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第十八話

(でも、あれから五年も経ったのよね。性格も私が知らないだけで、少しずつ変わっていったのかもしれないわ)

 根本的な性格は変わらなくとも、周囲の環境で性格は変わるものだ。エマも気がついていないだけで、性格が昔とは変わっている部分があるのだろう。

 エマが勝手に頭の中で性格の変わりように納得をしている間にも、ウィリアムとレオナルドの話は進んでいたようだ。しかもなぜか先程よりも険悪なムードになりつつある。

(いや、険悪だけれど、なんていえばいいのかしら。……子どもの喧嘩?)

 二人の会話に耳を傾けてみると、そうとしか表現のしようがなかった。

「だから僕は、エマと話をしたい。ただそれだけなんだよ。屋敷に上がる許可は公爵にも取ってある」

「ですがお嬢様は、あまりお話をしたくないようですよ」

「それは君の考えでしょう? エマから直接聞いたわけじゃない」

「態度でお分かりになられませんか?」

「君が遮ってるからね。エマの姿を見せてくれたらわかるかもね」

「では雰囲気で察してください」

 内容こそ違えど、小さい頃のミアカーナとリカルドの口喧嘩にそっくりだ。そのことに気がついてしまい、笑いが込み上げてきた。どうにか我慢をしようとするが、どうにも笑いを堪えることができず、ふふっと口から笑い声が飛び出してしまった。

 エマの笑い声に、口喧嘩が止まる。

「お嬢様、なぜ笑っているのです?」

「エマ、僕は君と話したくて君の侍従と話をしているんだけれど」

 ウィリアムが体ごと振り向いて、眉を寄せながら不思議そうな顔を見せてきた。ウィリアムが振り向いたことによって、レオナルドの姿も見えることになり、レオナルドもウィリアムと同じような顔をしていることがわかる。たったそれだけのことなのに、再び笑いが込み上げてくる。

 これほど笑ったのは久しぶりかもしれない。

「ふふ、だってレオナルド殿下とウィリー、話しているというより口喧嘩していると言った方が正しいんだもの。まるで小さい頃のミアとリカルドの口喧嘩を聞いているようで」

 失礼かもしれないと思ったが、レオナルドがこれくらいのことで怒らないとエマは知っている。性格は年齢とともに多少変われど、根本的なところが変わる人はそうそういないはずだ。

 エマの言い分に二人とも思うところがあったのか、互いに一瞥をして、目を逸らした。そんなところもそっくりだったのだが、言いたくなる気持ちを我慢して、気持ちを紛らわせるようにこほんと咳をつく。

「ウィリー、間に入ってくれてありがとう。私、きちんとレオナルド殿下とお話をするわ」

 そう思えたのは二人の口喧嘩を聞いて、どこかレオナルドに対して気が楽になったからなのかもしれない。

「……よろしいのですか?」

 その一言にウィリアムの心遣いが見て取れる。ウィリアムを安心させるように微笑んで頷き、感謝を告げる。

「ええ。でも後ろに控えてくれていると助かるわ」

 でも二人きりになるのは勇気がいる。そこでウィリアムにお願いをすれば、最初からそのつもりだったようで、もちろんですと返事が返ってきた。

「レオナルド殿下も、ウィリアムがいてもよろしいでしょうか?」

 しかしウィリアムに許可をとっても、この場で一番位の高いレオナルドに許可を取らなければ意味がない。

「彼がいることでエマが僕と話をしてくれるのなら。それくらいは妥協しよう」

「ありがとうございます」

 レオナルドの許可を取ったところで、場所を移動することになった。レオナルドはここでも構わないと口にしていたが、さすがに芝生の上に直接レオナルドを座らせるのは躊躇われた。

 そこで同じ庭に設置してあるテーブルの方へ移動することになった。レオナルドを案内してきた使用人が近くに控えていたので、お茶と軽く摘まめるお菓子の用意を指示していた。さすが公爵家というべきなのか、エマたちが腰を下ろして数分も経たないうちに紅茶と美味しそうなお菓子がテーブルに置かれる。もしかしたらレオナルドが来訪した段階で、用意をしていたのかもしれない。

 互いに紅茶を口に含み、喉を潤したところで、レオナルドが話を切り出してきた。

「エマはもう……体は大丈夫なの?」

 出会った時と同じ言葉が繰り返されるのかと覚悟をしていたが、予想を裏切る形で体調のことを聞かれ、口をぽかんと開けてしまう。

「やっぱりどこか体調が?」

 そんなエマを心配し、レオナルドが立ち上がろうとしたので慌てて、首を横に振る。

「いえ、体調には問題ありません。治癒魔法師としても働けるぐらいには元気になりましたから」

「それならよかった……。魔力過多症を発症した者はエマを除いて全員が一年以内に亡くなっているから。治癒した方法には目を疑ったけれど、エマの元気そうな姿をこうして見ることができて安心をしたよ」

「ご心配をおかけしました」

 レオナルドと婚約を破棄して以来、レオナルドと直接話すことはなかった。けれどこうして心配をかけたのだと思うと、一目だけでも会って元気な姿を見せてあげればよかったと思ってしまう。だがそれも今更な話だ。それに今だからこそ思うだけで、あの頃のエマの心にそんな余裕はなかった。

「今日エマに会いに来たのは、エマとこうして話すためだったんだ。ただ毎回エマが僕と話すのを避けようとしているのが分かっていたから、つい急いでしまって同じことを言おうとしてしまったんだけれどね」

 同じことというのは、レオナルドがエマのことをどう想っているのかということだろう。急がせてしまった責任は、エマにもあるのは自覚している。気まずげに紅茶を飲めば、それがレオナルドにも伝わったようで苦笑されてしまった。

「別にエマを責めているわけじゃないんだ。ただ、そうだったんだってことだけ知っておいてほしい」

「わかりましたわ。でも、私がレオナルド殿下を避けていたのは事実です。申し訳ございませんでした」

「うん」

 ティーカップを机に置き、謝罪を口にした。その続きでエマの主張も聞いてほしいと、口を開く。

「ですが、これだけは理解しておいてほしいのです。私はレオナルド殿下を嫌いになって避けていたわけではないことを」

「それは本当に? 僕はエマに嫌われていないんだね?」

「はい。私がレオナルド殿下とお会いするのを避けていたのは、ミアカーナ様のためを思ってともう一つ。……瞳の色が変わってしまったからなのです」

 元婚約者であるエマと仲良くしている姿を見せれば、レオナルド殿下の印象は悪くなってしまう。だからこそ徹底的に避けていた。そしてミアカーナにいらぬ不安をかけまいと思っていたからこそ、避けていたというのもある。

「瞳の色? 瞳の色って一体……あ」

 瞳の色にクエスチョンマークを浮かべたレオナルドへ、瞳の色を見せるようにようやく手元から視線を上げた。

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