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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
四章 オルトメイアの背徳者
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131 三番目の師 25

 右手がドリルになったり、ピクルスと一緒に漬けられた右手をローリーに美味しく食べられたりした悪夢からグレアムが目を覚ますと、そこは自室でベッドの上だった。義手をつけたときの激痛で意識を失った後、そのまま睡眠に移行したのだろう。


 右手の甲を目の前にかざす。爪も産毛もある。血管もうっすらと見える。裏返すと手相が刻まれているそれは普通の手にしか見えない。ただ、左手に比べると一回り小さい気がする。二年前の右手をベースしたからだろう。このまま小さいままなのだろうか。それとも成長していくのだろうか。右手首の脈をはかってみるとドクドクと一定周期で血が流れていた。


 開く握るを繰り返してみる。問題なく動き、感覚もある。左の指で手の甲の皮を摘んでみる。痛い。事情を知らなければ、これが義手と言われても信じられないだろう。


(……)


 ベッドの上で少し考えてみる。


 ケルスティンには、ほんのちょっとは感謝してもいいかもしれない。だが、どこまでケルスティンは見越していたのだろうか。


 グレアムが右手を失ったのは偶然だ。だが、ケルスティンが右手の義手を用意していたことについては偶然と見過ごすには問題がある気がする。


(……)


 グレアムは少し考えて、考えるのを放棄した。考えても仕方がない気がしたからだ。ケルスティンに会えば徹底的に尋問して何もかも吐かせてやる。そう決意して、グレアムはベッドを置き上がった。


 かように周到に用意されていた義手にグレアムはケルスティンの陰謀らしきものを感じていたが、真相はほぼ偶然に近い。二年前、第二次クサモ攻防戦においてグレアムはティーセと戦い彼女によって左手を斬り落とされる。それを千里眼の魔道具で観ていたケルスティンはこの左手を使って魔導義手を作ることを思いつく。それはMルートでマイクのために魔導義手を作ったことをうっすらと思い出したからだった。


 ところがソーントーンに拾いにいかせた左手は高所からの落下で破損が激しかった。これでは必要な機能が生着するか怪しい。ついでにMルートで作った魔導義手は右手だった。


 そこでソーントーンに右手を斬り取りにいかせたのが、今グレアムがつけている義手製造の経緯であった。この事実はずっと後になって知ることになる。


 トイレで用を足した後、洗面所に向かう。どうやら眠りすぎたらしい。既に正午を過ぎていた。


 洗面所には"透視"のコンタクトレンズと修復された眼鏡。それと黒い革手袋もあった。左手に比べれば白く小さい非対称の右手を気にする人間は気にする。それに対するソーントーンの配慮だろう。


 冷たい水で顔を洗う。


「ふぅ」


 タオルを探して右手をまさぐると「どうぞ」とタオルを手渡される。


「ん」


 その声が透き通った女性の声と気づいたのは顔を拭った後だった。


「……ジョスリーヌ様――、いえ、ユリヤ殿下。どうされました?」


 グレアムにタオルを渡してくれたのはジョスリーヌ型生体魔導人形だった。


「おはよう、レビイ。お互い無事だったようね」


 ジオリムの件で聖国の襲撃を警戒していたが、どうやら杞憂だったようだ。グレアムの無事を確かめにジョスリーヌを遣わしたのだろう。


「それと報告を。ごめんなさい。預かっていたあの女の子だけど……」


 迷宮で見つけたサウリュエルにそっくりの少女。宿舎の一室で寝かせていたが、気づいたらいなくなっていたという。


「鍵をかけていたはずなのに」


 彼女が追憶の天使ならば、壁や扉などあってないようなものだ。


「壁を通り抜けたのでしょう。仕方がありません」


「昨夜も聞いたけど、本当に天使様なの?」


 迷宮に一人、裸で意識を失っていた少女。普通なら魔物に殺されていてもおかしくない。この異常な存在のことを、ひょっとすると天使かもしれないとユリヤに伝えていた。


「知り合いの天使にそっくりなだけで本人とは限りませんが」


「知り合いって……。時間があれば、もっとじっくり聞きたいところだけど」


 ユリヤは今日の夕方にはオルトメイアを出て、聖都の大使館で一泊。その翌朝に帰国の途に就く予定だという。帰国の準備と、ある作業のため忙しくほぼ徹夜した。ようやく時間が取れたので、こうして連絡してきたのだという。


「……もしかして待たせました?」


 悪夢にうなされたとはいえ、グースカと眠っていたことに悪気を覚える。


「パトリクさんは起こそうとしたけど寝かせるように頼んだのは私よ。まだ、お礼を言ってなかったわね。ありがとう。あなたのおかげで二十年前の真相を掴めそうよ」


 ジオリムの遺体から何か分かったのだろうか。ユリヤとドクタードリルの医療施設で別れた後、彼女はジオリムを宿舎に持ち帰り、何かを調べると言っていた。


 だが、ジオリムの遺体をオルトメイアの外に持ち出せなければ、二十年前の災厄に聖国が関わっていたと証明できない。ユリヤには何か策があるようなことを言っていたが……


「じゃあ、ジョスリーヌをよろしくね」


「よろしく?」


「あるものを預かって欲しいと頼んだでしょう?」


「ああ、そういえば。え? あるものってジョスリーヌの生体魔導人形?」


 ジョスリーヌを持って帰らないのだろうか。


「理由は夕方、見送りの場にきてくれればわかるわ。ありがとう。おかげでやりやすくなったわ」


「?」


 何のことかと疑問に思う。


「総合試験でレイバーに勝ったのよ。あなた」


「……」


 ユリヤの名誉をかけて総合試験の成績でレイバー・ロールと勝負していたことを完全に忘れていた。しかし――


「え? 勝ったんですか?」


「ええ。今朝、貼りだされていたわ。結構な騒ぎになってるわよ」


 実技試験でグレアムが倒した魔物はコカトリス一体だけだったはずだ。それでレイバーに勝利できるとは……


(っ!)


 その時、グレアムはある可能性を思いついて、嫌な予感がした。使役魔術で召喚したローリーは、グレアムのもとから逃げた後、重力魔法で魔物を圧し潰したという。それがカウントされた可能性だ。そして、その重力魔法はかなりの広範囲に及んだという。嫌な予感というのはそれだ。思いの外、高得点になったのではないか。もしかして、また悪目立ちするような……


 ユリヤに順位を聞こうとすると、ジョスリーヌ型生体魔導人形はニコリと笑って辞去を告げる。


「それじゃあ、またあとで。あ、ジョスリーヌを使役魔術の練習に使ってもいいわよ」


 ジョスリーヌが動きを止めて人形に戻る。喋って動いていた時は本当に人間にしか見えなかったのに、今は精巧な人形にしか見えない。


「え? ちょっと待って!」


 若い女性の、それも等身大の人形を自室に置いて、他人にどう思われるかを考え、グレアムは戦慄した。


 下手すれば社会的に死ぬのではないか。

 

(…………)


 とんでもないものを置いていかれたと、グレアムは頭が痛くなった。いっそのこと森のどこかに埋めようか。真剣に検討するが、ユリヤに返す時にカビだらけになっていたらユリヤは怒るだろう。


 扱いに困ったグレアムがジョスリーヌをピクルスの瓶詰めの隣に置こうと画策して、当然のことながらソーントーンに拒否られる。仕方なく自室のクローゼットに置くことになった。


 ◆


 そして、掲示板に貼りだされていた第二回月末試験の成績である。


「……」


 グレアムの予感は当たっていた。


●レイバー・ロール

・授業態度:50/100点

・筆記試験:166/200点(減点なし)

・実技試験:198/400点

・研究論文:271/400点

・総合得点:685/1100点(5位)


●アルベール・デュカス・オクタヴィオ

・授業態度:90/100点

・筆記試験:191/200点(減点なし)

・実技試験:201/400点

・研究論文:392/400点

・総合得点:874/1100点(2位)


●レビイ・ゲベル

・授業態度:33/100点

・筆記試験:190/200点(減点なし)

・実技試験:534/400点

・研究論文:381/400点

・総合得点:1138/1100点(1位)


 ちなみに、歴代最高得点だった。

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