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第二十話

「もう行ってしまうのね」

「必ず無事で帰ってくるんだぞ」

「約束守ってくださいね、姉上」

 最初は遠慮をしていたのだが、こればかりは譲れないと魔物討伐の朝、家族総出で見送られることになった。ミアカーナには寝起きにエマが魔物討伐へ出向くことを伝えたらしく、瞳には涙がいっぱいたまっていた。朝から心臓に悪いことをしたと思い、ミアカーナの髪を撫でた。

「お姉様……」

 ふわふわの桃色の髪を宥めるように撫でるが、逆効果だったみたいで頬に涙が伝ってしまう。涙を人差し指で拭うときに、ミアカーナの耳にエマが贈ったピアスが飾られているのを見つけた。

 自身の耳を指さし、ミアカーナに話しかける。

「つけてくれたのね」

「もちろん、ですわ。ほ、本当に、行ってしまうんですの?」

 涙を溢しながらも、まるで小さな子供のように治癒魔法師の制服に身を包んだエマに抱き着いてくる。

「ええ、行くわ。でも安心してちょうだい。絶対に私は無事に帰ってくるわ。そのためにウィリアムもついてくるし」

「ミアカーナ様、お任せください。この命に代えましても、お嬢様をお守りいたします。懐には様々な物も今回のために忍ばせてありますので」

 ミアカーナもウィリアムの強さは知っているはずだ。ウィリアムに命を懸けさせるつもりはないが、ミアカーナが安心するならとその言葉を訂正することを止めた。

 また場を和ますためなのか、ウィリアムは懐からナイフや布、ロープや保存食等様々な物を出してみせた。

「ワトソン君、それは必要なものなのかしら? というより、どこに入っていたのよ……」

 呆れた口調で突っ込めば、至って平静な答えが返ってくる。

「備えあれば憂いなしですよ、エマ様。それに今回はエマの様の護衛ですので。準備は万全にしておきませんと」

「そう……」

 まるで数日サバイバルでもするかのような装備に、言葉を無くしていると、ふふ、とミアカーナの笑い声が聞こえた。

「ウィリアムがここまで準備をしてくれているんだもの、安心ね。ねぇお姉様、帰ってきたらお話がたくさんしたいわ。だから帰ってきたら……私の話を聞いてくれる?」

「もちろんよ。たくさん話しましょう」

「約束よ?」

「ええ」

 ミアカーナを安心させるように再度強く抱きしめ、両親やリカルドとも抱擁を交わす。両親やリカルドの耳にも、エマが贈ったピアスがつけられていた。

(家族全員がつけてくれているなんて、本当に嬉しいことね)

 つけているところを目にするだけで、胸が熱くなる。それだけで治癒魔法師として同行する魔物討伐も頑張れる気がした。

 今日ばかりは乗って行きなさい、とハリーが用意してくれたフォルモーサ公爵家の馬車に乗り込み、窓を開けて家族に手を振る。ロゼッタとミアカーナの瞳には涙がたまっていたが、それでも手を振って見送ってくれることに、嬉しくて家族の姿が見えなくなるまでエマは手を振り続けた。

 王城に到着すると、ピリピリとした空気を王城全体が纏っているのを肌で感じた。騎士団に所属する騎士の約半分が、命を懸けてこれから魔物討伐に出向くのだ。この雰囲気も仕方がないだろう。

 馬車から外へ降りる前に、自身の耳についている二つのピアスを親指と人差し指で触る。そこには家族でお揃いのピアスともう一つ、レオナルドからもらったピアスが飾られていた。レオナルドからもらったピアスをつけるどころか、机の引き出しから出すのは、実に五年振りだった。小さな箱から取り出したそれは、五年前の記憶と全く同じ姿形をしており、全く色褪せていなかった。互いの瞳の色の宝石をあしらったピアスなので、エマの持つピアスにはエメラルドが嵌められていた。

(あれほど見るのも辛かったのに……)

 好きという感情を抑えなくなった。ただそれだけで、見ることも、身に着けることも、辛くはなかった。むしろつけていて、安心感まで生まれてくる。家族とレオナルドに近くで見守られているような気持ちになった。

 両方の口角を上げ、よし、と頷く。

 馬車の外では侍従の制服ではなく、動きやすい服装を纏ったウィリアムがエマを待っていた、服にはフォルモーサ公爵家の紋章が施されており、ハリーが支給してくれたものであると推測できる。これはウィリアムの実力をフォルモーサ公爵家が認めていると公言しているものであり、ウィリアムが平民出身だとしても、誰も馬鹿にはできない。

 ハリーの気遣いに心の中で礼を告げ、ウィリアムの差し出した手を取って、馬車の外へ出た。

 集合場所は鍛錬場と指定されていたので、いつものようの真っすぐな足取りで歩いていく。鍛錬場に行くイコール魔物討伐というのは、王城で勤める者の中では共通認識らしく、通りすがった貴族やメイドたちから、驚きの表情で見られていることに気がついた。フォルモーサ公爵家とは関係ない身になったとはいえ、まさか現公爵の娘が魔物討伐に同行するとは思ってもみなかったのだろう。

 それらの表情に反応するのも面倒臭く、見なかったことにして無視を決め込む。ただ、エマが魔物討伐に同行したあとに噂が広がり、レオナルドの耳に入ったことを考えると複雑な気持ちになった。

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