5:長男は常識を忘れる
常識を忘れたので投稿します!
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――このダンジョンに閉じ込められてから三万年の時が経過した。
三万年なんて普通の人間なら廃人になっているかもしれないが、俺は長男だから無事だった。
もはやモンスターどもに殺されることはほとんどなくなった。
ついに同時に出現させられる『ファイヤーボール』の数は五千を突破し、ドラゴンすら一撃で倒すことも容易になってきた。
だけど、未だにこのダンジョンから脱出することは叶わない。
たしか、壁に向かってSランク魔法数百発分の火力をブチ込まないといけないんだったか。
何度も挑戦しているが不可能だ。表面を削ることくらいは出来ても、すぐに再生してしまう。
所詮、ファイヤーボールはFランクでもギリギリ使えるような火属性魔法・壱の型といったところか。
数千発打ってもSランク魔法数百発分には届かないようだ。
「ふぅー……落ち着け。俺は長男だ。長男は常に冷静じゃないといけない」
壁の前に座って気分を落ち着ける。
……最近はモンスターたちも俺を避けるようになってきたんだ。
せっかくだし、少し頭を使ってみようか。
「この三万年間、俺はひたすらに『ファイヤーボール』を磨いてきた。一発の威力は高められるだけ高めたし、数だって増やし続けてきた」
この方針に間違いはない。
数千発でダメなら数千億発も打てるようになれば、きっといつかは壁を壊せるようになるだろう。
だが、それまで一体何十万年かかる?
「はぁ……流石の俺も、十万年以上を耐えられる自信がない……」
ここまで俺を支えてきたのは長男として自覚だ。
そして、長男を長男たらしめる家族の記憶である。何十万年もそれが持つ保証はない。
「もしも俺が家族のことを思い出せなくなったら……俺が長男じゃなくなったら、きっとその時こそおしまいだ。
だからもっと頭を使わないと。ただ漫然と『ファイヤーボール』を放ち続けるんじゃなく、『ファイヤーボール』そのものに向き合わないと」
俺は手のひらから火球を生み出し、それをジッと見つめた。
「ファイヤーボール……思えばおまえとは長い付き合いになるよな。どれだけ時が流れても、おまえを使えるようになった日の感動はよく覚えているよ」
Fランクの劣等は魔法が使えないまま一生を終えることが多い。
それゆえに努力の果てに掴み取った『ファイヤーボール』は、俺にとって希望の象徴だった。
「俺はそんなおまえを信じ、ただひたすらに使い続けてきた。
……だけどそれじゃあダメだと思うんだ。考えなしに振り回しているだけじゃ、猿と変わらない」
そう。たとえば剣士は腕を磨くときに素振りをする。
もちろん効果はあるだろう。剣速は速くなるし威力も上がるはずだ。
だがしかし、それは筋肉が鍛えられ、肉体の動きが一定動作に最適化しただけなんじゃないのか?
要は身体が強くなっただけで、『剣』自体には向き合ってないんじゃないのか?
「今の俺はそんな状態だ。ファイヤーボールの威力は上がって消耗も少なくなった。剣士で言うなら技術が十分に身に付いた感じだろう。
ならば次は、武器の特性を理解しないといけない」
剣ならば刃渡りや重心がある。
それを理解することで、一番威力を生み出しやすい斬り方を習得できるようになるのだ。
「特性か……そう考えたら、そもそも『ファイヤーボール』って何なんだろうな」
魔法がほとんど使えないとされるFランクの者でも、火の粉くらいは指先から出すことが出来る。
そう、火の粉だ。ちゃんと燃えててそれなりに熱いし、形だって丸型に近いだろう。
ぶっちゃけ、もうその時点でファイヤーボールと言い切ってもおかしくはないはずだ。
「そう考えるとおかしな話だよな。俺たちは手のひら大以上の熱い火球を指して、『ファイヤーボール』と定義している。
でもアリとかからすれば火の粉の時点で十分『ファイヤーボール』だ。火の粉くらいの温度だって、虫からすれば十分だろう」
じゃあ『ファイヤーボール』って何なんだという話だ。
温度が何度以上ならファイヤーボールなんだ? 何度以下になったらファイヤーボールじゃなくなるんだ?
俺のファイヤーボールはかなり熱いし大きさもデカくなったが、もしかしてこれはもうファイヤーボールじゃないのか?
それを定義するのは、世間の『常識』というやつだ。
だがこのダンジョンには俺以外の人間はおらず、そもそも最後に人と会ったのは三万年前だ。
ならばもう、常識なんて捨ててしまっても構わないだろう。
そう思い込んだ瞬間、俺の中でパァッと迷いが晴れていくような感覚がした。
縛られていた思考にヒビが入っていく――!
「あぁ……もしかしたら人類は、勝手な思い込みに囚われていたのかもな……! 『ファイヤーボール』って、もっと自由でいいんじゃないか……!?」
そう、たとえば冷たいファイヤーボールがあってもいいはずだ。
魔法の炎は空気を燃焼して生まれる自然界の炎と違い、魔力を燃料に生み出されている。
ならば空気を燃やすほどの温度がなくとも、炎の形を保てるんじゃないか?
逆にすごく小さな形を保ったまま、温度だけは超高温を維持できるんじゃないか?
もしもそれが実現できたら、きっとすごい現象が引き起こせるようになるんじゃないのか!?
「おぉおおおっ、なんだかワクワクしてきたぞ!」
数千年ぶりに胸が高鳴るっ!
どうせ時間は腐るほどあるんだし、モンスターたちもダンジョンの加護を受けてすぐに蘇るんだ。ここなら実験し放題じゃないか!
「決めた。俺は、俺だけの『ファイヤーボール』を生み出してみせる!」
そうと決まったら実験開始だ。
俺はひさびさに笑いながら、モンスターたちに向かっていった。
「いくぞモンスターたち! そしてやるぞ、ファイヤーボール。必ずおまえを滅茶苦茶に改造しまくってやるからなッッッ!!!」
モンスターたち「やめて」
ファイヤーボール「やめて」
※ここから数万年、どっちも原型がなくなるくらい滅茶苦茶にされました。
そろそろ脱出です!
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