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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
四章 オルトメイアの背徳者
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100 三番目の師 8

 遅ればせながらオルトメイア魔導学院の教育制度について説明したい。


 簡潔に言えば「規模を大きくした私塾」である。前世の教育機関で広く取り入れられていた学年制や単位制といった制度はオルトメイアは取り入れていない。また、卒業資格といったものもない。オルトメイアで学んだ知識と技術で培った実力こそが、その証明という考えがあるためだ。


 在籍期間は最大三年間。その期間中に学院生は自分に足りていないと思った科目を選択し授業を受ける。授業は短期集中型、ほぼ毎日行われ、短くて一カ月、長くて三カ月で終わる。一年を通じて同じ内容の授業が繰り返されるため、諸事情で受けたい授業が受けられなかったからといって来年まで待つ必要はない。


 前世で学年制や単位制の学校教育に慣れ親しんだグレアムにとって、オルトメイアの良く言えば生徒の自主性を重んじる、悪く言えば放任主義的な教育方針には戸惑うものがあったが、オルトメイアはあくまで魔術師の実力を底上げするための私塾と受け入れてしまえば理解は早い。


(そういえば、学年制や単位制の学校教育が始まったのは19世紀ごろとか)


 それらの制度が導入される前の高等教育機関での進級や卒業は師である教授の判断が大きく影響し、定期的な試験で決定していたという。


 前世のような洗練された教育制度など、封建社会の色合いが強いこの世界では望むべくもないのかもしれないが、学年制や単位制の学校がこの世界にまったく無いというわけでもない。オルトメイアに教育熱はあまり感じられず、学びたければ勝手に学べといった雰囲気がグレアムには感じられるのだ。


 そんな半ば投げやりなオルトメイアの教育であるが、評価制度には不可思議な熱量がある。成績評価の基準は「必須・選択科目の筆記試験」、「ダンジョンを使用した実技試験」、そして「研究論文の提出」だ。


 試験問題の作成や採点などその準備と評価に大きな時間と労力がかかることは想像に難くない。これが毎月行われるわけで、しかもほぼ即日結果が返ってくる。研究論文ですら、朱書きが入れられたそれが提出した翌日の朝に返ってくるそのスピードにグレアムも舌を巻いた。


 どういうカラクリがあるのか知らないが、オルトメイアが学生の評価に力を入れていることは分かる。さて、その評価の内訳だが「筆記試験」が二割、「実技試験」と「研究論文」がそれぞれ四割となっている。「普段の授業態度」も評価対象だが、これは教師の主観による加点制で毎月最大100点まで加算可能となっている。「筆記試験」と「実技試験」と「研究論文」で仮に満点を取れば1000点となり、「授業態度」でも最大で取れば、その月の総合得点は1100点となる。


「筆記試験」が二割というのは低すぎる気がするが、オルトメイアの「筆記試験」は用意された設問にゆるぎなく決まり切った答えを書くだけの知識問題だ。既知の問題に対し自明のことを回答しただけでは高く評価しないというのが研究機関の側面が強いオルトメイアの方針だった。


 それならばと、配点の低い「筆記試験」を捨てて「実技試験」と「研究論文」に注力するということはできない。「筆記試験」には間違うと大きく減点される設問が混じっており、総合得点に波及する。「実技試験」と「研究論文」で満点の800点を取っても「筆記試験」を受けずにそこに200点の減点設問があれば総合得点は600点となってしまう。少々、理不尽に思うかもしれないが魔力制御のような間違っていると自爆したり味方への誤射に繋がるような問題が存在するので仕方がない処置ともいえる。


 さて、以上を踏まえグレアムの前回月末試験の成績内訳が以下となる。


●レビイ・ゲベル

・授業態度:38/100点

・筆記試験:189/200点(減点なし)

・実技試験:232/400点(5位)

・研究論文:389/400点(1位)

・総合得点:848/1100点(1位)


 実技試験の点数が順位の割に低いのはティーセが原因である。実技試験の成績はダンジョンで討伐した魔物の種類と数によって決まるが、ティーセが【妖精飛行】スキルで魔物を討伐しまくったせいで、例年通りであれば満点に近い討伐成績でも、ティーセの成績を400点以内に収めようと調整が入った関係で全体の点数が下がってしまったのだ。まぁ、それでもティーセの実技試験の成績は400点以内に収まらなかったのだが。ちなみに以下がティーセの成績内訳である。


●ティーセ・ジルフ・オクタヴィオ

・授業態度:90/100点

・筆記試験:110/200点(減点なし)

・実技試験:524/400点(1位)

・研究論文:98/400点(163位)

・総合得点:822/1100点(3位)


「授業態度」に聖国の忖度が感じられるのはご愛敬だ。むしろ政治的要素が入るのがそこだけと考えれば、かなり公平な評価システムともいえる。


 さて、ユリヤが白魚のような細い指でチョークを握り、リビングルームの黒板にレビイ・ゲベルの成績を書き連ねていく。ちなみに自室に黒板があるのはアラン達がグレアムの部屋で自習するようになり、それなら黒板があるほうが便利だろうとソーントーンが調達と設置が行ったからだ。


 レビイの成績を黒板に書き終えたユリヤは怪訝な表情で成績を見返した後、再びチョークで書き連ねていく。


●レイバー・ロール

・授業態度:50/100点

・筆記試験:165/200点(減点なし)

・実技試験:229/400点(7位)

・研究論文:260/400点(9位)

・総合得点:704/1100点(8位)


●ロナルド・レームブルック

・授業態度:50/100点

・筆記試験:181/200点(減点なし)

・実技試験:230/400点(6位)

・研究論文:276/400点(3位)

・総合得点:737/1100点(5位)


●アルベール・デュカス・オクタヴィオ

・授業態度:90/100点

・筆記試験:188/200点(減点なし)

・実技試験:267/400点(2位)

・研究論文:302/400点(2位)

・総合得点:847/1100点(2位)


●ユリヤ・シユエ

・授業態度:90/100点

・筆記試験:195/200点(減点なし)

・実技試験:258/400点(4位)

・研究論文:275/400点(4位)

・総合得点:818/1100点(4位)


 月末試験の成績は公開される。ユリヤは覚えている上位陣の成績を書き連ねているのだろう。最後に自分の成績を書き終えたユリヤは「やっぱり、おかしいわ」と呟いた。


 一方、グレアムは(今のあなたの姿ほどではありませんよ)と、傍らに置かれた脱皮したカエルの皮のように萎んだ生体魔導人形を見ながら思った。

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