50 オーソン1
カシャカシャカシャカシャカシャ。
外骨格に覆われた腹の上にグレアムとティーセを乗せたディーグアントが隧道を走り抜けていく。
すると、前方に数匹のディーグアントが見えてきた。こちらに向かっている。
背中に密着しているティーセの息を飲む音が聞こえてきた。グレアムの腰にまわされた両腕にわずかに力が込められる。
だが、蟻たちは襲いかかってくることはなく、まるで二人が見えていないかのようにすれ違った。
「蟻は主に臭いで敵味方を識別している。あいつらが襲いかかってくることはないよ」
どれだけ仲間が殺されても怯むことなく執拗に攻撃を繰り返してきたディーグアントをこうも簡単にやり過ごすことが出来るとは、実際に目にしても信じられない思いだった。
「ディーグアントをかなり研究したのね」
「ああ、今なら本を一冊書ける自信がある」
スライム研究をライフワークとしているグレアムである。趣味と実益を兼ねてディーグアントを研究するのは当然であった。
「是非、一読したかっわ。特攻前にね」
ティーセの吐いた息が首筋にかかり、ゾクッとするグレアム。さらにティーセの次の言葉が身を凍らせた。
「でも、これで確信したわ。女王を殺したのはあなたたちね」
「……」
「……言えない理由があるわけね」
「……いや、そういうわけじゃない。ただ、あれは俺たちの失敗だ。心情的に言いたくなかっただけだ」
「失敗?」
「二年ほど前だったかな。村への襲撃のたびに増えていくディーグアントの数に危機感を覚えた俺たちは、卵を生む女王を殺すことに決めたんだ」
グレアムが女王の居場所を特定し、オーソンが女王を倒す。ヒューストームには幻覚魔術で二人の不在を傭兵に悟られないようにしてもらう。
そのように役割を決め、そしてそれぞれが役目を果たしたのだ。
「オーソンの『全身武闘』。その時に初めて見たがあれはすごいな。オーソンに触れた蟻が吹っ飛んでいくんだ」
当時、巨大な大空洞の床と壁は女王を守るために兵隊蟻が埋め尽くしていた。
その中をオーソンは躊躇い無く、突っ込んでいった。
その時の光景をグレアムは生涯忘れることはできないだろう。
モーセが海を割るかのごとく、オーソンの進行を蟻たちは止めることが出来ずバラバラになっていく。
グレアムはそれを見て、ブロックを叩いて出てくる星型オブジェクトを取ると無敵状態になる横スクロール型アクションゲームを思い出した。
女王の頭と腹にオーソンが大穴を開けるのに五分とかからなかった。