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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
四章 オルトメイアの背徳者
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93 傾国の美姫 5

●ユリヤ・シユエ

 シユエ公国の第一公女。スキルは【完全記憶】。月末試験の実技において第四位。総合第四位。グレアム曰く、『ヒューストームに匹敵する大魔術師』。見た目はジャ〇・ザ・ハットだが……


●レビイ・ゲベル

 正体はグレアム・バーミリンガー。シユエ公国ゲベル男爵家四男として学院に潜入。茶髪碧眼(※瞳の色は偽装)、スキルは【透視(シースルー)】と思われている。仮の父はニルハム・ゲベル。ゲベルの寄親はネルマール伯爵。


●レイバー・ロール

 学生自治会(ブルーガーデン)の役員。"騎聖"タイバーの令息。銀髪に浅黒い肌。下級竜の暴君竜(タイラントドラゴン)を使役する。ユリヤの婚約者だが……


●アルベール・デュカス・オクタヴィオ

 学生自治会(ブルーガーデン)の会長。聖国の王太子。金髪緑眼。ハイ・グリフォンを使役する。【勇者】スキルを持つ?


●リンゼイ

 男爵令嬢。ユリヤの友人?



※前回のあらすじ

ユリヤ、婚約破棄される。

※ユリヤ視点


「なに言ってんだあいつ? 非常識だな」


 レイバーの突然の婚約破棄宣言に、隣のレビイは呆れたように呟いた。


 言葉は乱暴だがレビイの気持ちは理解できる。レイバーの発言はあまりにも非常識だった。ユリヤとレイバーの結婚は公国と聖国の同盟関係を強化するための政略結婚。公国の第一公女と聖国の枢機卿にして軍の一翼を担う大将軍の令息との婚約を当事者の一存で破棄できるわけがない。


そういうの(婚約破棄イベント)は舞踏会とか卒業パーティでやるのが常識だろ」


(どこの世界の常識よ!?)


 レビイの気持ちを理解したと思ったのは誤解だったようだ。傍若無人の問題児に普通の常識を期待したのが間違いだ。だが、他の人間は正しい常識を持ち合わせているようだった。


『な、何をバカなことを言ってるんだ、レイバー!? ロナルドといいヤンといい、今年のお前たちは一体どうしたんだ!?』


 アルベールが青い顔をして慌てている。


『違うんだ! ユリヤ公女殿下! レイバーは少し錯乱しているだけなんだ!』


 国際問題にさせまいと常識人(アルベール)が必死に弁解する。


『いいえ、殿下! このまま私があの女と結婚すれば、この国に獅子身中の虫を呼び込む結果になりかねません! いかにあの女が悪辣か、これから証明して見せます! どうか、ここは黙って経緯を見守っていただきたい!


 ユリヤ・シユエ!


 貴様はこのリンゼイ嬢に心無い罵声を浴びせたり、熱湯を被せたり、あまつさえ階段から突き落としたりと、やりたい放題したそうだな!』


「したんですか!?」


「するわけないでしょ!」


 まったく身に覚えがない。リンゼイとはいつもお茶をして軽くお喋りを楽しむだけだった。


(これは、嵌められたかしら?)


 リンゼイの様子を確認する。彼女はレイバーの背中に隠れ、怯えたような表情を見せている。当人でなければ、本当にそんな酷い仕打ちを受けていたと信じてしまいそうになる。


『いかに同盟国の王族といえど、リンゼイ嬢は我が国の貴族の令嬢――否、女王陛下より準男爵位を賜った歴とした貴族! 家のためにと健気にもユリヤの仕打ちに耐えるリンゼイ嬢でしたが、もはや見過ごすわけにもいきませぬ!』


『家のため?』


『リンゼイ嬢の実家は公国との商取引を生業としているのです! 公国からの取引を止められれば実家は破滅するしかないと、池のほとりで泣いていたリンゼイ嬢に、私は――

 こんな可憐な令嬢にどうしてそんな酷いことができる!?

 申し開きがあるなら降りてこい! ユリヤ・シユエ!』


「……」


 周囲の冷たい視線がユリヤに突き刺さる。どうやらユリヤ以外の人間はリンゼイ嬢の言い分を信じてしまったようだ。あのアルベールすら懐疑的な視線をこちらに向けていた。


「……」


 ユリヤは一つ息を吐くと、魔道椅子を動かそうと肘掛けに震える手を伸ばした。


 だが、それを抑えるように暖かい何かがユリヤの手の甲に置かれる。


「お待ちください。行かれるのですか?」


 レビイ・ゲベルだった。

 

「……ええ。悪逆非道だの悪辣だの、散々な言われようだけど、それを黙って受け入れるわけにはいかないわ。で? 誰の許しを得て私に触れているのかしら?」


「ああ、これは失礼」と手を離す。


 レビイが触れていた箇所が冷めていく。


(五感を共有するのも良し悪しね)


 冷めゆく皮膚に、惜しいことをしたと感じてしまう。


(惜しい? 何が?)


『どうした!? 早く来い!』


 急遽、心に湧いた疑問に答えを出す暇はなさそうだ。今度こそ、ユリヤは魔道椅子を動かしてすり鉢の底にある石舞台に降りていく。


「……なんで付いてくるの?」


 ユリヤの一歩後ろにレビイが付いてきていた。


「お一人でいかせてはジョスリーヌ様に責められます」


「ふぅん」


 保身を理由とするレビイに軽い失望を覚えた。


「正直なのはいいけど、そこはお世辞でも忠義のためとか答えたほうがいいわよ。出世したければね」


「<感情察知(センスマインド)>を使う殿下に、そういうお為ごかしは通用しないかと」


「<感情察知>は生理反応を見ているだけよ。呼吸とか心拍とか瞳孔とか。生理反応を制御すれば<感情察知>を無力化どころか、相手を騙すこともできるわ。……先生にあわせる顔がないわね」


 ヒューストームは<感情察知>の魔術を嫌っていたのに、それをあえて使用し、妄信して陥穽に陥ってしまった。


 リンゼイに悪意や嫌悪という感情はまったく見られなかったのだ。日頃の多大な支援に対する感謝を申し上げたいとリンゼイから近づいてきたのが最初だった。それから何度か会ううちに、リンゼイから自分に対する好意すら感じるようになった。


 リンゼイの見事な演技力――否、そういうスキルを持っているのかもしれない。だが、それでもリンゼイが何らかの悪意と策謀を持って近づいてきたのならば、ユリヤは見抜くべきだったし見抜くことは可能だったはず。


 人恋しかったのかもしれない。親友のジョスリーヌは遠い祖国の地で氷漬け。取り巻きはビジネスライクな関係でしかない。醜い衣をまとって、周囲を寄せ付けなかったのだから当たり前なのだが。


(そういえば、レビイも私に嫌悪感を抱かないわね)


 皆、私に触れることさえ忌避するというのに、先ほども手を――


「……嘘発見器(ポリグラフ)か。でも、だったら何で師匠は……。もしかして――」


 後ろに意識を向けるとレビイは何か考え事をしているようだった。


(……髪を切って身形を整えれば、あそこに並び立っても遜色ないんじゃないかしら)


 アルベールは困惑顔で、レイバーは勝ち誇った表情で待ち受ける石舞台にユリヤは上がった。

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