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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
四章 オルトメイアの背徳者
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125 ジオリム 5

ジオリム編ラスト

「GAAAAA!」


 怪物に変化したジオリムが怒りの声を上げる。その胴体には石の塊が複数めり込んでいた。これが高速で飛来しジオリムを吹き飛ばしたのだとグレアムは推測した。


「撃て!」


 白サイの背に乗った女――ユリヤ・シユエがそう命じると、白サイ、白カバ、そしてグレアムを鼻で持ち上げている白ゾウの背に装備されている砲身から椎の身形の石がバシュッっと飛び出した。


 ドガガガ!

「GURUAAAAA!!」


 それらが直撃し、ジオリムが苦痛の声を上げる。


(そうか。実体弾)


 自分に<怪我治療(ヒーリング)>をかけながらグレアムは考える。すべての魔術を消去する<魔術消去(マジックイレイサー)>でも運動エネルギーによって飛来する砲弾までは無効化できない。大型草食動物の姿を模した三体の生体魔導人形が身につけている大砲は石弾を生成・発射する魔道具だろう。しかも、ジオリムの傷の再生が遅い。おそらく弾にダムダム効果を持たせているのだろう。ジオリムの体の中は広がった弾頭でズタズタになっている。


 以前見た時は胴体の両脇から伸びた魔杖が<魔矢(エナジーボルト)>や<火矢(ファイヤーボルト)>を飛ばしていた。<魔術消去>対策として装備を変えたのだ。ということはユリヤは、あの怪物が"マンハント・ザ・スーパースター"だと知っていたことになる。


「麗しき我が君(マイロード)。助けていただき、ありがとうございます。ところで、いつから?」


 上級剣術の授業でジオリムと模擬戦を行った際、ユリヤは小鳥型魔導人形で観察していた。おそらく、今回もそれを使っていたのだろう。でなければ、こんな絶妙のタイミングで介入できるわけがない。


「あなたがリンゼイ・ポルムとグラウス・シャマランを拘束したところから、かしら」


(ほぼ最初からすべてじゃねぇか!)


「それなら、もう少し早く助けていただければ」


「……私にも都合があってね。それに私の助けなんて必要なかったんじゃない?」


「いえ、そんなことは」


「あなたの眼は死んでなかったわ。

 何かをやろうしてたんでしょ?

 何かを呟いていたように見えたけど」


「……辞世の句を詠もうかと」


「そんなタイプじゃないでしょ!」


 内心、グレアムは冷や汗を流した。

 見られなくてよかったと。


 グレアムがやろうとしていたこと、それは最後から二番目ぐらいの切り札だった。ただ、リサイクル品を使用しているため、たった一回の使用で壊れる可能性が高い。だから、この切り札はレナ・ハワード救出のためにしか使わないと決めていたものだった。


「おおかた、その胸の中に入れているものかしら?」


「……(なぜ、それを知っている!?)」


 全身を叩きつけられて負った怪我の苦痛がなければ、グレアムは驚きを顔を出してしまっていたかもしれない。検知魔術を使っても体内を巡る自然魔力のせいで体の中まではわからない。【透視】でも体の中まで見ることはできないのだ。


「その異常な回復力とか、他にも色々聞きたいことがあるけど。後でゆっくり話しましょう」


「……ええ、そうですね」


「GAAAAA!」


 雨あられと飛んでくる石弾にジオリムは怒りの声を上げた。大蛇のような尻尾が螺旋を描くように回転し石弾を防ぐ。


「もう対処したか」


「……悪いけど、あなたの治療をしている暇はなさそうね」


「それは大丈夫です。<怪我治療>を使うだけの魔力は残っていましたから」


 グレアムとユリヤがいる場所は<魔術消去>の範囲外にあるようで魔術が使える。残された本当にわずかな魔力で自分に<怪我治療>をかけて命に別条はないぐらいには回復できていた。


「ただ、助力できそうにありませんが」


「構わないわ。あいつを倒すのはシユエ公国王族である私の務めよ」


 ユリヤは白サイの背中から飛び降りる。グレアムも地面に降ろされた。


「行きなさい! ミルク! クリーム! スノウ!

 戦闘用魔導人形の真髄を見せてあげなさい!」


 ユリヤが号令すると白サイ、白カバ、白ゾウがそれぞれ雄叫びをあげてジオリムに近づいていく。


「!? <遠隔制御リモート・コントロール>が!?」


 ジオリムに近づけば、<魔術消去>によって生体魔導人形を操る魔術が解除されてしまう。いや、その前に魔道具である魔導人形も無力化されてしまうのでは?


「問題ないわ。この子たちは天才魔道具師ウルリーカの設計による純粋魔物素材魔道具(マテリアルギア)! さらに、音声入力で命令が可能! ミルク! ペネトレイトアタック! クリームとスノウは回り込んで援護!」


 白サイの角が光輝いて鋭く伸びるとジオリムにまっすぐ突進していく。クリームとスノウは横に回り込みながら石弾を飛ばす。


(ゾ〇ドと思ったらポ〇モンだったか)


 二つとも優が好きだったのでグレアムも覚えている。特にポ〇モンは交換しないと手に入らないキャラがいるので一緒にやらされていた。


 ユリヤはポ〇モンバトルよろしく、的確に指示を飛ばしてジオリムを削っていく。


 ミルクの角がジオリムの尻尾を半分斬り落とすと、スノウが発射した弾がジオリムの頭上で爆発し、開いたネットがジオリムの全身に覆いかぶさった。


 ジオリムは剣でネットを切り裂こうとするが、ネットはアダマンタイト合金でできているようで、ジオリムがいくら剣で切りつけてもネットは網の目一つ裂けることはなかった。


「クリーム、スタンプ!」


 動きが封じられたジオリムに白ゾウが迫り後脚だけで立つ。


「パォオオーン!」

 ドォン!


 雄叫びと共に二本の前脚がジオリムの胴体に叩きつけられた。


「GAA!」


 悶絶するジオリム。そこに――


「ミルク、放り上げ! クリーム、突進!」


 白サイの角がジオリムの体の下に潜り込み、そのまま頭を上げてジオリムを空中に放り上げる。そこに白カバが突進してジオリムは岩壁に叩きつけられた。


(強い)


 ほとんどワンサイドゲーム。ジオリムは反撃も逃げることもできない。ウルリーカがこれほど強力な魔導人形を作り上げていたとは。


(いや、違うな)


 ウルリーカの魔導人形も強いが、それだけではない。ユリヤが書いた『進化型魔物の攻撃行動と討伐戦略Ⅰ:"マンハント・スーパースター"の危険度評価』。内容も素晴らしかったが、読んでいて感じさせたのは、二度とあのような悲劇を起こさせないというユリヤの覚悟だった。


 ユリヤは、シユエの王族は、ずっと準備をしてきたのだ。

 "マンハント・ザ・スーパースター"への対策を。

 その集大成が、今ここに発揮されている。


(ああ、美しいな)


 グレアムは初めてユリヤ・シユエをそう思った。

 責任ある立場の者が、その才覚をかけてその責任を果たそうとしている。

 彼女の容姿ではない。その生き方に、その在り方に、美しさを感じた。


「GUOOOON!」


 度重なる攻撃に、とうとうジオリムは断末魔の叫びをあげた。地響きを立て地面に倒れると、動かなくなる。


 そうして実に二十年越しの"マンハント・ザ・スーパースター"の討伐は本当にあっけなく終わってしまった。


 急速に萎んで元の体に戻っていくジオリム。それを見つめるユリヤの心境は複雑そうに見える。今回の件で"マンハント・ザ・スーパースター"の災厄に、聖国が深く関わっていることが露呈したのだ。公国と聖国の関係がこれからどう変わっていくのか。


「とりあえず、今は公国の仇敵を撃ち滅ぼしたことを素直に喜んでは?」


「……ええ、そうねグレアム。立てる?」


「ちょっと無理……」


(今、彼女は何と言った? ()()()()と言ったか?)


 心臓が早鐘を打つ。


(バレた? なぜ?)


 いや、単なる言い間違えかもしれない。

 カマをかけているだけなら、徹底的にすっとぼける。


「グレアムとは誰のことです? 私は名前はレビイ・ゲベルですよ」


 特に焦る様子も見せず、そう平然と返した。

 こういう事態を想定して訓練してきてる。

 どんなに追及されようと、躱す自信があった。


「ああ、そうだったわね。間違えたわ。最近、グレアム・バーミリンガーのことばかり考えていたものだから」


「果報者ですね、そいつは。姫にそこまで思われているなんて。グレアムとは()()グレアムですよね。スライム使いの」


 いける。冷静に話を進められている。


「ええ。女性の服だけ溶かすスライムの研究をしている変態の」


「…………………………………………」


 空気が凍り付いた音がした。


 ジョセイノフクダケトカスすらいむノケンキュウ?

 ダレガ?

 オレガ?


「するかあ! そんなもん!」


「ええ?」


「あ」


 グレアムのうっかりと、ユリヤのドン引き顔で、二人の第二回実技試験は終わった。

次回はユリヤ視点

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