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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
四章 オルトメイアの背徳者
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89 三番目の師 3

●トマ・アライソン

 平民。金短髪。スキルは【あおり耐性】。


●アラン・ドヌブ

 ドヌブ村の馬鈴薯農家の長男。黒髪黒瞳。スキルは【雷魔術】。


●アンネ・ヘッシャー

 赤髪。平民。スキルは【食い溜め】。


●リリィ・マーケル

 白髪。平民。シーレ家の雇われ魔術師。

「剣聖様の孫に負けたって?」


 ”上級剣術”の授業直後の昼休憩。アラン達と食堂で昼食を摂っていると、遅れてやってきたトマがそんな話を振ってきた。


(噂が広まるのが早いな。授業が終わってまだ三十分も経ってないぞ)


 この様子なら放課後にはすべての生徒が知ることになるだろうとグレアムは思った。


「”上級剣術”の授業が前にあってな。そこでジオリム・クアップと模擬戦をやることになったんだ」


 アラン、アンネ、リリィに事情を説明する。


「ジオリムって剣聖様の一番弟子っていわれてる?」


「ああ、総合一位の実力が見たいと言われてな」


 魔術なしスキルなしの純粋な剣技だけの勝負。その結果は――


「ボロ負けした」


 ジオリムの双剣に終始翻弄され、最後は剣を落とされての敗北。完敗だった。


「でも、あまり悔しそうじゃないね」


「そうね。やっぱり自分の本質は魔術師だと思ってるから?」


「いや、滅茶苦茶、悔しいけど」


 その言葉はグレアムの本音だった。毎日"剣鬼"にしごかれて痛くて苦しい思いをしてきた。それなりに時間と労力をかけて真剣に取り組んできたのだ。負けて悔しくないわけがない。


「そうなんですか? あまり、そうは見えないですけど」


「一度負けたくらいでいちいち騒ぎたてたりしないさ。これでも負けることには慣れてる」


「総合一位が?」


「意外ね。負け知らずのエリートなんだと思っていたわ」


「いや、俺は肝心なところでしょっちゅう負けてるよ」


 "ロードビルダー"とは切り札でオリジナル魔術である<偽装隕石召喚(メテオ・フェイン)>に重力魔法で敗北した。ジョセフには勝ち逃げされたし、ムルマンスクのデアンソのときは孤児院は守れたがグレアム自身は奴隷落ちとなって追放されたので痛み分けといったところだろう。


 小さな勝利はあるが、大きな勝負ではなぜか必ず負けてしまう。前世でもその傾向はあった。でも、だからといって自分の負けをただ受け入れるわけではない。負けてもただでは負けてやらない。必ず相手にも相応の痛手を負わしたい。だって、悔しいから。


「意外と負けず嫌いなんだな。正直、剣聖様の孫になら負けて当たり前だと思うがな」


「そうね。ジオリム・クアップはガラガラよりも木剣を握ることを好んだって話があるくらい、小さな時から剣を振ってきたそうよ。しかも剣聖様の手ほどきつきで」


「レビイは剣を習いはじめて何年ぐらい?」


「……半年」


「そりゃ負けて当然じゃねぇか! 逆に勝ったら謝ってくれ!」


「半年で剣聖様のお孫様と数合だけでも撃ち合えたなら充分すごいと思いますけど」


「まあ、それはそうなんだけど……」


 確かにジオリムの剣には長年積み重ねてきた重みを感じた。


 "長く剣を振ってきたほうが偉い。だからジオリムに勝ってはいけない"


 そんなことは微塵も思わない。剣こそ振っていないがこちらも長年、積み重ねてきたものがある。剣を学んで短いからといって、ジオリムに負い目を感じることはない。


 ただ、剣を振るジオリムは本当に楽しそうで、剣が本当に大好きなんだと伝わってきた。


 "羨ましい"と思った。


 そう思った瞬間に、グレアムの手から剣が弾かれていた。それまで終始、防戦一方でありながらも、なんとか食らいついて反撃の機会を伺っていたにもかかわらず、最後はあっさりと勝負がついてしまったのだ。


「剣の技術よりも、心で負けたんだよな」


 剣を純粋に楽しむジオリム。一方、剣を楽しめないグレアム。そこに負い目を感じて負けてしまった気がする。だからだろうか、ジオリムに負けた瞬間は悔しさを感じなかった。悔しさは感じたのは――


『つまらん剣じゃのう。そんな剣、振っていても楽しくなかろう』


 試合後、剣聖ヨアヒムから言われた言葉。


(ああ、そうか。俺が悔しいと思ったのは"つまらない剣"と言われたからだ)


 アラン達との会話でグレアムは自分の本心に気づいた。グレアムの剣は、いわばグスタブ=ソーントーンの剣でもある。ジオリムに負けたことではなく、ソーントーンの剣が"つまらない"と言われて悔しかったのだ。


(なんてこった。自分はソーントーンの地味で無骨な剣を、思いのほか気に入っていたらしい)


「でも、負けたのは残念だったけど、ガス抜きになってよかったと思うよ」


 アランの言葉にアンネとリリィは納得顔で頷くが、トマは顔に疑問符を浮かべた。


「月末試験の上位五人のうち三人は外国人、実技にいたっては王太子だけだったろ」


 グレアムは月末試験の成績を思い出す。なぜか1位の自分と2位のアルベール。3位のティーセに4位のユリヤ。5位は学生自治会(ブルーガーデン)の役員の一人であるロナルド・レームブルック。


 なるほど確かに上位5人のうち、二人が公国人で一人が王国人。聖国人はアルベールとロナルドだけだ。実技にいたってはロナルドの代わりに国籍不明のバルドーが入る。


「外国の留学生に、成績上位を占められるのは面白くないと思うよ」


「そうか? 俺はそんなふうに思わないけどな。普段、さんざん偉そうにしといて、このていたらく、むしろざまあみろと思うけどな」


「それは君が国への帰属意識が低いからさ。今回の成績結果に鬱屈した思いを抱えている人間も多いと思うよ」


「ああ、そういえば確かに」


 グレアムが剣を落として負けが確定したとき、歓声が大きく上がった。あの歓声はそういう思いの裏返しだったのだろう。


「そういえばティーセ殿下も観戦していたんでしょ。幻滅されたんじゃないの?」


「いや、あいつは『ダーリンの仇よ』とかいってジオリムに挑んでた。【妖精飛行】で飛んで反則負け食らってたけど」


「……相変わらず、仲いいわね。昼、一緒にしなくてよかったの?」


「ちょっと用事があるらしい」


「なんだそうなのか? 俺は情けない姿を見せて、てっきり振られたのかと」


「……実はそうなのかもな」


「おいおい。冗談じゃないか。深刻にとるなよ。なあに、レビイのことだからすぐに取り返すさ。むしろ、もっと大きくやらかして周囲から反感を買いまくるまであるんじゃないか」


「はは。まさか」


 トマの言葉をグレアムは一笑に付すが、実はトマの予想はそう大きく外れていなかったことが、すぐに判明するのだった。

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