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第十話

 仕事の帰りにウィルフレッドのいる副団長室へと寄り、ウィリアムとともに念書を提出した。その際に魔物討伐のことについて、より詳細を教えてもらうことができた。

 A級魔物の討伐は本日から三日後に向かうことが正式に決まったようだ。今回はA級ということもあって、エマの他にもう一名治癒魔法師が同行することになっているらしい。しかしまだ念書を提出されていないこともあって不確かなため、まだ名前を教えてもらうことはできないようだ。

 欲をいえば五人ほど欲しかったところだが、治癒魔法師は希少で数が少なく騎士団専用の治癒魔法師はエマを合わせて十人しかいないのだからこればかりは仕方ないだろう。

 そしてA級魔物を討伐に行くにあたっての通例により、討伐当日までの臨時休暇が与えられた。つまるところ、何かあっても大丈夫なように家族に顔を見せておけとでもいう裏の意味がある。

 出発時間や集合場所の詳細を聞き終えたエマは、ミアカーナにたまには実家に顔を出してほしいと言われていたことを思い出した。こうしてまとまった休暇をもらったのは久しぶりだ。

 副団長室から退室したエマが後ろに控えるウィリアムに実家に帰ること伝えれば、優秀な侍従はそれほど時間を取ることなく、フォルモーサ公爵家に帰るための馬車を用意してきた。

 馬車を走らせること十数分で、フォルモーサ侯爵家に到着する。王都内にある屋敷は、王都でも上位に入るほどの広さで、端から端まで歩くだけでも結構な時間を要する。それは門から屋敷入口までの道のりが長いことも併せて意味しており、御者の隣に座っていたウィリアムが門での手続きを全て済ませてくれたおかげで、スムーズに屋敷の中へ入ることができた。

 玄関前に馬車が停車し、ウィリアム自ら馬車の扉を開け、手を差し出してくれた。その手を取り、馬車の中から外へと降りる。

 慣れた足取りで玄関まで歩いていけば、屋敷で働いている使用人たちが扉を開けてくれた。今日の今日で帰ると決めたことのだが、先触れを出していたこともあって、母親のロゼッタと弟であるリカルドが出迎えてくれた。

「ただいま戻りました、お母様、リカルド」

「お帰りなさい、エマ」

「お帰り、姉上」

 エマは公爵家の名を捨てたといっても、家族を捨てたつもりはない。エマが捨てたのは公爵家令嬢として優遇される全ての権利だけだからだ。だから権利こそないものの、いまだにフォルモーサの名前を名乗ることを現当主である父親に許されている。

 よってこうして公爵家に帰ることや、父親であるハリーやロゼッタ、そしてリカルドやミアカーナとも、家の中限定で家族として気安く接することを許されていた。

 ロゼッタとリカルドに軽く抱擁をしながら挨拶をし終わったところで、家族団らんのできるリビングルームへと場所を移動することになった。

 ハリーやミアカーナはまだ王城から帰ってきていないらしく、いつ帰ってくるかもまだ分からないそうだ。王城を出発する前に二人の所在を確認しておけばよかったと後悔するが、仕方がない。

 それにハリーについてはウィルフレッドから、エマが魔物討伐に同行することを知っていると確認済みだ。そして反対していることも併せて聞いている。ミアカーナについては、隠し事が下手な一面がある。エマがA級魔物の討伐に行くことを話せば、レオナルドには確実に伝わってしまうだろう。

(むしろちょうどいいのかもしれないわ)

 二人が不在であることを、プラス思考で考えながら、使用人たちが淹れてくれた紅茶で喉を潤した。普段ウィリアムの淹れてくれた紅茶ばかり飲んでいるからか、どこか物足りなさを感じてしまう。しかし別段まずいわけではないので、ある程度喉を潤したところで、エマの座るソファの後ろに控えていたウィリアムが視線を投げる。その視線だけでウィリアムは、エマが何を言いたいのか瞬時に察知をしてくれた。

 ウィリアムは使用人たちへ視線で合図を送ると、部屋にいた使用人たちが頭を下げリビングルームから立ち去っていく。全ての使用人が立ち去ったあと、塞ぐようにウィリアムが扉の前に立った。

 これで外部に情報が洩れることはない。

 ただ実家に帰ってきただけだと思っていたのだろう。エマの行動に、文句こそ言わない

が心配げな表情を二人して、していた。

「姉上? これは、実家に帰ってきたことと何か関係があるのですか?」

 この部屋に家族とウィリアム以外がいなくなってから、最初に声を上げたのはリカルドだった。リカルドはエマと同じ亜麻色の髪に、双子であるミアカーナと瓜二つの橙色の瞳を持った、次期フォルモーサ公爵だ。予想外のことにも瞬時に対応していかなくてはならないため、こうした状況にも咄嗟な判断を求められる。その点リカルドは、十八歳にしてここまで頭が回るので十分合格範囲だ。

 今でこそしっかりとした青年だが、数年前まではエマに愛称であるリィと呼ぶ度に、女の子みたいだからやめてくださいと顔を赤らめていたのが懐かしい。治癒魔法師として王城に住み込みを始めた頃からは、リカルドが大人に近づいてきたこともあって愛称で呼ぶことを止めてしまったが、赤く染めるその顔があまりに可愛いらしく、その顔みたさにたまに呼んでしまいたくなるのはエマだけの秘密だ。

「そうよ。お母様、リカルド。今からする話は父上には話をしてもいいけれど、ミアには内緒にしてくれると助かるわ」

「どうしてミアだけ?」

 ミアカーナと髪と瞳の配色が全く一緒の母親は、不思議そうに首を傾げていたが、リカルドの言葉で全てを納得したようだった。

「……ミアは思っていることが顔に出やすいですからね。そうなると、一緒にいるレオナルド殿下に筒抜けになってしまう。つまりレオナルド殿下に知られたくない話、ということですね?」

 語尾は疑問形なのに、その声音は確信を持っているようだった。

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