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第十四話

 次いで着いた先は最近オープンしたばかりだというおしゃれなカフェだった。カフェは三階建てになっており、一階が庶民でも利用できるスペース、そして二、三階が貴族専用の個室スペースとなっていた。入り口から庶民用と貴族用に別れており、互いに鉢合わせしない設計になっている。エマは別に気にしないのだが、やはり貴族の中には庶民と同じなんて、と気にする者もいる。そういった者達との衝突がないように工夫した造りになっているようだ。

 ハリーがいつの間にか予約を取っていたようで、馬車から降りるなり、店員に店の中へと案内をされた。通されたのは三階にある一室で、丁度品が品よく飾りつけられていた。決して華美なものばかりでなく、互いが互いの良さを引き出すように工夫されて飾りつけられており、センスの良さがそれだけで窺い知ることができる。

 メニューは庶民と内容こそ一緒だが、盛りつけ方が若干違ったり、給仕が部屋ごとに専用でついているのでその分お高めの金額設定がしてあるらしい。しかし普通の貴族専用の食事処よりは断然安く、味も美味しい。

 エマは両親との会話を楽しみながら、美味しい料理に舌鼓を打った。

 料理でお腹を満たしたあとは、公爵家にそのまま帰ることになった。馬車の中での会話は途切れることなく、何度も笑い声を響かせた。

 しかしもうすぐ公爵家につく、というところでハリーが真剣な表情をして、エマに話しかけてきた。

「エマ、お前はすでに覚悟を決めているようだな」

 唐突な言葉だった。

 一瞬それがなにを指す言葉がわからなかったが、すぐに魔物討伐のことなのだと気づいた。

「はい」

 すでにウィルフレッドから、ハリーが反対していると情報を得ている。だからこそエマは、ハリーの目を真っすぐ見て頷いた。

「……エマ、私はお前が大事だ。大切な娘だよ。だからこそ、危険な場所へ行かないで欲しいと思う」

「わかっていますわ」

「だがな、今日一日エマの姿を見て思ったんだ。魔物討伐に行くと決まっているのに、その瞳に怯えはなく、むしろ強い意思すら感じた。そしてこのピアスをエマからプレゼントされて、ああ、この娘はもう私たちに守られるだけの娘ではないのだと実感すらした」

 どこか寂し気な声を出しながら、耳につけたピアスを触っていた。

 魔物討伐に恐怖はある。それでも足が竦むほどではなかった。実際に魔物討伐に行ったことがないから実感が沸いていない、というのも理由の一つだ。けれどそれよりも大きな理由はただ一つ。レオナルドの役に立つことができる。ただの一心に尽きた。

 それにエマにはウィリアムという強い味方がいる。

「そんな私の可愛いエマだからこそ、私はエマを送り出すことを決めたよ」

「お父様……」

「頑張ってこい、エマ。怪我はしても、命だけは落とさないでくれ。魔物討伐が終わったら、必ずその顔を私に見せにくると約束をしてほしい」

 覚悟していた反対の言葉ではなく、背中を押されてしまった。

 そしてそうさせたのは、エマ自身だ。治癒魔法師としてハリーが認めてくれた言葉でもあった。それがどうしようも嬉しくて、エマは何度もハリーに頷いてみせた。

 公爵家に馬車が到着した頃には、すでに魔物討伐の話は終わり、違う話に花を咲かせていた。馬車から降りても、話が終わることはなく、そのまま両親と揃ってリビングへと移動する。日中にハリーとこれほど長く話せることは滅多にない。だからこそエマは楽しくて仕方がなかった。

 公爵家の中へと入れば、玄関でリカルドが待っていた。その顔はどこか気まずげでエマたちが視界に入るなり、ぱっと顔を輝かせた。

「姉上、おかえりなさい。お待ちしておりました。父上、母上もおかえりなさい。いきなりで申し訳ないのですが、少し姉上をお借りしてもよろしいでしょうか?」

 基本的に空気を読むことに長けたリカルドが、このような発言をすることは滅多にない。玄関で待っていた上に、両親とエマが楽しそうに話していたところに割って入るなど尚更だ。だからエマは両親の方へ顔を向けた。

「行きなさい、エマ」

「また後で話しましょう」

 リカルドの性格を両親も分かっており、すぐにリカルドの願いをすぐに了承してくれた。リカルドが礼を言う隣で、エマも軽く頭を下げる。

「ごめんなさい。では、またあとで。行きましょう、リカルド」

「はい」

 先導するリカルドの背に、エマは素直について行くことにした。

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