者登録を行うと言う方針が決まったところで、ユーティは斜め向かいのティエンの方を向いて座り直した。
「ところで、ティエン」
「はい、何でしょう~、旦那様?」
ティエンは小首を傾げて微笑みを返す。
「天界に帰参するために、私に仕えたいと言う希望を、先程伺ったと思う」
「はい~。確かに、私が帰参する条件として、旦那様に最後までお仕えすると言うのがありますぅ」
「それはまあ、私としては有り難いのだが……そもそもの、旅の目的をきちんと話しできていなかったと思う。まずはそれを聞いてから、このまま共に旅をするかどうか、決めて欲しい」
「そういえば、うちも旅の理由は聞いておらんかったの。うちに負けず劣らず出不精のユウには珍しい事じゃ」
横から口を出すシャテルの方をちらりと見てから、ユーティはゆっくりと彼の目的を口にした。
「我々の目的は、今日から60日以内に魔王城にたどり着くこと、なんだ」
「ほう、わざわざ他国にまで赴いて魔王を殴りに行くとは、まるで伝説の勇者のようじゃの」
茶々を入れるシャテルにひきかえ、ティエンはまだ無言で首を傾げている。黙って首を傾げている姿は、浮き世離れした蒼銀の髪もあいまって、まるで東方の絵画に出てきそうな風情を醸し出していた。
「私がそんな殊勝な人間じゃない事は、シャテルも知っているだろう? 世界のために魔王を倒そうとしているわけじゃない。極めて個人的な理由さ」
シャテルの茶々入れに返事をした後、ユーティは再びティエンに顔を向ける。
「魔王城に存在する筈のとある物を確認する事が目的で、戦闘は極力避けるつもりなんだ。ただ、非常に危険な旅である事は変わらないからね。せっかく馬の姿から解放されたのだし、ここで自由にして貰っても構わないのだが……ティエン自身は、どうしたいかな?」
ティエンは提案を聞くと、にっこりと笑みを浮かべて即答した。
「別れるなんて、とんでもない事ですぅ! なにより、馬から解放してくださった旦那様に恩義を感じていますからぁ、イヤだと言っても付いてきますよぉ?」
力こぶを作るように右腕を振り上げ、言葉を続ける。
「あと、こう見えても私、半神ですからぁ。大抵の事なら大丈夫ですぅ。もっとも、今はまだ力が回復していないんですけど……」
「そうか……ありがとう」
その返答を聞いて、ユーティは小さく頭を下げた。……その脇腹を、シャテルがつんつんとつついている。
「ん、なにかな?」
「うちには聞かんのかの?」
ニヤニヤしながら聞いてくるシャテルに、ユーティは少し苦笑した後に、改めて問い返した。
「あー……シャテルは、同行してくれるのかな?」
「うむ、ユウと旅ができるこのチャンス、逃すわけには行かんのう! 無論、どこまでも付き合うのじゃ!」
「――そうか、ありがとう」
即座に胸を張って宣言するシャテル。ユーティは笑みを浮かべながら、そんな彼女の頭を軽く撫でたのだった。
撫でられて満面の笑みを浮かべたシャテルは、どさくさに紛れてユーティにしなだれかかろうとする……が。
「あー、すまない、シャテル。少し重い」
と、素気なくあしらわれたのだった。シャテルは重いなどと言われて少し口をとがらせながらも、体重が掛からないように座り直す。もっとも、触れそうな距離である事には変わらないのだが。
最後にユーティは、アマリエの方に顔を向けた。
「最後にアマリエくんにも、今一度聞いておきたい。ここまで連れてきておいて今更ではあるのだが、君はそもそも私の危険な旅につきあう義務はない。希望するならば、ここから領主館に帰っても、もしくは、君自身の道を歩み始めても構わないよ」
アマリエはユーティの言葉を聞いて一瞬目を見開いたが、すぐに微かな笑みを浮かべて口を開く。
「出発する時にも言いましたよね? 悪魔教団に掠われてから10年。これまで、自分の意志で旅する事はありませんでした。初めて自分の意志で旅に出ているのです。付いていくに決まっているじゃないですか!」
そして微笑から苦笑に変わりながら、彼女は言葉を続けた。
「それに、お財布を握っているのは私ですよ? 只でさえユーティ様は普通の生活はポンコツなんですから、放っておけませんよ」
「そうだったな。すまない」
ユーティもアマリエに向かって苦笑で返し、お互いに笑いあっている。
――そんな二人の様子を、シャテルはその空色の瞳を僅かに細めながら見ていたが、それ以上特に反応することは無かった。
◇ ◇ ◇
話しておきたい事は話し終えたと感じたユーティは、一つ手を打ってから勢いよく立ち上がった。
「さて、明日は朝イチで冒険者ギルドに行きたいからね。今日はもう寝る事にしよう。ベッドの配分は……と」
と言った所で、アマリエが口を出す。
「ユーティ様は、そこの上のベッドをご利用いただけますか?」
「あ、ああ、構わないよ」
唐突な提案に少し驚いているユーティに、アマリエは更に提案を続けた。
「そして上がってから少しの間、下を見ないで頂けます?」
「どういうことだい?」
「その間に、皆で寝間着に着替えてしまいますので。――覗いちゃだめですよ?」
最後に笑いながら付け足したアマリエに、ユーティは若干挙動不審になりながら返事をする。
「だ、大丈夫だ」
その姿を見たシャテルが、にんまり笑いながら口を挟んで来た。
「うちは構わんのじゃがな」
「私もぅ、散々裸を見られてましたからぁ」
「だから、それは馬じゃろうがぁ」
そうは言われても、やはり覗くわけには行かない。ユーティは、急いで二段ベッドの上段に登り、そして、壁の方を向いて、彼女たちの着替えが終わるのを待ち始めたのだった。
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