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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
四章 オルトメイアの背徳者
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92 傾国の美姫 4

●ユリヤ・シユエ

 シユエ公国の第一公女。スキルは【完全記憶】。月末試験の実技において第四位。総合第四位。グレアム曰く、『ヒューストームに匹敵する大魔術師』。見た目はジャ〇・ザ・ハットだが……


●レビイ・ゲベル

 正体はグレアム・バーミリンガー。シユエ公国ゲベル男爵家四男として学院に潜入。茶髪碧眼(※瞳の色は偽装)、スキルは【透視(シースルー)】と思われている。仮の父はニルハム・ゲベル。ゲベルの寄親はネルマール伯爵。


●タイバー・ロール

 枢機卿の一人にして、"騎聖"。中級竜を使役する。かつて帝国との戦において、敵の火計で全身火だるまになると、敵陣に単身切り込み敵兵の血によってその身を焼く炎を消火したというエピソードを持つ。


●レイバー・ロール

 学生自治会(ブルーガーデン)の役員。"騎聖"タイバーの令息。下級竜を使役する。ユリヤの婚約者?


●アルベール・デュカス・オクタヴィオ

 学生自治会(ブルーガーデン)の会長。聖国の王太子。【勇者】スキルを持つ?

※ユリヤ視点


 話は四半刻ほど遡る。


 レビイ・ゲベルと第六修練場へ向かう直前、本国から急遽連絡が入ったためレビイだけ先に向かわせ、ユリヤは宿舎内の通信室に向かった。


(学院生と外交官の兼任なんて、するものじゃないわね)


 そう思いながらユリヤは通信魔道具の前に座る。それにしても何の用だろうか。ガイスト枢機卿との会談内容は既に本国に送信してある。


 ジジッ。


 軽いノイズの後、スピーカーから壮年男性の声が聞こえる。それは父の声。"グレアム戦争"にユリヤが参加することに対して詰問するものであった。


「そんな話は聞いていないぞ! おまえの奇行を今まで散々大目に見てきたが今度というこん――」


「必要と判断したからです。近いうちに本国に戻りますので、その時に話しましょう。講義がありますのでこれで失礼します」


「あ、おい!」


 ユリヤは魔道具のスイッチを切る。聖国に盗聴されている可能性が高いというのに、感情的で私的な通信をするなんてとユリヤは少し呆れてしまう。友好国で同盟国であっても弱みを見せるのは好ましくない。


 本国から帯同してきた文官に緊急以外、繋ぐなと申しおいてユリヤは第六修練場へ向かう。講義はすでに始まっている時間だ。空中遊泳する魔道椅子のスピードを最大限に上げる。魔道椅子の高度は最大三メイルほどだが、速度は戦闘用に訓練された馬の襲歩なみのスピードが出せる。ムルマンスクの天才魔道具師ウルリーカの協力を得て作り上げたユリヤの自信作の一つだ。


 ”キュィィイイイイ!!!”


 その叫び声が聞こえてきたのは第六修練場の近くに来た時だった。空を見上げると翼を持った大きな獣が天空に向かって飛び上がっていく。


(あれはグリフォン? いえ、上位種のハイ・グリフォンね)


視力増加(ビジョン)>で強化した視力でその正体を看破する。ハイ・グリフォンはグリフォンの1.5倍の大きさを持つ。それでいてスピードと旋回性能はグリフォンを上回る。ジャイアント・ドラゴンフライはグリフォンの天敵と言われているが、ハイ・グリフォンはジャイアント・ドラゴンフライの天敵と言われているぐらい強力な幻獣だ。


 ユリヤは第六修練場に入る。そこは屋根のないすり鉢状で直径は二百メイルにも及ぶ。穴の中心部には石舞台が置かれ、それを取り巻くように階段状に座席が設けられている。Aクラスの講義を受ける学院生ともなれば<視力増加>を当たり前に使えるうえ、講師も<拡声(シャウト)>を使うため、講師と座席の位置が大きく離れていても特に問題はない。


 ユリヤは座席の最後部にレビイを見つけると、その隣に魔道椅子を運んだ。


「お疲れ様です、ユリヤ公女殿下」


「今のは?」


 ハイ・グリフォンの件だ。


「アルベール殿下が先ほど呼び出しました」


「殿下が?」


 中央の石舞台を見ると、アルベールの姿がある。金髪緑眼の好青年。そのあまいマスクに多くの女生徒がうっとりとした視線を向けていた。


 その隣には銀髪に浅黒い肌を持つやや筋肉質の青年が立っていた。レイバー・ロール――自分の婚約者とされている騎聖タイバーの令息だ。こちらにもアルベールほどではないが、女生徒から熱い視線が注がれている。


 だが、特別講師として招かれているはずのタイバーの姿がない。


「タイバー様の講義は中止になりました。急な公務だそうです」


「そう。それは残念ね。それでなぜあの二人が?」


「せっかく集まってくれたのでと、<眷属召喚(サモン・ファミリア)>の魔術を見せてくれることになりまして」


 レビイがそう説明しているうちにレイバーの足元に召喚魔術陣が展開される。数秒後、光り輝く魔術陣からせり出すように現れたのは、黒い金属の鱗と白銀の爪牙、そして大きく真っ赤な翼を持つ暴君竜(タイラントドラゴン)。下級竜にこそ分類されるが、その戦闘力はハイ・グリフォンにもひけをとらないと言われる強力な幻獣だ。


「すごいですね」


 レビイの素直な賞賛に、ユリヤは少し驚いた。


「なんですか?」


「いえ、あなたにもそんな殊勝なことを思う心があったのね」


「殿下。私を何だと思っているんです?」


「傍若無人の問題児だと思ってるわ」


「日々を平穏に過ごすことを願う人畜無害な一般人ですよ、私は」


「ここ百年ほど聞いたことがない最高に面白い冗句ね」


 レビイは肩を竦めた。


「傷心の配下に心無いお言葉。温厚篤実な自分でなければ、よからぬことを企てるところでした」


「あら? 剣聖様の孫に負けたこと、一応、気にしていたのね」


「……カバとサイとゾウだけでなく、小鳥も眷属として使われるのですね」


 その言葉にユリヤの眉がピクリと動いた。


(目ざとい)


 レビイの言う通り、ユリヤはジオリム・クアップとの戦いの一部始終を人形の眼を通して観ていた。


 だが、ユリヤは何となくそれを認めるのがイヤでとぼけることにした。


「友人に聞いただけよ」


「殿下、友だちいないでしょ」


 グサッ


 胸のあたりから何かが貫くような音がした気がする。


「し、失礼ね! いるわよ!」


「Aクラスの授業でしたので、ジョスリーヌ様はおられませんでしたよ」


「じょ、ジョスリーヌだけじゃないわよ。そ、そう。例えばあの子」


 ユリヤが指差したのはピンク髪の可愛いらしい容姿を持つ少女だった。石舞台の上でレイバーから使役魔術のアドバイスをもらっている。


「リンゼイっていう聖国の男爵令嬢よ。三日に一度はお茶するくらい仲良くなったんですから」


 そのリンゼイ嬢は自分の視線を感じとったのか、こちらに振り向く。ユリヤが小さく手を振ると「ヒィッ」となぜか小さく悲鳴をあげて顔を青くした。


「…………仲良し、なんですよね?」


「……今のは貴方を見て悲鳴をあげたんじゃないかしら?」


「いえ、視線は殿下に固定されていましたよ。リンゼイ嬢に何したんです?」


「何もしてないわよ!」


 少なくとも、あんなに怖がられるようなことはしていない。リンゼイはユリヤの視線から逃れるようにレイバーの背中に隠れた。


 一方、レイバーはリンゼイの様子に困惑し、その彼女の視線を追ってユリヤを見つけると、表情を硬くする。そして、レイバーは<拡声>で堂々と宣言したのだった。


『ユリヤ・シユエ!

 リンゼイへの悪逆非道の数々、断じて許し難し!

 お前との婚約は破棄させてもらう!』


「……………………はい?」

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