38 ヒューストーム魔術講座2
「魔術式が"道順"で、魔術系スキルが"環境"ですか?」
「うむ。空中に光を出したり、誰かを癒したりする魔術の行使"結果"を実現するためのな。
例えば、儂は酒を飲みたいと思った。だが、あいにく家の酒は切らしておる。そこで儂は酒場に行こうと思った。酒を飲むという"結果"を手に入れるためにな。
だが、儂は引っ越してきたばかり。酒場への道がわからん。そこで親切な友人が、酒場への"道順"を書いてくれたわけじゃ。
さて、酒場への行き方はわかってもそれだけでは酒は飲めん。酒場の主人はツケを一切認めない可能性もあるわけじゃから金が必要じゃし、酒場へ行く足も必要じゃ。もしかするとドレスコードもあるかもしれん。
金、足、服。そういった酒を飲めるだけの条件が整っている"環境"が必要なわけじゃ」
ヒューストームの説明に、先程とは別の理由で大講堂が騒がしくなる。
魔術式と魔術系スキルは両輪の関係だ。どちらが欠けても魔術は使用できない。その理由は諸説あったが、ヒューストームの説明は聖国の魔術師たちにとってわかりやすく、斬新だった。
「そこの君はどんな魔術系スキルを持っておる?」
ヒューストームが発言すると、大講堂は即座に静かなる。賢者の言葉を一言も聴き漏らしたくないかのように。
「火と土の複合系魔術です」
ヒューストームに質問された生徒は声をかけられた感激で顔を紅潮させながら答えた。
「ふむ。では風の魔術も学んでおるな?」
「はい。火と組み合わせれば威力が上がりますから」
「風の魔術はどれくらい使える?」
「それがお恥ずかしいことに、何年も修行しているのに、そよ風程度の風しか起こすことができません」
ヒューストームは鷹揚に頷き、
「自身が持つ魔術系スキルと異なる系統の魔術を行使するのは難しい。
それは"環境"が足りていないからじゃ。本来、"
結果"を手にするには"道順"に示された通りにまっすぐ進めばよい。
だが、"環境"を整えるため、"道順"に余計な線を加えねばならない。
金を工面するために質屋に訪れ、服を買うために古着屋に赴くというようにな。
通常の魔術式ーー"道順"には余計な線は書かれていない。同系統の魔術系スキル持ちが使うことを前提としているからじゃ。それゆえ、火の魔術系スキル持ちが、ただ風の魔術式を学んだところで、風の魔術を使うことは難しいのじゃ」
「な、なるほど」
「次に風の魔術を行使するとき、足りない"環境"を補うように風の魔術式を展開してみなさい。結果は目に見えて違ってくるはずじゃ」