78 反乱9
ソーントーンは頭を悩ませていた。
ティーセが戻ってこない。
一の村で最後に目撃されてから数日が経過していた。
責任を問われる覚悟でソーントーンは王宮に報告する。だが、ソーントーンの悲壮な決意と裏腹に国王ジョセフの反応はやはり淡白だった。
「蟻どもと遊んでおるのだろう。放っておけ」
「ですが行方知れずとなってから既に三日が経過しております。考えたくありませんが、王女殿下の身に何かあったと考えるべきかと」
「返り討ちにあい、蟻どもの餌になったか」
「……」
ソーントーンもその可能性は低くないと考えていた。既にブロランカの南部は捜索したが見つからなかった。であるならば可能性は二つ。無力を悟り島を出たか、ディーグアントの巣に侵入したかだ。前者であれば良いが、後者であれば――
「あの馬鹿娘なら死んでいない」
残念なことにな。
ジョセフが発した後の言葉をソーントーンは努めて意識しないようにする。
「……何か根拠がおありで?」
「貴様の気にすることではない。それよりもリーの件はどうなった?」
「……現在、捜索中です。ですが、深手を負い海に落ちた以上、生きているとは――」
「生きている。コーには病死と発表するように伝えてある。探し出してきっちりとどめを刺しておけ」
「……よろしいのですか?」
「何がだ?」
八星騎士の定員はその名の示す通り八人である。だが、この席が全て埋まったことはなく、オーソンとアシュター王子が抜けたことで四人となっていた。
そして、リーは数ヶ月前の武闘会でその実力を示し、五人目の八星騎士に任じられたばかりである。
確かに、八星騎士に明確な役割はなく、いわば名誉職のようなもので揃っていなくては困るという類のものでもない。
だが、八星騎士はジョセフの発案で作られた職であり、その選定もジョセフの専権事項である。
貴婦人の飾り帽子のように軽々しく取り扱ってはジョセフの権威を軽んじられないか。
そういった懸念を遠回しに伝えた。
そもそも、リーが裏切ろうとしていたというソーントーンの言葉をジョセフがアッサリと信じたことにも疑問が残っていた。
「奴のは期待外れだったからな」
(奴「の」? 奴「は」でなく?)
そのジョセフの言葉の意味は理解できるものではなかったが、ソーントーンが疑問を発する資格も権利もないことはジョセフの雰囲気で察せられた。
ソーントーンはジョセフの前から辞した。島に戻れば捜索隊を結成するつもりだった。優先順位はティーセとリーの順だ。あの王女は死なせるには個人的にも惜しい。
北部にも捜索の手を広げる必要がある以上、エイグも使いたいところだが、一個人の捜索など完全に契約外だ。捜索には領軍を使うしかあるまい。
そうして、ソーントーンが捜索部隊を急ピッチで編成し終えた頃のことである。
グレアムがソーントーンの屋敷にやってきたのは。
「我々、蟻喰いの戦団は、あなたがたアルジニア王国へと宣戦を布告いたします。
ティーセ王女殿下は我々の捕虜として、その身を預かっています」
包まれた布から取り出された物は、見まごうことなく王国の至宝――妖精剣アドリアナだった。