52 オーソン3
「こんにちは。オトシはいくつ?」
アリダに問われたオーソンはオズオズと両手の指を全部広げて見せた。
「十歳!? 五歳とかじゃなくて!?」
頷くオーソン。アリダが驚くのも無理はない。いくら幼年期では女性の方が成長が早いとはいえ、オーソンの身長はアリダの頭一つ分、低かった。
「……いいわ。今日からあなたは私の弟ね。ちょうど兄弟が欲しかったところなの。よろしくね」
オーソンに手を伸ばすアリダ。
オーソンがその手に触れた時、オーソンに年下の姉ができた。
◇
「もう、無茶をして」
オーソンの額にあてた濡れタオルを交換したアリダは咎めるように言う。
「体力が十分つくまでスキルの使用禁止。そう約束したでしょう」
「うん。ごめんね。アリダ」
素直に謝るオーソン。
だが、今回は不可抗力だった。所用で王都の郊外に出たオーソンとアリダを含む近所の子どもたちは、傭兵ギルドが討ち漏らした魔物に襲われたのだ。
全身に棘を生やした犬のような魔物だった。
その棘で護衛の傭兵は刺し貫かれた。
生きた魔物を初めて見たアリダは、血を滴らすその禍々しい姿に一歩も動くことができなかった。
魔物が馬上槍のごときその棘でアリダを貫こうとした瞬間、オーソンが魔物に体当たりした。
棘を粉砕され、十メイル近く吹き飛ばされる犬型魔物。
オーソンはその直後、意識を失い気づいた時はアリダの家のベッドの上だった。
(また、迷惑をかけちゃった)
小さな手で毛布を握り締める。
オーソンは自分のせいで両親が死んでしまったのではないかという負い目を持っていた。
アリダの父に言わせれば二人は運が悪かったのだが、オーソンの幼い心には、その負い目が棘のように食い込んで離れなかった。
(もっと強くならなくちゃ。アリダを守れるくらい強く)
そう決意を新たにする。
一方でアリダの心にも変化が訪れる。
オーソンは既に守られるだけの存在ではなくなっていた。
一抹の寂しさとともに、誇らしさと愛おしい気持ちが強くなる。
二人の関係が仲の良い姉弟から友人となり、兄妹となり、そして恋人となるのに時間はかからなかった。