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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
二章 ブロランカの奴隷
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64 伯爵家の家令4

 実験の成果は上々だった。反吐がでるほどに。


 ブロランカ島の領民が魔物に襲われて命を落とすことはなくなり、田畑も荒らされることも無くなって農作物の生産量は倍増した。


 魔物の対処に充てていた領軍もほぼ必要なくなり、伯爵家の財政は劇的に改善した。


 ディーグアントが北部の魔物を駆逐するのに一年かからなかった。当然といえば当然だ。ディーグアントは魔物を一方的に攻撃できるのだ。魔物たちも襲われれば反撃したかもしれないが、最後まで組織的な反攻は行われなかったという。


 島の北部は完全にディーグアントの天下となった。それと同時に南部に繋がる隘路にディーグアントが姿を見せるようになった。


 最初は一匹。次は二匹。


 いずれもカダルア草の薬効で惹きつけられた生贄奴隷たちの村で処理された。


 一年の間に生贄奴隷たちに武器を与え防衛設備を整えさせたのは主の慈悲だと思う。


 だが、三度目は慈悲の効果はなかった。両手両足の指、全てを合わせても足りない数のディーグアントが生贄奴隷たちの村に押し寄せたからだ。


 生贄奴隷の肉を食らったディーグアントは鶏を絞めるよりも処理が簡単だったと、王国の金で雇った傭兵たちは笑っていた。


 この襲撃で三分の一の生贄奴隷が命を落とした。


 ◇


「なぁ、ジュリア。いいだろう。どうせあいつは蟻の餌になっちまうんだ」


 目の前の奴隷頭が下卑た笑いをその顔に貼り付けていた。


「まだ、蟻の餌にすると決まったわけではない」


 ジュリアはもはや奴隷頭への嫌悪感を隠そうとしなかった。


「へっ! あんな痩せたガキ、農奴にゃできねぇ。おまけに人殺しの犯罪奴隷だ。そんな危ない奴をお屋形様の側に置く気かよ」


 ジュリアは歯を噛み締めた。


 生贄にする奴隷は子供か老人、もしくは何らかの理由で手足を失った不具者ーーつまり、二足三文で売られるような者たちだ。


 そんな者たちの使い道は限られる。


「なぁいいだろう。俺も手塩にかけて世話している奴隷どもが片っ端から蟻の餌になって心を痛めているんだ。俺にも癒しが必要だと思わねぇか?」


 思わない。このサディストは決してそんなことで心を痛めるような男ではない。だからこそ、ジュリアは奴隷頭を任せているのだが。


「……わかった。だが金は払ってもらう」


 ジュリアの言葉に奴隷頭は歓喜の表情を浮かべ、続いてジュリアが提示した金額に顔を歪めた。


「お、俺の給与の三倍じゃねぇか!」


「嫌ならやめておけ」


 奴隷頭は薄くなった髪をガシガシと掻く。件の少年奴隷をねっとりとした目でしばらく見つめた後、


「わかった。払おう。だけどーー」


「ツケはきかん。即金で払え」


「いや、待ってくれ。金はあるんだ。ただ手元になくてな」


「ふん。イカサマ賭博か」


「おっと。口に気をつけてくれよ。そんな証拠はないんだからな」


 イカサマを否定しない時点で語るに落ちていることに気づかない奴隷頭。


「とにかく、金をきっちり揃えて持ってこい。それまであの奴隷は主のものだ」


 奴隷頭は口元を歪めて引き下がる。奴隷頭も主の強さは知っている。自分のものになるまでは主の所有物に手を出すことはないだろう。


 だが、奴隷頭が見せた少年への執着は並々ならないものを感じた。明日の晩にでも、奴隷頭は金を掻き集めて少年を手に入れるだろう。


 少年にとってそれは、死ぬよりマシかもしれない。大金を出して手に入れるのだ。奴隷頭も無茶なことはしないだろう。


 そう祈るような気持ちでジュリアは少年を見る。


 その時、ジュリアは少年と目が合ったような気がした。


 それは一瞬のことだったが、ジュリアには妙にそれが気になった。


(話を聞かれていた? まさかな)


 とても奴隷頭との話が聴こえるような距離ではない。おまけにこの港湾の喧騒だ。何を話していたかわかるはずもない。


 奴隷の一人が船への積み込みを終えたことを報告してくる。ジュリアはその場を離れ、それからそのことを忘れていた。


 翌朝、例の奴隷頭が自室で死んでいると報告を受けるまで。


 ◇


「死因は?」


「わかりません。ただ昨夜は賭博で大勝ちしてえらくご機嫌だったようですが」


「……『スライム使役』だったな」


「は?」


「先日購入した奴隷のスキルだ。確かスライムに毒を運ばせて飲み物に混ぜたとかで犯罪奴隷にされた少年だ」


「はぁ、コイツはその奴隷にやられたっていうんですか? まさか。この部屋の飲み物も調べましたけどね、毒なんか入っていませんでした。おまけに昨夜、奴隷たちは全員檻の中だ。一体、スライムなんかでどうやって毒を飲ませたって言うんです?」


 警吏の言葉にジュリアは反論できなかった。だが、

 確信はあった。あの少年が奴隷頭を殺したのだと。


 ジュリアは屋敷に戻ると真っ先にスライム除けの香料の在庫を確認させた。


「常に香料を絶やさぬようにしろ。特に主の周辺だ」


 屋敷の侍女と下男にそう指示を出すと、ジュリアは自らの手で少年を二の村に送り込んだ。


(奴隷頭。気に入らない奴だったが一つだけお前の意見に同意する。危険な奴は主の側に置けない)

やられる前にやりました(グレアム談)

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― 新着の感想 ―
[良い点] うむ、先手必勝素晴らしい。
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