47 地底湖4
「そんなことはわかっているわ! でもそうするしかないじゃない!」
グレアムの冷酷な言葉に激昂するティーセ。
「今、こうしている間にも罪の意識で押しつぶされそう。ソーントーンは弱さは罪悪だと言ったわ。彼らを救う力のない私は弱い。その罪悪を蟻を殺すことで贖えるなら、それが罰なら、私は喜んでそうする! 例え、命を落とすことになっても!」
「まだ続ける気なんだな。こんな無謀な特攻を」
「ええ」
ティーセは短く、だがはっきりと肯定した。
グレアムが怒りを覚えているのはそこだ。
命を粗末にするなとは口が避けても言えないグレアムだったが、ティーセを救うのに相当なコストをかけている。それこそ十三万弱のスライムたちの魔力が枯渇するほどの。
完全に回復するには丸一日かかるだろう。その間に二の村の住人が致命傷を負い、死ぬつもりの人間を救ったことで、彼を救えなかったとしたら、悔いても悔やみきれない。
二の村の住民は皆、生きようと強い意志を持っているのだ。身分や才能など関係ない。それだけで、ティーセよりも彼らを優先する価値がある。
グレアムにそう言われたティーセは酷く傷ついた顔をしていた。
「だって……、そんなの、知らなかったんだもの」
考えてみはれば、勝手にティーセを救ったのはグレアムだ。ティーセに頼まれたわけでもない。
そのことに気づいたグレアムはバツが悪そうに頭を掻いた。
かつて聖国の魔導学院で女生徒をやり込めたヒューストームを大人げないと批判したが、これでは人のことを言えない。
彼女はしっかりしているように見えてもまだ十二歳なのだ。思慮が足りなくても仕方がない。
であるのに、ティーセを叱るのではなく怒ったことにグレアムは恥ずかしくなったのだ。
それと同時にグレアムは悲しみも覚えた。
レナもティーセも早熟だと思っていたが、彼女たちは早熟にならざるを得なかったのだ。
力ある者はそれを行使することを求められる。
ソーントーンの言葉を肯定するわけではないが、力を持っていて、それを使わないことは罪悪なのだ。この世界では特に。
それゆえに、ティーセは覚えなくてもいい罪悪感を覚えている。
彼女が国王ジョセフの娘だからといって何だと言うのか。親の罪を子が背負う理不尽などグレアムは許容しない。
「すまない」
グレアムはティーセの腕を放した。
「謝るのは私の方よ」
グレアムに掴まれていた腕をさするティーセ。
痣にはなっていないようだが、グレアムは一応、治癒魔術をかけた。