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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
四章 オルトメイアの背徳者
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82 WitchCraft Intelligence

 天体が存在しないオルトメイアの閉鎖空間。夜、星明かりと月明かりがなくとも完全な暗闇に包まれないのはオルトメイア中心部にある巨大な尖塔エリュシオンがほのかな光を放っているからだ。


 そのエリュシオンを遠眼鏡で観察する妙齢の女性がいた。名はオーラフ。グレアムが受けた『魔法学概論』の講師をしていた教授であり、学院を統括する理事の一人でもある。


 そして、そのオーラフの背中に話しかけている男はシャルフ・レームブルック。枢機卿の一人にして三文聖の"聖人"。白のシャツに黒のズボンと上着に鍔付き帽子と()()()()()()奇妙と評される格好ではあるが、ある程度受け入れられているのはこの男が変人で知られており、また、その恰好が妙に似合っているからでもある。


「それでオーラフ先生。ありゃどういうことだい?」


『さあな』


 二人が話題にしているのは先日行われた試験についてである。オルトメイアに入学してからの二年間、総合一位の座を守り続けた王太子アルベールが順位を落として二位になった。


「何を他人事みたいに」


『他人事だ。試験のような雑事は我らの仕事ではない。試験結果に疑問があるなら”ウィル”に問え』


 ”ウィル”――それは人間が持つ知能を魔術で再現しようとする秘術、またはそのシステムのことを指す。正式名を魔工知性ウィッチクラフトインテリジェンスという。”ウィル”とはその愛称である。オルトメイア魔導学院は事務作業、試験問題の作成とその集計・評価など、学院運営の八割近くを”ウィル”に任せている。


「いわゆる"AI"だよなあ。学院の運営をほとんど任せられる高性能AIがあるとは異世界も侮れねえなあ」


『また訳のわからんことを。だから貴様は陰で"聖人"ではなく"変人"と言われるのだ』


 オーラフは遠眼鏡の筒から顔を離すことなく吐き捨てた。


「へっ、違いねえ」


 その軽薄な言葉にオーラフは眉をひそめた。シャルフは自嘲気味に嗤うが内心ではまったく気にしていないことがわかる。他人の評価などどうでもよいと思っているのだ。この男は。


(そんな男がなぜ学生の成績など気にする?)


 王太子といえど、たった一度の試験で順位を一つ落としただけのこと。王宮で問題になっているわけでもあるまい。政治運営を一部”ウィル”に任せているとはいえ、奴らもそれほど暇なわけでもない。大きな戦争を起こそうしている今なら猶更だ。


「なあに、個人的な興味さ。俺はあいつ(アルベール)の育ての親でもあるんだぜ。親が子供の成績を気にするのは当たり前だろ」


『……そんな話は聞いたことがないがな』


 あっさりと自分の思考を読まれたことに加え、虚言で誤魔化そうとしていることに殊更、不快感を覚えるオーラフ。


「まあそうだろうな。それよりも試験の話だ。ここに来る前に"ウィル"に聞いてるんだがな、どうにも言ってることがよくわからんのよ。"アンダーワン"とか"デウス"とかどうたらこうたら。ちょっと解析してくれ」


『断る』


 オーラフはにべも無い。


「おいおい。俺たちとあんたらの関係は持ちつ持たれつの共犯者だ。協力を拒否するのはいただけねえな」


『協力するとも。だが、貴様の個人的興味とあれば話は別だ。それよりも、またぞろ土人(エルフ)がわいている。さっさと駆除しろ』


「……オーラフ先生よ。俺はどんな素晴らしい才能も社会に還元できなきゃ無いのと同じと思ってる。学者として善良な一市民の疑問にも答えられず、こんな穴蔵(オルトメイア)にこもって学問研究に没頭するだけじゃ、エリート意識をこじらせて現実感覚を欠如しちまうぞ」


『グレアム・バーミリンガーが怖くて、その穴蔵に逃げ込んできたのはどこの連中だ?』


「なかなか良いことを言ったと思うんだがなぁ。響かなかったかあ」


 自身の不利を悟ったシャルフは話題を変えることにした。


「まぁ、エルフは戦争が終わったらな。いまさら、奴らがどうこうできるわけもなし。それよりも、レビイ・ゲベルについてどう思う? おっと、これは個人的興味で聞いてるんじゃないぞ。ちゃんとした安全保障上の理由がある」


『……優秀な生徒であることは否定しない』


「総合一位を取れるほどに?」


『さあ、どうだかな』


「おいおい。生徒にもう少し興味持とうぜ」


 オルトメイアは元は古代魔国の研究機関である。古代魔国滅亡後、オルトメイアを接収した時の権力者によって半ば強引に教育機関の役目を背負わされた。それゆえオーラフのような古参は教育にそれほど熱心ではない。


『逆になぜレビイ・ゲベルに興味を?』


「今、シユエ公国の公女様が留学してるだろ? その公女様から公国に指令が飛んだ。それが気になってな」


『どんな指令だ?』


「貴族名鑑を検めろと」


『レビイ・ゲベルのか? ……それは確かに妙だな』


「だろ。まるでレビイ・ゲベルなんて人間が本当にいるのか疑っているようじゃないか」


 シユエに一時的にしろ総合一位を取れるような人材がいたことを喜ぶならともかく、その実在をどうして疑うのか。


「まあ、ちょっと気にしといてくれ。

 それと、これは相談や要請じゃなく通知事項だ。

 生徒を一人、"処置"するぜ」


『……』


「おいおい、何か言うことないのか」


『通知事項なのだろう。言ったところで覆ることはないのなら無意味だ。

 それで?

 他に用は?

 無いならさっさと出ていけ』


「つれないねぇ。

 あんたは俺を嫌いみたいだが、俺はあんたを嫌いじゃないぜ。

 お互い未練を残す亡霊だ。これでも親しみを感じてるんだぜ」


『黙れ。戯れ言はうんざりだ』


 オーラフは最後まで遠眼鏡の筒から顔を離すことはなかった。

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