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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
四章 オルトメイアの背徳者
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121 ジオリム 1

●ジオリム・クアップ

 学生自治会(ブルーガーデン)の役員。"剣聖"の孫。ヤン曰く、『何も考えてないヤツ』。


●リンゼイ・ポルム

 男爵令嬢。ユリヤを嵌めた。防御系スキルの【アイアンスキン】を持つ。


●グラウス・シャマラン

 リンゼイの母方の祖父。シユエ公国の魔術師にして元オルトメイア駐留魔術師。現在は公国がオルトメイア内に借り上げている宿舎の管理責任者。リンゼイの不正に手を貸す。

 ジオリム・クアップについて、グレアムが知ることは多くはない。先述した以外には剣聖の一番弟子で双剣を巧みに使うということくらい。先日の"上級剣術"の授業で行った模擬戦では、グレアムは彼に敗北を喫している。


「すっげぇなあ! あんた! 前はぜんぜんたいしたことなかったのに戦ううちにどんどん強くなった! まさか、おいらの"フラッシュ・デス(瞬く間に死んでいる)"を防いで反撃までしてくるなんて思わなかったぞ!」


 "フラッシュ・デス"とは、予備動作なくヌラリとした高速移動後の二連撃のことだろう。身体にあわせて動体視力も強化されていたグレアムは、ソーントーンの訓練(の記憶)もあいまって防ぐことができたのだ。


会長(アルベール)でも初見は防げなかったのに! なあなあ、おいらの技、見たことあったのか!?」


 興奮して叫ぶジオリムにグレアムは戸惑いを隠せなかった。グレアムの腕輪を回収する(おそらく逃がさないためだろう)など、その振る舞いからもしかすると人間ではないかとは思っていたが、その正体まではわからなかった。ましてや公国で大量虐殺を行った"マンハント"と呼ばれる魔物の中身がジオリムとは完全に想定外だった。


「ジオリム。君が、"マンハント"なのか?」


 そう訊ねながらも違うだろうと思っている。"マンハント"による災禍は二十年も前だ。ジオリムはきっと生まれてもいない。だが、公国の魔術師であるリンゼイの祖父グラウスはジオリムを一目見て、"マンハント"と断じた。公国に災禍を起こした"マンハント"とは違う存在でも、何か関係があるのかもしれない。


「違う違う!」


 案の定、ジオリムは否定する。


「"マンハント"じゃない!

 "マンハント・()・スーパースター"!!!

 "リッパー"でも"マンハント・スーパースター"でもないからな!」


「……」


 否定したのは呼び名だった。


「……名前にこだわりがあるようだが、呼びにくい。

 いつの間にか省略して呼んでたぞ」


「ダメ! ちゃんと正式名で呼んでくれ!」


「……さっき言ってた"リッパー"じゃダメなのか?

 そっちのほうが断然()()()()『ダサい!』と思うんだが」


 ……『ダサい!』と叫んで否定したのはもちろんジオリムである。


「……"マンハント・ザ・スーパースター"のほうがくそダサいと思うんだがな」


 というか何で災禍に肯定的な呼称をつけるんだよ。殺人鬼(切り裂きジャック)に"スーパースター"ってつけるようなもんだぞ。異国には時折、理解しがたい文化が存在する。ましてや異世界だ。公国にそういう文化でもあるのかと思ってスルーしていたが。


「なんでだよ!? めちゃくちゃ格好いいじゃないか!」


「……いいかあ?」


 絶対に"リッパー"のほうがいいと思うがなあ。

 わかりやすいし。


 首を捻るグレアム。グレアムとジオリムとのネーミングセンスには著しい乖離があるようだった。


「まあいい。質問に答えてくれ。君とリッ――」

「"マンハント・ザ・スーパースター"!!!」


「……なぜ、そんな恰好をして俺を襲ってきた?」


 とりあえず呼称の問題は脇に置くことにした。

 "酒の席で政治(主義)宗教(信仰)野球(推し)の話はするな”

 先人は偉大な言葉を残してくれた。

「酒の席」ではなく「酔狂の場」だが。


「ああ、それなんだけどさ、おいらって使役魔術が苦手だろ」


「まあ、得意そうには見えないな」


 何でも剣でゴリ押しするタイプに見える。……何で魔導学院にいるんだ?


「筆記試験とか研究論文は"ウィル"のおかげでなんとかなるんだけど、さすがに実技は無理じゃん」


「……そうだな」


 聞き捨てならないことをサラッと語るジオリム。

 "ウィル"ってなんだ?

 もしかして、不正の告白を聞いた?

 疑問は尽きないが、とりあえず話を進めるために置いておく。


「どうしようかウィルに相談したらさあ、前回の試験で不正をしたかもしれないヤツがいるそうなんだよ」


「不正?」


 まさか、前回の実技試験のことだろうか。ユリヤが倒したミノタウロスをグレアムが倒したとカウントされたおかげで、グレアムは実技試験で五位という好成績を取れたのだ。だが、あれは――


「おい。前回の実技試験のことならちゃんと申告したぞ」


「あんたのことじゃないよ。そこに転がっていた……何て言ったかな? レイバーの彼女の……」


「リンゼイ・ポルム?」


「ああそうそう! そいつそいつ! で、そいつが不正してそうだから何とかしたら実技試験のポイントにしてくれるっていうんだ」


「ウィルが?」


「そうウィルが! 去年、おいらだけBクラスになって、すごく嫌だったんだ。だからウィルからの仕事は、すごく助かると思ったんだ!」


「……」


 "ウィル"――何者だ?

 試験にかなりの権限を持っているように思えるが。


「それでさ、ウィルに案内されてここに来ると、妙なことになってるじゃん」


 不正したリンゼイは<マジック・ロープ>で拘束され、それを庇うように明らかに受験者ではない怪しい老人がレビイ・ゲベルと対峙している。


 ジオリムは混乱した。

 何がどうなってるんだ?

 どうしようか考えた。

 …………。

 眠くなった。

 よし、全部殺そう。


「…………え? 俺、そんな雑な理由で殺されかけたの? 右手切断の重傷なんだけど」


 ジオリムに斬られた腕が今も痛い。


「魔物殺した数だけポイントになるじゃん。今回も一緒かなと思って」悪気無く笑顔で語るジオリム。


「……」


「女には逃げられて、腕だけのゴーレムに殴られたり変な幻獣に変な攻撃食らったりして散々な目にあったけど、あんたとの戦いは楽しいよ! こんなに楽しいの久しぶりだ!」


「そうか。そりゃよかったな」


 散々な目にあったとはこっちのセリフだ!


「じゃあ、もういいだろう。腕輪返してくれ」


 色々と文句を言いたいが、今はそれよりも使役魔術の支配を断ち切って逃げたローリーを追いたい。ローリーが向かった先で攻撃魔術の光が見えたが、他の受験生達がどうなっているか不安しかない。


「なんで?」


「? 殺す気がなくなったから顔を見せたんじゃないのか?」


「違うよ。ぜんぜん違う。何て言うかさ。

 こう、おいらの感動を伝えたかっていうのかな?

 とにかく、あんたには感謝してるんだ!」


「…………」


 ジオリムの眼はどこまでも純粋に輝いていた。

 狂気を感じるほどに。


『気をつけろ。剣聖の弟子どもは全員剣狂い(ソードジャンキー)だ』


 ソーントーンの警告が脳裏によみがえる。

 不穏な空気を感じ取り、グレアムは臨戦態勢をとった。


「それにさあ」


 ジオリムは地面に突き立てた剣を右手に嵌め直すと――


 ガキン!


 再びの高速移動でグレアムの目の前に迫り、剣と剣を打ち合った。


「おいらの正体を知ったヤツは殺せっていわれてるんだあ!」


「正体って何だよ!? 変なコスプレしてるだけだろが!」


「コス? それはよくわかんないけど、おいらが"マンハント・ザ・スーパースター"って知っちまっただろ!」


 お前が顔を晒したからな!

 理不尽にもほどがある!

 

「だから何だ!? 二十年前の公国の災禍に聖国が関係してんのか!?」


 切り結びながら会話する。


「そうだよお! 命令されてねえ!」


「命令!? まるでお前自身が災禍を引き起こしたかのようじゃないか!」


「おいらだよ! おいらがやったのさあ!」


「はあ!? 歳があわねえだろ!」


「眠ってたんだよ!

 ほとぼりが冷めるまで!

 会長の入学で起こされたんだあ!

 お供にってなあ!

 退屈な学院生活だったけど、今、おいら楽しくて仕方がない!

 こんなに楽しいのは、シユエで殺しまくって以来だあ!」


 剣を何度も打ち合いながら、ジオリムは本当に楽しそうに笑っていた。


 その一方でグレアムは、すっと頭のどこかが冷えていく感覚があった。


 ピシッ!


 強化された聴覚がロングソードから発せられた乾いた小さな音を捉える。


「……」


 グレアムがオルトメイアに来て初めて触れる聖国の闇。


 それに触発されるように純粋な殺意が鎌首をもたげ、心に侵食していった。

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