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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
二章 ブロランカの奴隷
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68 交渉4

(肉体年齢? 精神年齢?)


 グレアムは、よくわからないことを一人ごとのように呟いていた。


 だが、これだけはわかる。


 グレアムは怒っている。


 それを理解した時、ティーセは言い知れぬ恐怖を感じた。決して怒らせてはいけない存在を怒らせてしまったのだと直感した。


 その時、ティーセの頭に一筋の光が走った。


 グレアムはディーグアントの女王を殺したことを失敗だと言っていた。


 女王を殺し続けたことでディーグアントの巣は南に移動したと。それは本当に失敗だったのか?


 どういう方法を取っているか不明だが、グレアムはディーグアントの行動をある程度、操作できるのは間違いない。


 もし、彼が狙って南部で"氾濫"を起こそうとしているなら、それはーー、


「ティーセ」


「は、はい!」


「俺と取引しよう」


「と、取引?」


「さっきも言ったように"氾濫"の前にソーントーンに警告する。あいつがうまく立ち回れば被害は最小限で済む筈だ」


「そ、そうね」


「だが、一の村の奴隷たちは助からない」


「な、なんで!?」


「考えてもみろ。あいつらはカダルア草を食べている。"氾濫"が起きれば真っ先に蟻に狙われるのはあいつらだ」


「か、彼らを守るわ」


「誰が? 傭兵たちか? むしろ、あいつらは自分が助かるために積極的に奴隷を囮に使う」


 奴隷を鎖に繋くか、足の腱を切り逃げられなくする。そして、蟻が奴隷に殺到している間に傭兵たちは逃げる。


 その光景が目に浮かぶようだった。


「生贄奴隷たちを"氾濫"が起きる前にこの島から逃す必要がある。それはわかるな」


「ええ」


「生贄奴隷の救出は俺たち二の村が請け負う」


「!? ほ、本当!? それは願っても無いことだけど」


「ああ、その代わり、おまえにはやってもらいたいことがある」


 ティーセはゴクリと唾を飲み込んだ。どんな代償をグレアムは要求するのか。だが、ティーセには断る気は無かった。


 絶望に彩られた目を持つ獣人たちを助けられるなら、どんなことでもするつもりだった。


「ティーセ。今、金貨を持っているか?」


「え、金貨? ええ。道具入れはディーグアントと戦っている間に何処かに落としたみたいだけど、服や下着に貴重品を縫い付けてあるの。その中に金貨もあったはずよ」


 グレアムはズイカクと呼ばれたディーグアントにティーセのボロボロになった服と鎧を持って来させる。


 残骸の中からグレアムは金貨を見つけると、しばらくじっと見つめーー、


 パク。


 おもむろに口に含んだ。


「な、な、な、な?」


 確か金貨は下着に縫い付けていたはず。


 つまり、グレアムは今、私の下着をーー


「へ、へ、変態! よりにもよって、そんな汗まみれのーー」


「何言ってんだ?」


 真っ赤になって焦るティーセに呆れたように言うグレアム。


「おまえにやって欲しいことはな、この金貨をーー」


 グレアムの要求する代償、それはとても奇妙なことだった。


「そんなことでいいの?」


「ああ、それだけでいい」


 ティーセは拍子抜けした。どんな大変なことを要求されるか身構えていたが、グレアムの要求は実に簡単なことのように思えた。


「わかった。やるわ」


「取引成立だな」


「ええ。……ねぇ、もう縄を解いてよ」


 安心したらお腹が空いてきた。"氾濫"までまだ時間がありそうな様子だし、一度戻って食事を取りたかった。


「悪いがそれはできない」


「え?」


「おまえの存在は不確定要素だ。俺たちの脱出計画にどんな影響を及ぼすかわからない。だからーー」


 グレアムがティーセの頭に手をかざすと、急激に睡魔がティーセを襲った。


「ちょ、何をーー」


「眠っていろ。全てが終わるまで」


 抗えない睡魔の魔力に意識が遠のく。やがて、ティーセの意識は完全に闇に沈んだ。


 次にティーセが目を覚ますのはグレアムの言う通り全てが終わった後だった。


 だが、結局それはティーセの命を救うことにもなるのだった。

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