41 ヒューストーム魔術講座5
「師匠、"道順"である魔術式を図象化した魔術陣を体に書き込んだスライムが魔術を使えたということは、スライムは魔術系スキルのような"環境"を元から持っていたということでしょうか」
弟子の質問にヒューストームは困ったように頬を掻いた。
「理屈上はそうなるんじゃろうな」
「亜空間なんてものを作り出すんだ。何らかのスキルをスライムが持っていてもおかしくないだろう」
隣で何となく話を聞いていたオーソンがそう意見する。
「スキルは天龍皇や大地母神からの贈り物という考えなんですよね?」
「まあ、この国ではそれが主流じゃな。聖国や帝国ではまたちょっと違うようじゃが」
「では王国の考えを正解として、魔物たちは彼らを生み出した"心無き神"からスキルを与えられているのでは?」
「う〜む。神話に基づいて推論を重ねるのはどうかと思うが、一理あるやもしれん。だが、儂の知っとる魔術系スキルとも違うような気もするんじゃ」
「と、言いますと?」
「まず、魔術の発動が速すぎる。"道順"と"環境"が揃っていたとしても、酒場へ行くのに時間と労力ーーつまり魔力を消費するものじゃ。ましてや大きな効果を得ようとすれば、時間と魔力は比例して多く必要になる、幻の銘酒を手に入れようとすればそれなりに苦労するのと一緒じゃな」
「魔術師が詠唱したり、杖を持つのはその時間と魔力を省略するためなのですよね」
「うむ。詠唱や杖で"環境"の一部を肩代わりするわけじゃな。儂が酒場へ向かっている間に、別の者が質屋に行って金を工面してもらう。酒場の手前で合流し、金を受け取ってめでたく儂が酒を飲めるというわけじゃ」
「なるほど。だとしたらスライムたちが強力な魔術をほとんど一瞬で使える理由がわかった気がします」
「何じゃと!?」
グレアムからの説明を聞いたヒューストームは諦めたかのように大きくため息を吐いた。
「儂、本当におまえさんを弟子にしてよかったのかのぅ。こやつら、ドラゴンやディーグアントよりも、ずっとやばい魔物のような気がしてきたわい」
ヒューストームは手元のタウンスライムを撫でながらそう嘆息した。