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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
四章 オルトメイアの背徳者
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110 三番目の師 16

 天を見上げると黒の背景に小さな光が瞬いている。まるで夜空のようだが、黒の背景は土と岩とそれらにからみつく植物の根で、光はシロツメクサの花弁だ。この世界のシロツメクサの花がすべて光るのかは知らないが、少なくともこの迷宮(ダンジョン)に咲くシロツメクサは光るらしい。


 石筍や岩にもそのシロツメクサは咲き誇っている。おかげで光の入らない迷宮でもありがたいことに暗闇に包まれることはない。


 一般的な成人男性の腰ほどの高さしかないウッドゴーレム。それが連隊を組んで迷宮を行進していく。前列の十体は三メイルを超える槍を持ち、中列の十体はクロスボウを持つ。最後列には銀糸が誂えらえた赤い肩掛けローブを羽織った学院生が五人。彼らはチームを組んでいるのだろう。同一規格で製造されたウッドゴーレムの槍衾に飛び込んだグールは串刺しになり、上から襲い来るテラーイーグルは(ボルト)の餌食になって落ちた。


 コカトリスは毒の息を広範囲に吐く。それに対し、精霊サラマンダーの吹いた炎が可燃性の毒を燃やし尽くす。そして、サラマンダーの体は炎の矢となってコカトリスの口に飛び込むと、体内の毒袋に引火して内側からコカトリスを焼き尽くす。後にはローストチキンと蛇の丸焼きが残った。


 壁を走って逃げるブラッドクーガー。その背中に上から強襲したブラックホークの爪が食い込む。力強い羽ばたきで、ブラッドクーガーを壁から引きはがすとそのまま地面に叩きつけた。ピクピクと痙攣するブラッドクーガーに止めとばかりに急降下したブラックホークが頭を潰す。


 ミノタウロスをホワイトファングの群れが襲っていた。一頭が振り回される両手斧を躱しミノタウロスの足首に噛みつくと、ブチブチと音を立てて筋を引き裂く。ミノタウロスはたまらず前のめりに倒れると、上半身にすかさずホワイトファングが殺到し鋭い牙を突き立てていく。


 そこはオルトメイア大迷宮第六階層――通称、曲芸団(サーカス)の教練場。四方三キロメイルの広大なフロアの各所で今、魔物とAクラス学院生が使役する幻獣、精霊、魔導人形(ゴーレム)による激しい戦いが繰り広げられている。


 第二回月末実技試験が始まった。


 ◇


『二回目の実技試験では君たち学院生が魔物を倒してもポイントにはならない』


 一月前、次回の月末試験の説明を行う試験官は最初にそう語った。


『試験の目的は君たちが習得した使役魔術の完成度を測ることを目的とする。それゆえ、<魔矢(エナジーボルト)>のような攻撃系魔術で魔物を倒しても点数はつかない。無論、剣を使っても同じだ』


「うそでしょ」


 グレアムの隣に座るティーセが机に突っ伏した。彼女はピュアミスリルの剣で魔物を倒す。今の説明通りならば、当然点数はつかない。


「いじめ? 不正よ、不正」


 ティーセは先の実技試験で上限の400点を超える524点という前代未聞の数値を叩きだした。学院側がその対策として、そんなルールを言い出したのではないかとグレアムも一瞬疑ったが試験内容は毎年変わらないとのことだ。周囲を見渡してみても動揺や驚きは見られない。周知の事実なのだろう。


「まあ、考えてみれば()()学院なんだから、剣で倒しまくるのもどうかと思うぞ」


 魔術を使え、魔術を。


「うぐぅ」


 正論を言われ恨めしそうにグレアムを見る。


「何よ。余裕そうじゃない。強い幻獣でもオルトメイアに持ち込んでるの?」


「別にそういうわけじゃないけど」


(やっぱり、こいつ勘がいいな)


 口では否定しつつ、ティーセの勘の良さに感心する。ティーセの指摘はほぼ的を得ていたからだ。とはいえ、その幻獣で魔物を倒すとしてもいくつか問題がある。それを解決するためにグレアムは手を上げた。


「質問よろしいですか?」


『構わない』


「攻撃魔術以外の魔術を使用した場合、ポイントはどうなるのでしょうか? 例えば<プラント・バインド>で魔物を拘束して、幻獣が止めを刺すという場合です」


『状況にもよるが、その例ならばポイントはつかないだろう。あくまでも試験の目的は君たちの使役魔術を測ることだ。<プラント・バインド>によって魔物は無力化したと判断される。どうやって止めを刺したかは問題にならない』


 使役魔術で無力化しない限りポイントにならないと考えたほうがいいわけか。


「使役魔術以外で魔物を倒した場合にペナルティはありますか?」


『ない。ポイントがつかないだけだ。不意に襲われた場合に、剣や<魔盾(マジックシールド)>で身を守るくらいなら問題ない』


「では、身を守る過程で魔物を傷つけてしまった場合は? 最終的に使役魔術で倒したとしても減点されたりするのでしょうか?」


『減点はない。ポイントがつくか、つかないかしかない』


 仮に倒せば10ポイントつく魔物がいたとして、それを剣で腕か脚でも斬り落として半死半生にし、最後に幻獣が倒しても、半分の5ポイントのみつくということはないとのことだ。ではこの場合、10ポイントがつくのか、つかないのかというと――


『使役魔術で倒したかどうか判断する――その基準を学院側は君たちに提示することはない。使役魔術以外でどの程度、魔物を傷つけてもポイントになるか、そんなことを気にするなら使役魔術の腕を磨き給え』


 学院は相変わらずの強気姿勢(ストロングスタイル)だ。現代日本なら受験生からクレームがつくと思う。


「では、()()()()()()()()()使役魔術を使用した場合、実技試験が終わるまでポイントになったかどうかは、わからないということでしょうか?」


 グレアムの発言に周囲から失笑が漏れた。"従来と異なる特別な"使役魔術とは、"新しい"使役魔術を開発してみせたということに等しい。熟練の研究者ならともかく、ただの一学生ができるわけがない。総合一位をとって調子に乗ってると周囲は思ったことだろう。


『……当学院では"思考"と"試行"を重視する。オルトメイアの本質は研究機関だ。実技試験を実地研究の場とすることに何の問題もなく、むしろ好ましい姿勢ともいえる』


 筆記試験よりも研究論文の方が配点が高いことからわかるように、この学院は受動的な学習よりも能動的な研究の方が評価される。既知の問題を正確に答えることよりも、未知の課題や従来より最善な方法を見つけ出すことの方が価値があると考えている。


『とはいえ、好ましいだけでポイントになるわけではない。使役魔術で魔物を倒せば、実技試験中に貸与した腕輪の宝石が光る。それで判断したまえ』


「試験の前に試すことはできないのでしょうか?」


『……君にその権限はない』


 なんだか権限があればできそうな言い方だ。もしかすると学生自治会(ブルーガーデン)に入ればできるのだろうか。あそこは学生でも様々な権限が与えられると聞いたことがある。


 とはいえ、留学生レビイ・ゲベルに望むべくもない。最後に礼を言って、グレアムは質問を終えた。

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