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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
四章 オルトメイアの背徳者
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108 三番目の師 14

 使役魔術と一口に言ってもいくつか種類がある。


 ソーントーンやティーセが使うウンディーネやシルフのような精霊を使役するタイプ。

 アルベールやレイバーが使うハイグリフォンや下級竜のような幻獣を使役するタイプ。

 そして、ユリヤが使う生体魔導人形のような創造物を使役するタイプだ。


「精霊を使役するタイプはスキルとはまた別の素養が必要とされているわ。もしかすると、レビイにもその素養があるかもしれないけど、今回は諦めましょう」


「ええ。僕もそれでいいと思います」


 ソーントーンによれば妖精に呪われたことで精霊魔術を使えるようになったという。一方のティーセは【妖精飛行】スキル持ちだ。もしかすると、ユリヤの言う精霊魔術を使える素養とは何らかの形で妖精と縁があることなのかもしれない。


 グレアムに妖精と関わった記憶はない。グレアムも呪われれば精霊魔術を使える可能性があるが、どんなデメリットがあるか知れたものではないし、何をすれば呪われるのかも知らない。ソーントーンとティーセは妖精剣アドリアナによって呪われたらしいが、その剣は失われている。


 そこで選択肢は幻獣を使役するタイプと創造物を使役するタイプに限られるわけだが――


「あなた、ゴーレムとか作ってたりしないわよね」


「作ってないですね」


 創造物を使役するタイプはあらかじめゴーレムなどを製造しておき、<物品召喚(アポート)>で呼び出して使うのが一般的だ。


「あ、でも、その場で製造するタイプがあると授業で聞いたのですが」


 長年使役した黒猫を失ったことで使い魔ロスに陥ったヒューストームは、グレアムに使役魔術を教えなかった。なので、グレアムの使役魔術に関する知識は先月取った『初級使役魔術』のそれのみである。


「一応、ないことはないけど、無理ね。特殊な素材が必要だし高位魔術よ。習得できても使いこなせないと思うわ」


(習得すら難しいです、はい)


 ヒューストームが開発した魔術陣によって魔術スキル、もしくは魔術系スキル持ちなら魔術の習得は容易になったが、グレアムの【スライム使役】スキルは非魔術系スキルだ。薄く四方に伸びたタウンスライムの半透明の体に魔術陣を書き写すことで、高位魔術でも習得は可能だが、今ここにタウンスライムはいない。


 厳密に言うなら魔術はグレアムが習得しているわけではない。スライムが習得し、その魔術を使うスライムを使役することで見かけ上の魔術行使をしているにすぎなかった。


「私の"クリーム"を貸してもいいけど……」


 "クリーム"とは先月の実技試験でジョスリーヌ(と見せかけたユリヤ)が使役していた白カバだ。白サイが"ミルク"で、白ゾウが"スノウ"と名前がある。いずれもユリヤとウルリーカが製造した動物型生体魔導人形だ。これらを<遠隔制御リモート・コントロール>で操作しているのだという。


「私の<遠隔制御>、かなりカスタマイズしているのよね。しかも、魔術陣にしてないし」


 ユリヤは<魔術式作成(クリエイト・コード)>で空中に<遠隔制御>の魔術式を映し出した。魔術陣とは<魔術式作成>のいわばエクスポート・インポート機能だ。本来ならば<魔術式作成>で書き写すしかない魔術式を魔術陣によって簡略化できる。魔術スキル、魔術系スキル持ちが心底羨ましい。


 とはいえ、グレアムも<魔術式作成>は使えるので書き写すことはできる。――が、グレアムはユリヤの魔術式を一目見て無理だと悟った。元の魔術式の原形がなくなるほどカスタマイズされていて、その魔術式の量は高位魔術に近い。そして、何より――


「汚い」


「は(怒)? 何か言った(怒)?」


「い、いえ。使役魔術を独学で身につけたのですよね。ええ、ちょっとスパゲッティ気味なのは仕方ないことかと」


「それ、フォローしているつもりなのかしら(怒)」


「……」


 殿下が怒ってらっしゃる。だって、仕方ないじゃないか。前世で何千ものソースを読み解き、何百ものソースをレビューしてきた身として、つい口が滑ってしまったのだ。ちなみに、もしこのレベルのソースをレビューしたとしたら、たとえ動作に問題なくても速攻で突き返す。


 作った本人にしかメンテナンスできないソースなんかゴミ以下だ!


「コホン。失礼しました。自分には格式高く、とても習得できそうにありません」


「その減らず口、ホント変わらないわね。

 なんだか複雑な心境だわ。

 ホントに私の姿を見て何とも思わないの?」


「いろいろ複雑な事情があるのかと」


「……それだけ?」


「まあ、強いて上げるとすれば、その見た目と同じくらい魔術式(コード)も綺麗に書いていただければと」


「あ~、もう魔術式のことは言わないで! だって仕方ないじゃない! 誰かに見せる予定なんてなかったんだから! 時間ができれば綺麗にするつもりではいたわよ!」といじけたように言う。


 "ダルッダルの下着とか付けてそうだな、この人"とグレアムは思った。めちゃくちゃ美人だけど中身は残念ぽい。でも、そんなことを言ったらますます臍を曲げてしまうだろう。本題に戻ることにした。


「殿下の魔術式を習得するのはご遠慮させてください。標準のカスタマイズしてない<遠隔制御>で白カバ(クリーム)を操作することはできないのですか?」


「それは無理ね。通常の<遠隔制御>はこちらから一方的に信号を発して制御するタイプよ。クリームが発する信号も受信して制御できないと歩かせることしかできないわ」


 いわば双方向通信ということか。魔導人形にセンサーを積んで、<遠隔制御>にリスナーと対応コントローラーを実装しておけば自動制御も可能だ。ただ、その分、複雑になりやすいが。あのスパゲッティはさもありなん。


「では、幻獣を使役するタイプしかありませんね」


「まあ、そうなるわね」


 そこでグレアムとユリヤは頭を悩ます。二人ともこのタイプの魔術は門外漢だった。一応、二人は今月『上級使役魔術』を受講していたが、次の実技試験が使役魔術を使うということで、講師は学院生からの質問攻めで講義は進んでいない。教官室に押しかけてもドアには『講義時間外の質問受け付けず! 研究の妨害をするならば厳正なペナルティを課す!』と、けんもほろろな貼り紙。


 結局、先月『中級使役魔術』を受講したユリヤが<眷属召喚(サモン・ファミリア)>を教えることになった。無論、使う魔術式は標準(ノンカスタマイズ)だ。何とか一晩で<眷属召喚>を習得したグレアムは、翌日からユリヤの宿舎で使いこなすべく訓練しているのだが……


 床に胡坐をかき、カムフラージュの魔杖を持って目を瞑る。すると、グレアムの正面五メイル先の床が複雑な幾何学模様を描いて光り出した。本日、二十回目の<眷属召喚>だ。


「相変わらずたいした魔力量ね」


 半ば呆れ、半ば関心した様子でユリヤはそう言った。


「それだけが取り柄でして」


 魔術師は自分の体内にある魔力を使って魔術を行使する。体内の魔力が尽きれば、当然魔力は使えなくなる。グレアムはマナ・ポーションも飲まずに長時間、魔術を行使してもまったく魔力が尽きる様子がないのだ。


「魔力切れを気にしなくていいのはいいけど……」


 ユリヤが見つめる先で、床に光は次第に収束していく。本来なら、その光の中心地に眷属が召喚されるのだが――


 プスッ!


 小さな音を立てて、光が消える。


「数日やって幻獣どころか小動物すら召喚できないってどういうこと!?」


<眷属召喚>は小動物にも適用可能だ。小動物を使役する場合は偵察や索敵、魔力タンクが主な用途になる。もちろん小動物のほうが難易度は低い。最終目的は戦闘に使用できる幻獣の召喚だが、グレアムは難易度が低いはずの小動物すら呼び出せずにいた。


「う~ん。言われた通りの感覚はあるんですが、同時に何かが邪魔をしているような感覚もあって」


 グレアムは首を捻る。


「……もしかすると、スキルの影響かしら。魔術系スキルは習得する魔術に相性があるって聞いたことがあるわ。レビイのスキルは【透視】よね? <眷属召喚>と【透視】って相性が悪いのかしら?」


「……」


 グレアムの本当のスキルは【スライム使役】だ。スライムを眷属として使役する。まさかスライム以外は眷属として召喚できない制約でもあるのだろうか。とはいえ、グレアムは試しでもオルトメイアにスライムを召喚する気はない。


「ちょっとパラメータを大幅に変えてみます」


 標準の魔術式でも魔術式に注ぎ込む魔力量とパラメータの値で、魔術行使の結果は変わってくる。相性が悪いだけでスライム以外の眷属が召喚不可能と決まったわけではない。グレアムはオルトメイアの小動物をターゲットにしていたが、捜索のパラメータを大きく外へと伸ばしてみる。すると――


(ん?)


 伸ばした糸に何かがかかるような感覚。だが、すぐに切れてしまった。


「ふむ」


 グレアムは腕を組んで考える。

 今のは悪くない。

 だが、おそらく出力が足りないせいで切れてしまった。


(これ以上は魔術式をカスタマイズしないと無理か)


 既にパラメータは最大値まで上げている。これ以上に出力を上げるには……


「ナイフをお借りしても?」


「いいけど、何に使うの?」


「ちょっとしたお(まじな)いです」


 グレアムはユリヤからナイフを受け取ると、自分の親指の腹を切って溢れる血を魔杖に塗りつけた。持ち手から先端まで一本の赤い線が出来上がる。


「ちょっ! 何してるの!?」


 驚いた様子のユリヤが白いハンカチをグレアムの切った親指に押し当てた。


「大丈夫ですよ、殿下。<怪我治療(ヒーリング)>をかけましたから」


「あら、いつの間に」


 親指の血は既に止まっており、ハンカチにはほんのわずかの血しかついていなかった。


「でも、杖に自分の血を塗りつけるなんて何のつもり?」


「ですからお呪いです。昔からこうすると何となく上手く魔術ができる気がしまして」


「あまり意味があると思えないわ。衛生的にもよくないし」


「まあ、とりあえず、これでやらせてください」


 ユリヤはまだ納得しかねる様子だったが、大人しく引き下がった。


 グレアムは床に腰を下ろし目を瞑る。ただし、今度は魔杖を高く掲げた。そうして、二十一回目の<眷属召喚>の行使で、正面の床が光り出す。同時に先ほどと同じ感覚で糸を伸ばしていく。


(よし! いいぞ!)


 再度、糸に何かがかかるような感覚。

 だが、今度は切れない。

 グレアムは最初の糸をガイドに、かかった先へと糸を増やしていく。

 そうして糸が紐ぐらいになったところで軽く引っ張ってみると――


(おっ! 何か手ごたえが!)


(ん~? だ~れ~?)


(…………)


 何だか聞き覚えのある間延びした声が、グレアムの脳内に響いた。

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