37 ヒューストーム魔術講座1
ーー 八年前。聖国魔導学院、大講堂 ーー
ーー 特別臨時講師ヒューストーム ーー
「ーーとまぁ、このように魔術陣というのは長ったらしく冗長な魔術式を一目でわかりやすく図形化したものというわけじゃな」
ヒューストームは空中に映し出した"光明"の魔術陣の前でそう言った。
「もっとも簡単なこの"光明"の魔術でもその魔術式は巻物一本分くらいになるんじゃ。それを腕の長さくらいの図形で表現する。さて、それにどんなメリットがあると思う?」
ヒューストームは目の前に座る女子生徒の一人を指名した。
「えっと……、多くの人が魔術を使えるようになった?」
自信なさげな回答に、ヒューストームは満足そうに頷いた。
「正解じゃ。これまで魔術系スキルを持っていたとしても、魔術式を知らなくては魔術を行使できなかった。だが、魔術式はこのように難解で、この学院のような特別な場所で専門的な教育を受ける必要があった。しかし、財政的な問題などですべての人間が教育を受けれるわけではない。帝国などでは古くから支援を行っていたようじゃが、それでもすべてをカバーできたわけではない。結果、宝の持ち腐れとなる例が後を絶たなかったわけじゃ」
「それを魔術陣として普及させることで魔術系スキル持ちなら誰でも魔術を使えるようにしたということですね。歴史的にも大変、意義深い業績だと思います。それこそ魔術の教科書に載るくらいの。このような偉業を二十にも満たない年齢で成し遂げたヒューストーム先生が、王国ではあまり評価されていないと聞いていますが事実でしょうか?」
一人の生徒の講義とは関係ない不躾な質問に、満員の講堂かザワザワと騒がしくなる。
一方、当のヒューストームは肩を竦めた。
「儂は評価されていないとは思っておらんが……、そうさな、評価というものは何を基準にするかで変わるものじゃ。そんな曖昧模糊としたもの、それこそ未来の人間に任せておけばよい」
「それでは王国の評価基準は何に重きを置いているのでしょうか?」
「残念じゃが、それは答えられん。王国の機密に関わることゆえな」
ヒューストームの回答に、質問した女生徒は特に不満を見せることなく、別の質問をする。
「魔術陣は魔術式を図形化したもので魔術式と同一とみなしてよいものとわかりましたが、それらと魔術系スキルはどのように関係するのでしょうか?」
「よい質問だ。これは儂の個人的な見解で様々な説があることはここにいる者は皆知っていよう。それを踏まえた上で聞いてほしいのじゃが、儂は魔術式を"道順"、魔術系スキルを"環境"と考えておる」