81 反乱11
王国への宣戦布告に意味があるのかと問われれば、ほとんど意味など無いだろう。
三十人程度の奴隷集団が数万の兵士を抱える王国に挑むなど、蟻が象に挑むようなもの。
誰もグレアムの宣戦布告をまともに受け止める者などいない。
剣を喉元に突きつけられたとはいえ、ソーントーンも奴隷の戯言としか受け止めていない。
そうして王国上層部にグレアムの宣戦布告は伝えられることなく、握り潰される。
もっとも、このヴィーボルグ世界において宣戦布告して戦争を始める国や組織はほとんど無い。
リーに宣戦布告のことを告げると呆れたような顔をしていた。
「おいおい。俺たちはいわば反乱軍なんだぜ。そりゃ世の中にはままごとのような、お上品な戦争もあるにはあるが、これからやろうとしているものにそれは無理だぜ。不意打ち、騙し討ち、なんでもござれの汚い戦争だ。初っ端だけ正々堂々、宣戦布告して何の意味がある?」
「だからだよ、リー。汚いからこそ始めにちゃんとした手順を踏む必要があるんだ。俺たち奴隷には主人に反抗する権限は与えられていない。死ねと言われれば死ぬしかない。口答えも許されないんだ。であるならば、武力を持って状況の改善を訴えるしかない」
「まぁ、それは理解できるけどよ。俺もこの島でこんな胸糞悪いことしていたと知っていたら、王国に仕官せず聖国か帝国にでも行ってたさ。だがよ、――現状に不満だから今から反抗します――宣戦布告ってのはいわばそう言うことだろう。そんなことをわざわざ言って何になるんだ? 戦えば嫌でも向こうにこちらの意思は伝わるだろ」
「いいや、伝わらない。伝わる可能性はあるが、間違って伝わる可能性もある。例えば、帝国から援助を受けて帝国に寝返ったとか思われたくない。これはあくまで正当な理由あっての反抗なんだと伝えることが必要なんだ」
「……そこらへんはやっぱり理解できねぇな。先制攻撃の利点を捨てて危険を犯すほどの価値があるとはな」
「利点は捨てないさ。宣戦布告は戦いを始める直前だ。連絡するから、それまでは攻撃を控えてくれ」
「あいよ。だが、宣戦布告した瞬間、ソーントーンの奴に首を切られてもおかしくないぞ。そうなったら、どうする?」
「可能性はあるが、多分、そうはならない。ソーントーンもティーセの所在を知りたいはずだ。俺に案内させると思う」
(まぁ、そうだろうな)
ソーントーンは何だかんだで言っても常識人だ。そういう行動に出るのはリーにも予想できた。
だが、予想できるのはそこまでだ。そこからどんな行動をソーントーンが取るのか予想できない。
「予想できなくても予測はできるさ。その予測に沿っていくつか策を用意しておく。どの策を使うかは状況に応じて連絡する」
そう話すグレアムにリーは肩を竦めるしかない。何せあの王国最強の男を出し抜こうというのだ。それがいかに困難かはリーは身に染みて知っている。
だが、グレアムならばそれを成し遂げてしまいそうな、そんな予感がリーにはあった。