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09 忘れ去られる惨劇(後編)

     ※※







「ええっとですね、とりあえず話を――」


「んだてめこらー!?」


「すっぞオラー!?」


「なめてんのかコラー!?」



 黒塗りの車の窓から顔を出した金髪の男性が、いかつい構成員たちからの怒声を浴び続けている。ここへきてからずっとこの調子だ。

 『統語術』によって問題なく意思疎通は出来るはずなのだが、構成員たちは全くこちらの話を聞こうとしない。それでもせめて慈悲を与えたいと考えている男は、諦めることなく話しかけていく。



「まだ少しだけ時間があります。あなた方の中に――」


「うるせえぞパツキンイケメンが!」


「美女と同乗とかお高くとまってんじゃねーぞ!」


「兄貴から指示ありゃすぐに車ごとめちゃくちゃにしてやるからな!」


「……ああ、もう。落ち着いてくださいよ。ほらこれ、俺の名刺です」



 一向に静かにならない彼らに対して自前の名刺を手渡す男。一番近くの男がそれを乱雑にもらい受けると、そばにいた者たちを集めてそれを見始めた。

 そうやって静かになってくれるのであれば話を聞いてくれてもいいじゃないか。男はそう心の中で嘆きながら座席に深く寄り掛かる。すでに作戦決行まで時間はほとんど残っていない。可能な限り使える人材は確保したいが、今回は無理そうな気がしていた。

 大きなため息をつく男。左隣の運転席に座っているポニーテールが特徴的な美しい女性はそんな姿を心配しつつ、すぐ外にいる構成員に警戒を続けていた。

 


「お兄様は甘すぎます。決行せずともあんな『劣悪種』たち、消し飛ばしてしまえばいいのに」


「感情的になるのはよくないよ『ノイン』。どんな存在だって可能性はある。例え俺たち以外の『劣悪種』であっても」



 それを聞いて不満げな表情を浮かべながらもノインは渋々了承し、自らにできることに集中する。いつも通り素直ではない妹のその姿に男は少し笑ってしまった。

 『劣悪種』。自分たち魔術師やそれに匹敵する才を持つもの以外の俗称。聞き慣れ、言い慣れた言葉であっても男にとってあまり気持ちのいいものではなかった。

 誰にだって可能性はある。そう男は考えているからこそ、もうすぐ死が訪れる存在たちに救いの手を差し伸べているのだ。偽善であるかもしれないか、そうすることで生きながらえる命があるのは悪いことではないはず。

 そろそろ名刺を読み終えてもいいだろう。そう思った男は窓の方へと顔を向ける。しかし、その視線の先にあったのは変わることなく威嚇をし続ける構成員たちの姿だった。



「『ユリウス・ヴァン・ロンギヌス』? 『北米魔導連合ほくべいまどうれんごう』、『副長』? 知らねーよそんなもん!」


「ロンギヌスってあれか!? 神話的なアレか!?」


「宗教っぽくてやっぱり怪しいじゃねーかお前!!」


「……はあ。駄目か」



 火に油を注いだだけのようだ。構成員は読み終えた名刺を破り捨てると、丁寧に懐から取り出したライターで燃やして見せる。炭化したそれを革靴で踏みにじり、先ほどと同じように暴言を吐き続けた。

 救いようのない彼らだが、なおもユリウスは説き伏せようとする。しかし、時間が迫ったことで運転席の操作で窓が閉められてしまう。まだ早いと抗議しようと左を見れば、ノインが外にいる構成員を鋭い眼光で睨み付けていた。その迫力に気おされて兄であるのにも関わらずユリウスは縮こまってしまった。

 そろそろ最上階にて『会長』である彼が動き出す。ユリウスは予定通り、各車両に乗る今回の参加者たちに向けて右手の甲にある『共有方陣きょうゆうほうじん』を通して最終確認を行い始めた。



「予定時刻2分前。確認を行います。先頭第1車両、『ユリウス・ヴァン・ロンギヌス』」


「同乗、『ノイン・ヴァン・ロンギヌス』」


 

 運転席にいたノインも同様に『共有方陣』へと自らの名を述べた。それを皮切りに、他の参加者たちも名を告げていく。



『2番車両、『ダミアン・ゼペス・ロンギヌス』』


『そんな愛しのダーリンの妻にして同乗者、『リュシー・ゼペス・ロンギヌス』。第3は私たちの部下一同だよー』


『はい! ぎりぎり間に合いました! 『ギリー』だけに! 第4車両『ギリー・ヒル・ロンギヌス』ですよ!』


『同乗者『スミス・フィールドス』って臭いっ!? っていうか誰!?』


『お、同じく『マーブル・アーチネル』。せ、狭いっす』


『おっほ何これ? 皆その手の甲のキラキラで話してるのか? スマホよりお手軽そうだな。あ、新参者の『グランツ・ガターリッジ』でっす。よろしくお願いしますー』



 聞き慣れない活発な声と狭い後部座席で悶えているギリーの配下たち。苦しそうな声が聞こてくるが、残っていた人物が呆れたような声で告げる。



『第6の方も任されてる、第5車両の『マラート・ヴァシリエヴィチ・ロンギヌス』。もちっと緊張感持ったらどうだギリー。後で『アダムス』にちくるぞ』


『あーそれはご勘弁を。ほらお前たち、早く静かにしなさい。さもないと朝ごはん抜きにしますよ!』



 マラートの指摘を受けて叱るギリーだが、その言葉から緊張感は全く感じられなかった。これ以上言っても無駄だと分かったマラートは『共有方陣』の向こうからでもわかる程に大きなため息をつく。

 とりあえず確認は済んだ。手早くこれ以降の行動を見直していくためにユリウスが口を開こうとしたが、ビルの最上階付近から異変を感じ取ったことでそれは開く前に止まってしまった。

 昔ながらの怒り。多くの存在の動揺。それから察するに、予定よりも早く『彼』が動き出してしまったようだ。この組織のトップがよほど気に入らないことをしたのだろう。

 こうしてはいられないとユリウスが各個に動き出すように伝え、自らの目で車の外を確認しようとしたときに上空で異変が発生した。


 

 凄まじい破砕音と破裂音。遅れてやってガラス片と血と内臓物の雨が周囲に降り注いだ。障壁が張ってあるために車は無傷だが、近くにいた構成員たちの何人かがが落ちてきたガラス片に切り裂かれてその場に崩れ落ちる。 

 痛みに苦しむ声を聞きながら、ユリウスたちは車から出ると各々の持ち場へと移動を開始していく。このビルの出入り口を任されているのはユリウスとノインだ。

 近くにいたまだ辛うじて息のある者へと屈みながら手を伸ばすユリウス。そんな彼に対して奇跡的に無傷だった構成員の内の1人が、惨状を目の当たりにして怒り狂いながら懐から取り出した拳銃を向けてきた。



「死ねパツキン!」



 感情に抗うことなく構成員は引き金に指をかける。しかし、ユリウスの注意がそちらに対して向けられることはなかった。

 


「あがっ――」



 突如構成員の足元から炎の渦が巻き起こり、その全身を瞬く間に飲み込んでいった。断末魔さえあげることができず、圧倒的な火力でその体の芯から燃やし尽くされていく。

 その光景に驚く他の構成員たち。怯える彼らも同じように次々と発生した炎の渦に呑まれていく。肉の焦げる悪臭が漂う中で、ノインが人から炭へと変わっていく彼らを鼻で笑った。



「お兄様への手出しはノインが許しません。汚らわしい物は燃やすに限ります」



 そう言い放ったノインの手の平には小さな炎の塊が形成されている。その塊の内側には、このビル手前の場所が映し出されていた。

 最上階においての多数の発砲音と悲鳴は地上でもはっきりと確認することができた。一方的な虐殺に近い戦闘が繰り広げられているのは明白。『彼』と『彼女』に一般人がかなうはずがない。

 1階にて待機していた構成員たちも異変を察し、こちらを敵だと断定して迷うことなく発砲してきた。勇ましい声を上げる彼らだが、炎の塊に捕捉されて次々とその身を焼き尽くされてしまう。

 ユリウスはそんな中で手の先にある人間だったものの顔を確認した。真っ黒なのではっきりとは確認できないが、死ぬことによる恐れではなく、痛みから解放されたことに安心するような表情を浮かべているようにも見える。

 これでよかった。『劣悪種』の1人であった存在の魂が無事に天に消えていったことを確認したユリウスは、ゆっくりと立ち上がった。その目は、静かになり始めた上層階へと向けられている。

 今日もこうであったように、これからもこうしたことは続く。いうなれば神に近い自分たちの所業は許されることではないと分かっている。逃げ出したくても、もう遅すぎてしまった。

 過去と未来に思いを馳せるユリウス。自らも1人の人であることを自覚しながら、友であり、『北米魔導連合ほくべいまどうれんごう』を統べる男のために動き出すのだった。







     ※※








「『イブ』。片付けと『詠巫女よみのみこ』を頼む」


「分かったわ、『アダムス』。さあ、行きましょうか」


「はい。ありがとうございます……」



 歩けば靴の裏が赤く染まる中を『アダムス』の指示に従って『イブ』は今回の救出目標であり、最重要人物の『狐耳』の女性を連れていく。

 礼を言った彼女だが、体をイブに支えられねばまともに動くことができなかった。強姦されそうになった恐怖よりも救出に来たアダムスたちの戦闘を見て戦慄し、腰をぬかしてしまったからだ。

 先ほどまでの激しい殺戮に近いものが終わり、静まり返る部屋。唯一の生き残りである若頭は、自らの部下たちの血にまみれて力なくその場に崩れ落ちている。

 右腕と同様に体を木っ端微塵に吹き飛ばされた者。綺麗に首から上を消し飛ばされた者。未知の攻撃の数々をくらって苦しみぬいて息絶えた者等々。見るも無残な状態の構成員だった存在が転がる部屋には、真っ赤に染まった地獄のような光景が広がっていた。

 この世とは思えない状況。そこにおいて軽蔑の目で見降ろしてくる眼前の存在が全く血で汚れていないことがさらに若頭を恐怖させている。パンツから滲みだすのが止まらない液体は、豪勢な絨毯に新しいシミを作っていた。

 普通であれば間違いなく、返り血で真っ赤になっているはず。それに銃も効かなければ、刀で切り付けることすらできない。こんな存在がこの街に、というか世界にいるなんて知らなかった。慄く若頭は絶望しながら、もう逃げることは出来ないことを確信していた。

 イブが去った後、窓からゆらりと全身を黒いマントで覆った人型の存在が数体入り込んできた。不気味に揺れる存在たちは、各々に懐から取り出した掃除用具を駆使して乱雑に掃除を開始していく。

 この世とは思えない現実に直面し、自らも部下と同じような地獄を見ることになるのかと悲嘆に暮れていると、部屋の中に大柄の男が入ってきた。

 雪のように白い肌だが、大きく隆起した筋肉によってスーツがはち切れそうになっている。野性味あふれる肉体、そしてオールバックにまとめた綺麗な金色の髪がいかつさをさらに助長させていた。

 部屋全体を苦笑いしながら見渡した後、若頭のところへとやって来た男。頭一つ分ほどの身長差のあるアダムスを見下ろす形で話しかけた。



「こりゃまた派手にやったな」


「マラートか。片が付いたのか」


「もうビルには屍と塵しかねえよ。今地下の抜け道に逃げ込んだ連中を掃除中。各地での抹消作業も順調だそうだ」


「ご苦労。では手筈通り、『詠巫女よみのみこ』を本部まで警護してくれ。後はギリーと私でこいつを始末して、ユリウスたちと帰還する」


「あいよ。終わった後は一杯やるつもりだがどうする? お前の好きな『獺祭だっさい』もあるぞ」


「……そうだな。久しぶりに飲むか。準備を進めておいてくれ」


「おう!」



 嬉しそうな返事をするとマラートは扉からではなく割れた窓から地上へと飛び降りた。驚く若頭をよそに、かなりの高さをものともせずに着地して警護車両へと近づいていく。

 新たに信じがたい光景を目の当たりにしてだらしなく口を開けてしまっている若頭に、アダムスはさらに距離を詰めた。自らの番が来たと思った若頭は震えあがることしかできない。

 威勢のよかった先ほどまでの姿とはまるで違う情けない姿。滑稽だが笑う気にもなれず、ただ冷ややかな視線をアダムスは浴びせ続けた。



「怖いか。恐ろしいか。恨めしいか」



 ゆっくりと語られたことに素直に頷く若頭。哀れな様子にアダムスは屈んでさらに顔を近づけ、無造作にワックスで固められた髪の毛を掴む。



「ならばその思いをさらに高めるがいい。それが貴様にできる償いであり、我らの主のためにもなる」


「ある……じ?」


「偉大なる存在、『創造主そうぞうしゅ』。貴様の負の念があのお方の糧となる。その命は果てるまで、少しでも役に立ってもらおう」



 宗教じみた物言いだが、その発言と様子から一切冗談ではないことを理解してしまった若頭は、震える声で問いかける。



「ま、待てよ。待ってくれ。部下も殺しつくしたならもういいじゃねえか。せめて東京にいる親父と――」


「御一行の到着でーす」



 突然響き渡った意気揚々とした声。それを聞いたアダムスは立ち上がり、声のした後方を見る。

 そこにいたのは満面の笑みを浮かべたギリーと配下の2人。そして、今回使用する若頭と深い関係を持っている男性と女性がいる。

 見覚えのある姿を見て若頭の顔が青ざめていく。男性は『極楽往生ごくらくおうじょう』の組長であり、女性は若頭の大切な妻だったからだ。みずぼらしい服を着た両者とも酷く痛めつけられて体中にあざが出来てしまっており、その瞳はどこを見ているか分からない虚ろなものだった。

 彼らを見てこれから起こることを予想出来てしまった若頭。力の入らない体を引きずってアダムスの方へと近づき、その目に涙を蓄えながら訴える。



「悪かった! なあ悪かったって! ここに来たこと、あの女に手を出したこと、俺が死んで詫びる! だからっ!?」



 必死の行動の最中で若頭は空中に突然形成された黒い物質に首から下を包み込まれ、壁へと叩き付けられた。衝撃による痛みは凄まじいものだったが、それ以上に大きい悲痛な思いを吐き出し続ける。



「止めろ! 親父も、そいつも悪くない! ここに来ようと決断して、行動したのは俺だ!」


「こうなることは決まっていた。もういい加減に諦めろ」


「……もしかして、ここに同属がいないのはお前らが駆逐してたからか」


「そう考えてもらっていい。面倒な連中はこの街にはいらないからな」



 冷徹な目を向け続けながら語るアダムス。そこに映る若頭の表情には深い絶望が形成されていた。

 これまで大きな釣り針に食らいつき続けて成長してきた組織が、ここにきてとんでもないものに釣り上げられてしまった。もう自分だけでなく、組織全体に危険が及んでいることを学のない頭でも理解できる。

 何だかんだでやりたい放題やって、心の底から楽しんでいた場所がなくなる。若頭の追い込まれた心が端のほうからゆっくりと瓦解をしていく。それを『透視術』で確認したアダムスは、ギリーとその配下に向けて頷いた。

 合図を受けた3人はすぐさま準備に取り掛かり始めた。配下のスミスとマーブルが大きな長テーブルに盛り付けられた豪勢な料理の数々を光とともに丁寧にどこかへと消し去っていき、手早くその上を取り出した清潔な布で拭いていく。ピカピカになったところで満足そうに汗を拭うと、組長と若頭の妻を抱え上げてそこへと乗せた。

 そのテーブルを囲むようにして素早く空中に魔導陣を展開していくギリー。いつも以上に楽しそうな彼を不思議に思い、アダムスは問いかける。



「何かいいことでもあったか?」


「ええ。良い戦力となる存在を確保できたんですよ。車で待機している彼が、『クリーンズ』の将来で活躍する姿が楽しみで楽しみでしょうがないんです」


「そうか」



 『クリーンズ』とはギリーが任されている実行部隊のこと。前々から戦力を補強したいと要望があり、今回その願いが思わぬところで叶ったようだ。

 嬉しそうにしながらも進めていた作業はあっという間に終わり、テーブルの上に座る男女とそれを全方向から円形魔導陣が取り囲むという異様な光景が作り出された。

 各部の確認が済んだことを配下から報告されたギリーは頭上に両手で大きな円を作って準備完了だということを伝える。場違いな明るさを見て少し呆れながらも、壁に貼り付けになっていた若頭の方へと向き直る。



「すでに我が同胞たちが貴様だけでなく、貴様が所属していた組織に属する者、そしてその家族に至るまで全てを抹消するために動いている」


「……何?」


「地獄に血縁者と一緒に仲良く旅立てるのだ。ありがたく思え」


「――っざけんな! そこまでする必要があるのか!」


「ある。『劣悪種』が踏み込んではいけない領域まで来た。これは当然の処置以外のなにものでもない」


「こんの……! この野郎……!」



 涙を流し、拘束から抜け出して目の前のアダムスを殴りたい若頭だが、黒い物質はびくともしない。憎悪に満ちたその姿をアダムスは満足そうに見守っていた。

 罵倒と断末魔が部屋に響き渡る中で、アダムスは指を鳴らす。それを聞き、ギリーは各魔導陣を稼働させ始めた。

 赤く鈍い光を放つ魔導陣からいくつものチェーンが伸び、先端に取り付けられたフックが体の表面をを貫いて引っかかる。意識を朦朧とさせていた組長と妻も、全方向から外側に向けて皮膚と肉が引かれることによる激痛でようやく自我を取り戻し、尋常ではない断末魔を上げた。

 綺麗だったテーブルは彼らの流す血で真っ赤に染め上がっていく。目も当てられない惨すぎる光景をギリーは心の底から喜び、その場で拍手をしている。



「ギリー製処刑方第2弾です! ああ、惨たらしいです、ホリブルです、痛々しいです! しかしながら痛みこそが究極の快楽になるはずですよ!」


「ああ……、駄目だ、そんな……!」



 大切な存在が苦しむ姿を見たくない若頭は目をつぶる。しかし、塞ぐことのできない耳からは彼らの悲痛な叫び声が延々と聞こえてしまう。

 こんな死に方があっていいのか、許されるものなのか。もう見たくない、聞きたくない。いっそのこと死んだ方がマシだ。

 ぐちゃぐちゃになる心でそう決断した若頭はその場で舌を噛み切ろうとした。しかし、口の中で何かが邪魔をして力をこめることが出来なくなっていた。やがて閉じていた目も無理矢理こじ開けられ、その視界には地獄のような光景が映し出される。



「いやだ。嫌だぁ! ああ! ああああ!」



 人としての形が少しずつ崩れ始めている。痛みで気を失わぬように調整されているがために、組長と妻は悲鳴を上げ続けていた。耐えがたい惨状に若頭が発狂寸前まで追い詰められたところで、近くにいたアダムスがゆっくりとつぶやく。



「安心しろ。この後お前も同じように殺してやる」


「そんな、そんなのって、ああ、ちくしょう!」


「はい、それではフィナーレと参りましょう! 一斉に強く引きますよ~。はい、せ~の――」


「やめろおおおぉぉぉぉぉぉ!!」



 若頭の叫びと肉を引きちぎる音は、ビルの最上階だけでなく街全体に広がっていく。まるで見せしめのように。

 しかしながら日が昇った頃には街の住民の誰もがそれを覚えておらず、ここでアダムスたち魔術師が活動した痕跡は一切残ることはない。全ては組織内の分裂による同士討ちとして世に知れ渡ることとなる。日本において姿を消した多数の存在も、謎の失踪として片づけられるだろう。彼らの行動が、意思が、表舞台に出ることはない。それが決定事項であり、揺るがぬ『アダムス』の意思だ。

 歯向かう存在を根絶やしにし、アダムスはいつもと変わることなく、自らを見守っている絶対的な存在に思いを馳せる。




――全ては、『創造主』の御心のままに

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