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三題噺

予報ハズレの酸性雨

作者: 末摘花

靴・雨・寄り道

  小気味いいリズムで降り注ぐ雨に、僕と意中の彼女は同じ傘の下にいた。

  初夏、梅雨独特のじめじめとした鬱陶しい空気。湿気の影響で、心持ち内側にカールしている彼女の髪を、恨めしいくらいに僕は見ている。時折映るビニール傘越しの景色が、何故かとても新鮮だ。

  とん、と肩がぶつかる。他愛もない世間話を中断するでもなく、彼女はそんなこと、気にも留めていない風に水溜りを踏む。

  こういう時白のスニーカーって嫌だよねと、愚痴の一つを零すくらいには、彼女は余裕だ。自分が馬鹿らしく思えてならない。

「安ちゃんごめんね」

  唐突に話が変わる。これは彼女の十八番のようなもので、珍しいことではない。今は恐らく、この現状の原因を謝罪しているようだった。

  今、僕と彼女が同じ傘の下にいるのか。それは極片手間に、一言で説明出来るくらいには簡潔に言える。彼女が傘を忘れた。なんてシンプルで、これ以上でもこれ以下でもない。

  こんなに降るなんて思わなかったんだよね。そう言った彼女に、天気予報は見たんだ、と返す。今日の予報は、小雨だったはず、だ。ご察しの通り、今はそれなりの量の、僅かに酸性を含む水が降り注いでいる。

  小雨の定義など、世間一般の中学生は知らないだろう。ただ、今降り注がれている雨は、明らかに小雨と呼べるものではなかった。

  そして彼女はまた、ごめんねと紡ぐ。僕はそれほど面倒に思っていなかったし、頼られて悪い気はしていない。大丈夫、というニュアンスの言葉を、彼女に渡した。

「安ちゃん好きな人いる?」

  彼女はまた、唐突に話を変える。彼女がこの手の話題を僕に振るとき、なにか相談したいことがあるのだと、僕は長年の付き合いで知っていた。このことに彼女は気付いているのかもしれないし、気付いていないのかもしれない。

「……叶菜かなは?」

「えー、ひみつー」

「……じゃあ僕もひみつー」

「えー」

  そうして話始める彼女は、僕の気持ちを知らない。知らなくていいと、心の奥底に沈めている。

  こんな関係を望んだのは僕だし、こんな関係でしか繋がっていられなかったのは僕だ。

  きっと、お情けで繋がっている。悲観的。なんだか笑えた。溜め息を、つく。

  ──好きだ。

  彼女の話を聞きながら、歩幅を少し、自然な程度で縮める。

「叶菜、少しだけ寄り道してもいい?」

 少し弱い酸性雨。少しの劣等感に、僕は降られる。

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