表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
二章 ブロランカの奴隷
61/440

43 蟻の巣穴にて7

 頭部の修復をほぼ終えたところで異変に気づく。


 少女が息をしていない。


 薄い胸に耳をあて、鼓動を確認する。


(まずい)


 グレアムは両手を少女の胸に置いて、肋骨も折れよと言わんばかりに圧迫した。


「逝くな! 息をしろ!」


 全身に汗を浮かべ必死に呼びかける。


 グレアムは自分や仲間たちを傷つけるものに対しての攻撃に躊躇や後悔をしたことはない。そして、これからもすることはないだろう。


 敵には過剰ともいえる冷徹で冷酷で冷静な心を向けることができるグレアムだったが、自分より若い子どもが目の前で死ぬのを死ぬのを黙って見過ごすことはできなかった。


 少女の顎を上げて、口移しで息を吹き込む。


 少女の胸がゆっくりと隆起した後、


「ーー!? ゴホッ!」


 血を吐き出した。


 破れた肺から流れた血が肺を満たし呼吸を妨げていたのだろう。


「ーー!? 痛ぅ!」


 起き上がろうとし苦痛に呻く少女。


「動くな。まだ治療が終わっていない」


「あ、あなた、グレアム? どうしてここに?」


 "光明"の光が二人を照らす。


 そこで初めてグレアムは、少女がルイーセと名乗った一の村の防衛長であることに気づいた。


「……あなたこそ、どうしてこんなところに?」


 グレアムは治癒を続けながら訊いた。


 深刻なダメージを受けていた背骨と内臓の修復を終え、あとは両手両足の骨折と全身の傷だけだ。


「治癒魔術? 嘘でしょ? 何なのそのスピード?」


 傷一つ残さず癒えていく自分の体を見つめながら呆然と呟くルイーセ。


 最後に"再生"で失った血を補充して治療を終える。そこでスライムたちの魔力は尽きた。


「ふぅ」


 疲れから大きく息を吐くグレアム。


 コンピュータを動かすのに電気を必要とするように、魔術演算を行うには魔力を必要とする。ヤマトとともに演算内容の分割と演算結果の統合に魔術式を展開したグレアムの魔力も底をついた。


「一体、何がどうなっているの? その魔術といい、そもそもどうしてあなたがここにいられるの? ディーグアントを引きつけるカダルア草入りの食事をしているのになぜ蟻が寄ってこないの?」


 巣の底での思わぬ邂逅に、ルイーセはひどく混乱しているようだった。


 "散歩に出たら迷ってしまって、気づいたらここに"


(まぁ、無理だな)


 言い訳をあれこれ考えるが、とても納得はしてくれないだろう。思わぬ邂逅はグレアムも一緒だった。計画を万全にするために傭兵たちの眼を盗んで村から出てきたが、逆に計画の存続が危ぶまれる状況になってしまった。


 完全にグレアムのミスだった。


(さて、どうするか?)


 思案するグレアムに周囲の警戒のために配置していたスライムから警告が発せられる。


 ディーグアントが近づいているのだ。


「とりあえずここを移動しましょう。体も洗ったほうがいい」


 グレアムはルイーセの格好を見る。鎧の下に着ていた服はボロボロで半裸に近かった。


 ルイーセも自分の体を見下ろし、一瞬後、赤面して隠すように自分の体を搔き抱いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ