75 反乱6
飛び道具を使うのはエイグの本意ではない。
アホ顔を一撃で殺したあの武器には興味がある。今までどこに隠していたかも含めて。それを知っているのはあそこにいるヒューストームであり、作ったのもあいつだろうとエイグは予想していた。
だから、ヒューストームを生け捕るために弓を使わず、死んでもいいような奴らに突撃させた。半分生き残れば上出来、そう考えて。
その結果が全滅である。
だが、成果はあった。
あの武器の射程は百メイルほど。直線にしか飛ばず、<火矢>のように目標に向かっていくことはない。そして、爆発して数人巻き込むような魔術でもないということだ。
そこで第二次突撃隊には、あの武器の射程範囲外ギリギリで横に並べた。
いかにあの武器が強力でも横に並べて一斉に突撃させれば、狙いが絞れず何人かは奴隷たちの元に辿りつくはずだ。
そして、弓矢を持たせて城壁にも部下を並ばせた。
連射性能は互角だが、あの武器よりも弓の方が射程距離は上だ。
おまけに第一次突撃隊を殲滅するのにかなりの魔力を消費したはずだった。
これだけの悪条件が重なれば奴隷たちは逃げるはずだ。
もちろん、エイグは無事に逃がすつもりはない。どんな戦場も追われるより追う方が有利なのだ。一度、背中を見せた敵は脆い。奴隷たちが逃げる素振りを見せたら即座に突撃させるつもりだった。
だが、エイグの予想に反して生贄奴隷たちは逃げるどころか前進してきた。
百四十名の傭兵を目の前にして、たった三十の奴隷が逃げずに向かってくる。その状況が信じられなかった。
(ヤケになっての突進か?)
そう思いつつも違うと感じる。取り乱した様子もなく整然と前進してくる。
エイグはヒューストームの生け捕りを諦めた。生半可な対応では、こちらの被害が大きくなる。今、奴隷たちの前にいる部下たちは、先ほど全滅した連中と違ってエイグの傭兵団の中核を担う主力である。
この島で力を蓄え、いずれは大陸で一花咲かせるための貴重な戦力だった。あの武器に固執して戦力を減らせば本末転倒である。
故に、エイグは弓矢の一斉射撃を命じた。
空を覆うほどの矢が放たれる。
そして、目の前に表れた光景に、エイグは自らの目を疑うのだった。