1 紅白
誰も近寄ることのない世界の果て。
魔界と人界の境界には魔神ちゃんとゴーレムさんが暮らしています。
今日もゴーレムさんはエプロン姿で朝食の準備をしていました。
「ゴーレム、ゴーレムはおるか!」
「どうしました、マスター?」
「見ろ、ピコピコだ! サンタさんからのプレゼントだぞ! わたしは次元を越えてよい子だったのだ!」
魔神ちゃんは小さな手に紅白の筐体を抱えています。
日本全国民を魅了した往年の名機。
伝説のゲーム機、ファミコンです。
「それはようございました」
「ふっふふ~ん。……ところでサンタというのは煙突から入ってくるのだったな?」
「ええ、左様でございます」
「我が家には煙突がないのだが……」
「サンタクロースは煙突から侵入しても煤一つ付かないほどの凄腕。
他の場所から侵入することなど容易いことでしょう」
「我が家のセキュリティはどうなっているのだ?」
「蟻の子一匹通さないかと」
「どういうことだ。なぜサンタは入ってこれたのだ……」
「マスター。サンタクロースがプレゼントを配るのは年に一度だけ。不思議に思いませんか?」
「言われてみれば……。休んでばかりではないか」
「実はそれ以外の364日、日々、泥棒をして技術を磨いているのです。
まさにプロ中のプロ、彼にかかればどんなセキュリティもお茶の子さいさい。
そうしてプレゼントを集めながら、決戦の日に備えているのです」
「なんと! このピコピコは盗品だったのか……」
悲しそうにする魔神ちゃん。
誇り高き魔神ちゃんは盗品で遊ぶような子ではありません。
モラルハザードの波は、まだまだ世界の果てまでは及んでいないのです。
「心配には及びません。サンタクロースは義賊。
悪人から盗んだものをよい子に配っているだけなのです。
マスターが受け取らなければ手を汚したサンタクロースも浮かばれませんよ」
「そ、そうか。そうだなっ!」
魔神ちゃんは再び顔を輝かせます。
クリスマスにサンタクロース。
異世界の風習ですが、ただプレゼントをもらうよりずっと楽しいはずです。
ゴーレムさんにぬかりはありません。
ゲームソフトもたくさん確保してあります。
喜ぶ魔神ちゃんの小さな背中に聞こえぬよう、そっと優しく語りかけます。
「まずは桃鉄でもしましょうかね」
ファミリーコンピュータ。
コンピューターではなくコンピュータ。
し、知ってたし。