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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
一章 ムルマンスクの孤児
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5 ハワード孤児院

「グレアムにーちゃん」


 夕方、森から返る途中で孤児院の子供達と遭遇した。


 子供達の手にはネズミ退治用の道具が握られている。


 彼らも仕事帰りなのだろう。


 ネズミが増えると色々と問題があることはこの世界の人間達も分かっているのだろう。定期的にネズミを駆除する必要があり、それは孤児院の子供達の仕事となっている。


「お疲れ様。ほら、みんなで食べな」


 グレアムはカゴから果物を出すと子供達に渡した。


「ありがと! にーちゃん!」


 よほどお腹が空いていたのだろう。本当に嬉しそうに礼を言ってくる。


「あ、そうだ。これ」


 子供の一人が太い針金で編みあげられた箱をグレアムに渡した。


「いつも通り一匹だけ殺さずに持ってきたよ」


「ああ、ありがと。助かるよ」


 中には忙しなく動き回るネズミがいた。


「レナねぇちゃん! それにタイッサねぇちゃんも!」


 グレアムが檻の中を確認していると、子供達が二人の少女に駆け寄っていった。


「おかえり! レナねぇちゃん!」


「ただいまみんな。元気にしてた?」


 レナ・ハワードは子供達に優しく微笑みかけた。


 彼女は孤児院長トレバーの一人娘だ。


 所用でしばらく街を離れていたのだが、先程帰ってきたところだった。


「レナさん。おかえりなさい。その様子だとうまくいったようですね」


 疲れは見えるものの、レナの表情は明るい。


「ええグレアム。おかげさまでね。万事解決ってわけではないけれど」


「あらグレアム、師匠の私に挨拶はないの?」


「タイッサさんも、おかえりなさい」


 そう言って近づいてきたのは、狼を連れた十代後半の少女だ。


 彼女の名はタイッサ。


 グレアム達と同じハワード孤児院出身の傭兵だ。


 彼女は「狼使役」スキルを持っていたため、孤児院を出る歳になると街の傭兵ギルドに所属して傭兵稼業を始めた。


 今回はレナの護衛についていたのだろう。


 大きな背嚢を背負い、剣と革鎧を身に着けていた。


 グレアムの師匠というのは、同じ使役系のスキルを持つことから、一時期、タイッサに師事していたことがあるためだ。


 こうして何かと師弟関係を強調してくるのだが、なぜかグレアムがタイッサを師匠呼ばわりすると怒る。


「王都はどうでしたか?」


「特に変わりなしよ。そちらは?」


「それが……、少し困ったことが起きたかもしれません」


「何よ? 意味深ね」


「それで、お二人に相談したいことがあるのですが――」


 話ながら歩いていると、いつの間にか孤児院に着いていた。


 先に行った子供達が門の前で中の様子を伺っていた。


「どうしたの?」


 グレアムが中を覗くと、ガラの悪そうな男達を引き連れた金貸しのデアンソが院長のトレバー・ハワードに詰め寄っているところだった。


「院長先生。うちも慈善事業でやっているわけではないのです。いいかげんに返していただけないとこちらも困るんですよ」


「……」


「ふむ。私も悪魔ではありません。返すあてがないのでしたら、代わりのものでも構いせんよ」


「代わり?」


「そうですね。この孤児院なんかどうでしょう。我が商会に譲渡していただければ、借金を帳消しにするということで」


「そ、それは困る。ここを失ったら私達はどこにいけばいいんだ?」


「街の外で新しく孤児院を開けばよいのでは?」


「子供達に壁も堀もない場所で暮らせっていうの!?」


 デアンソの言葉にタイッサが憤慨して飛び出した。


「タイッサ! 落ち着いて!」


「おや、レナお嬢さん。お帰りでしたか」


「デアンソさん。子供達が街の外で暮らすのは無理です。魔物に殺されてしまいます」


 レナも静かに、だが怒りで杖を握る手を震わせて抗議する。


「それは私達の預かり知らぬところです。領主様にでもお願いしてください。まぁ、もっとも、領主様から頂いた運営資金を賭博で溶かしましたなんて、正直に言えるならの話ですが」


 デアンソの言葉を受けてトレバーがうな垂れた。


 トレバー・ハワードは若い頃から真面目で実直と評判の男だった。


 それこそ領主から孤児院の運営を任されるほどに。


 だが、数年前に最愛の妻を流行り病で亡くした。


 落ち込むトレバーを悪友が気晴らしにと賭博に誘ったのだ。


 遊びを知らず生きてきたトレバーは、最初の大勝ちで賭博にのめり込み、孤児院の運営資金に手をつけた上、負けがこんでくると、その負けを取り返そうと借金までした。


 その相手が高利貸しで有名なデアンソだった。


「……お金なら今ここでお返しします」


 レナが背嚢から金貨の詰まった革袋を取り出す。


 レナは「治癒魔術」というレアスキルの所持者だった。


 孤児院の運営が忙しくギルドには所属していなかったのだが、今回、ギルド所属の傭兵を優先的に直す、ギルド要請のクエストに強制参加という条件でギルドから金を工面することに成功した。


 街を離れていたのはクエストに参加できる体力がレナにあるかを見るための試験だった。


「ふむ。確かに、利子分まできっちりあるようですね」


「ふん。だったらさっさと行けよ。そのまずいツラ、二度と見せるな」


 タイッサが毒づく。


「それがそうもいかないのですよ」


 デアンソは余裕の表情を崩さない。


「デアンソさん。どういうことです?」


 レナは嫌な予感がしたのだろう。杖をギュッと握りしめた。


「実はですね。院長先生は最近、別の人からもお金を借りたのですよ。

 その証文が何の因果か私の所に回ってきましてね」


 そう言ってデアンソは一枚の羊皮紙を取り出した。


「期日は三日後です。それまでに、お金を用意しておいてくださいね」

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