46 地底湖3
「おまえ……、死ににきたな」
グレアムの指摘に、ティーセはハッとした表情を見せた後、激しく否定した。
「違うわ! 私は女王を殺しにきたの! そうよ、それなのにもう死んでいるなんて! どう言うことなの!?」
全裸で腕を掴まれているという状況も忘れて、逆にグレアムを追求する。
「誤魔化すな。女王を殺しにきたのは本当だろう。だが、生きて帰れるとは思っていなかった。そうだろう?」
そう重ねて追求されるとティーセは、えも言えない表情をした後、渋々と認めた。
「……ポーションを使い果たした時、そうかもしれないと一瞬、考えたわ。でも死のうと思ったことはない」
「自分の命を勘定に入れていないなら、それは自殺行為だ。ポーションがなくなった時点でーー、いやもっとその前に撤退を考えるべきだった。それとも傭兵ギルドでは自分の命と引き換えても任務を果たせと教えているのか? だとしたら俺はギルドの評価を見直さなければならない」
「……」
ティーセは答えられない。傭兵ギルドや先輩たちがティーセの行動を決して認めないことは、他ならぬティーセが一番よく知っていたからだ。
「……だって仕方がないじゃない」
ティーセはうなだれて、やがてポツリと呟いた。
「石を投げられたわ。おまえのせいだって」
懺悔するようにティーセが独白する。
「首を吊っていたの。ディーグアントの襲撃があった翌日に。私たちよりちょっとだけ年上の、まだ若い獣人だったわ。彼の肉親が死んだそうよ」
ティーセは俯いたまま、脈絡ない言葉を垂れ流す。
グレアムはそれを黙って聞いていた。
「彼だけじゃない。一の村にいるみんなは彼の後を追って、首を吊りそうな雰囲気を持っていた。眼に生気がないの。考えてみれば当然よ。彼らが解放されるのはディーグアントのエサになる時しかない。つまり死ぬしかないの。反抗しようにも傭兵たちが常に眼を光らせている上に人質までとってる。仮に傭兵たちを打倒しても、島からの唯一の脱出口である港はソーントーンと彼の私兵が抑えている。絶望するなという方が無理な相談だわ」
"そして、私は何もできない"
血を吐くように言うティーセは、いつのまにか涙を流していた。
「命をかけるしかないじゃない。せめて一人でも長く生きられるように。蟻の脅威に晒されないように。私が殺し尽くすしかないじゃない」
「それがおまえの贖罪か」
「ええ、そうよ」
涙が溢れた瞳でグレアムを睨む。
そんなティーセにグレアムは残酷な真実を突きつける。
「それは言っちゃ悪いが、無意味だ。蟻を全滅させることはできないし、おまえが死んだところで誰も救われはしない」