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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
二章 ブロランカの奴隷
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71 炎弾

 ーー 二年前 北部森林群 ーー


「<火矢(ファイアボルト)>」


 グレアムの放った魔術が的に飛び、人型の標的を破壊する。


「うむ、見事!」


 ヒューストームが膝を叩いた。補助具である魔杖なしで<火矢>を発動し、標的を破壊できれば、まず魔術師としては一人前と言われている。


 だが、グレアムは微妙な顔をしていた。


「いえ、師匠。失敗です。今のは隣の標的を狙ったんです」


「なんじゃと!?」


 ヒューストームが驚くのも無理はない。<火矢>には誘導系の魔術式が組み込まれおり、発動後は自動的に標的に向かうようになっている。それで外すのは、よほどセンスがない者だけだ。


「色んな意味で規格外じゃのぅ。おぬしは」


「いえ、師匠。今の<火矢>は誘導魔術式をオミットした結果です」


 誘導魔術式は発動した魔術を指定した対象に自動的に向かうようにするためのものだ。ほとんどすべての攻撃系魔術に組み込まれている式で、これのおかげで弓矢よりも命中率が高くなる上に、味方撃ち(フレンドリーファイア)はなくなる。

 新人の弓使いと新人の魔術師がいれば、後者が選ばれる理由の一つだ。


「むぅ、なぜそんな真似を?」


「聞いたことがあるんです。魔術を使う熟練の傭兵はあえて誘導魔術式を外し、その空いたリソースの分、威力の底上げに使うのだと」


「ふぅむ。興味深い」


 魔力を封印される前のヒューストームは豊富な魔力と『大魔導』スキルによる高速魔術演算でリソース不足をほとんど経験したことがない。


 機能を削って威力を増すという発想は恵まれた才能を持つゆえに思いつかなかったのだろう。


「じゃが、それだと……」


「ええ。標的に当てるのは感覚的になります」


 グレアムは石を拾い、標的に向かって投げた。石は標的にかすりもせず、二個目の投擲は標的の端に当たる。


「こんなふうに、狙ったところに当てるには勘頼りになり、練習が必要になります」


 ピッチャーがストライクを取るには、練習でボールを正しく握り、正しいフォームで投げ続ける必要がある。そうして自分の身体にストライクが入る投げ方を覚えこませるのだ。

 誘導を組み込んでいない魔術を標的に当てるには似たような努力が必要になる。


「それでは使う者の努力と才能の違いで命中率に大きな差が出てくるのではないか? それはワシらの目指すところではあるまい」


 グレアムとヒューストームは誰でも同じように魔術が使える方法を研究している。二の村の者たちは多くがスキルを持たない。そんな彼らが魔術を使えるようになれば脱出計画の大きな助けとなる。


 そこで理想とするのは均一的な魔術行使だ。一人だけが強い魔術を使えても、逆に弱い魔術を使えてもいけない。ディーグアントを日々相手にしているとはいえ、二の村の住民はほとんどが戦経験のない素人。歴戦の傭兵に対抗するには集団として運用するのが正しく、足並みが揃わなくなる危険は避けたかった。


「ええ、やはり感覚的に狙いをつけるのは無しですね」


 そもそも、ストライクが取れるのはプロでも五球に三球だと言われている。村の子供たちでは良くて五球に二球だろう。距離をとって安全圏から傭兵を倒す戦法を取ろうとしているのに、こんなに低い命中率では瞬く間に距離を詰められ殺されてしまう。


「そもそも、なぜ誘導魔術式を外そうと思ったんじゃ」


「それはですねーー」


 魔術の発動にはスライムを使う。というか魔術スキルを持たない者はスライムを使わなくては魔術を使えない。


 例えば軽く突っつけられれば魔術を発動するようにスライムに命じておけば、村の住民たちでも魔術を使うことは可能だ。


 問題はどうやって標的に当てるかだ。グレアムとスライムは『スライム使役』スキルによる思念波のやり取りで標的を指定し、誘導魔術式の対象にできる。


 だが、村の住民たちはそうもいかない。スライムに目がないので魔術を発動してもどこに飛ばせばいいかわからない。


 ならば、いっそのこと役に立たない誘導魔術式を取り払い、ボールを投げるように感覚的に狙ってみることにしたのだ。


 結果は失敗だったが。


「なるほど。ではこうしてみてはどうかな」


 ヒューストームは一本の魔杖を取り出すと、それをスライムに咥えさせた。その姿はやたら砲身の長いコミカルな戦車のようだ。


「杖の先端から魔術を飛ばすのはポピュラーなやり方じゃ。スライムも同じようにできんか?」


「! やってみます!」


 グレアムは魔杖を咥えたスライムを両手に持ち、杖の先端が標的に向くように調節する。


 先端から放たれた魔術は、標的を破壊した。


「パーフェクトです。流石は師匠」


「ふふん。礼は言葉より酒がいいぞ」


 そこから"銃"の開発へと到る。グレアムは銃の台座を準備し、その中間部分に穴を開けてスライムを埋め込んだ。そして、その上に魔杖を置いて固定する。


 台座の下部に引き金をつけ、引けば内部のスライムに軽い刺激を与える。刺激を受けたスライムは魔杖を通して魔術を放つ仕掛けだ。


 杖の先端には凸型の出っ張りをつけ、台座の目元に当たる部分に凹型の出っ張りをつけた。簡易的な照準器である。二つの出っ張りがちょうど重なる部分に魔術が飛ぶように調節した。


 誘導魔術式をオミットして空いたリソースの分は威力の底上げに使った。


<火矢>よりも強い威力で、ただ真っ直ぐに飛ぶ魔術をグレアムは<炎弾(フレイムバレット)>、そして<炎弾>を飛ばすこの武器を"魔銃"と名付けた。

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