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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
四章 オルトメイアの背徳者
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79 学院生活13

「浮気よね」


 適度に緑が生い茂った小庭園。そこに設置された一脚のベンチ。


 いつものように寛いでいると音もなく一人の美しい女性が隣に座る。先の言葉はその女性が何の前触れもなく発したものだった。


「…………」


 グレアムは目線だけ隣に動かし、すぐに戻した。声から察していたが、ティーセだった。


(浮気?)


 聞き間違えでなければ彼女は確かにそういった。


(誰が?)


 もちろんグレアムだ。ティーセの声と視線はグレアムを非難するものだった。


(浮気……浮気……浮気……)


 腕を組んで考える。当然ながら身に覚えはない。


「何のことだ?」


 何か誤解しているのだろう。


「とぼける気?」


 美人の怒った顔も、やはり美人だった。"美人は三日で飽きる"というが、そんなことはない。モナ・リザの美のごとく、彼女と顔をあわせるたびにちょっとした感動を覚える。


「パーティの件よ」


「え?」


 シユエ公国の公女ユリヤと次の実技試験でパーティを組むことになった。だが、その件は既にティーセに報告済みだ。その時、ティーセは――


『ふーん。まあ、あなたにもシユエ貴族としての立場があるしね。もちろん二人きりじゃないわよね』

『殿下の付き人さんと、あと俺の友人も一緒の予定』

『ならいいわ。頑張ってね』とあまり関心を示してなかった。


 ちなみにティーセもパーティに誘ってみたのだが、彼女は断っている。ティーセの戦闘スタイルは空中を飛び回り、バフで上がった高い戦闘力で斬りまわる高機動強襲スタイルだ。単独行動でこそ真価を発揮するというのが理由だった。


「いまさら何を言ってるんだ? 君も承諾しただろ?」


「してないわ」


「いやいや、シユエ貴族としての立場があると――」


「そっちじゃない」


「そっちってどっち?」


「あなたの部屋で開いたパーティよ」


「……………………(まさか)」


「そこに女の子もいたそうじゃないの!」


 グレアムは思わず天を仰いだ。


(まさか、この世界でも"どこからが浮気か"問題に直面するとは)


 "どこからが浮気か"――その問題に対する答えは人によって様々な意見があるだろう。

 デートしたら? 手を繋いだら? ハグしたら? キスしたら? ベッドインしたら?


 Q.異性がいる私的な飲み会に参加した。これは浮気か?


 つまるところ、ティーセにとってこれは「浮気」だということなのだろう。


 だが、グレアムにとってはそうじゃない。前世の嫌な記憶が蘇る。


(普段は理知的で冷静なのに!)


 女が関わると途端に物分かりが悪くなるかつてのパートナーを思い出し、グレアムは背中に嫌な汗をかいた。


(こちとらおまえ以外の女に興味なかったっての!)


『誠実に説明すれば――』

『今後異性がいる飲み会には参加しないことを約束して、帰宅後すぐに連絡を――』

『謝罪して――』


 パートナーとの共通の友人達によるありがたい忠告だ。


(くそくらえ!)


 そのありがたい忠告が、ためになったことなどない。


(ぐだぐだ言葉を重ねない。あの時、言えなかった言葉を今ここで言うんだ!)

(ヤマト! ムサシ! ナガト! シナノ! アマギ! キリシマ! 俺に力を貸してくれ!)


精神異常回復サニティ>をかけてくれる頼もしい仲間はここにいない。遥か南の地にいる彼らに向かってグレアムは祈った。


「浮気などしていない」


 あえてティーセを見ずに、正面を見据え断言する。


「そ――」


「おまえ以外の女に興味はない」


「――――」


「……?」


 急に静かになったなと思ったグレアムは再度、目線を隣に動かした。


 ティーセは赤くなって手で顔を仰いでいた。


「まあ、それなら」


「?」


 よくわからないがどうやら納得してくれたようだ。


 "グレアム兄ちゃんはいつか刺されると思う"


 内心で安堵していると、天才魔道具師(ウルリーカ)のメイドとなった幼馴染の声がどこからか聞こえた気がした。


 冷静に考えてみると妙なやり取りだった。ティーセにとってグレアムは虫除けのための偽の恋人でしかない。さっきのはなんだかまるで本当の恋人のようなやり取りに思えた。


「あ、さっき部屋にレイシを届けたから」


 レイシとは直径4~5センチメイルほどの赤茶色の硬い皮で覆われた果物のことだ。王国の南部で生産され今が収穫時期だ。非常に美味で、グレアムも好きだと話したことを覚えていたのだろう。


「お、それはありがとう」


「その時にパトリクさんにお茶をいただいたわ。彼の淹れてくれるお茶は本当においしいわね」


 それは本当にそう思う。料理も美味いんだよな。掃除、洗濯も何気に完璧だし。しかも剣の達人ときた。敵にすれば厄介この上ないが味方にすれば頼もしいことこの上ない。


「その時に聞いたのよね。可愛い女の子たちとずいぶん遅くまで飲んでいたって」


 くそっ! ソーントーンめ! やっぱりあいつは敵だ! 気を許すんじゃなかった!


「ぜひ、今度、紹介してもらいたいわね」


「ああ、まあ、今度な」


 曖昧に返事するグレアム。王族と平民では身分差がありすぎてアンネとリリィは嫌がるかもしれない。トマあたりは喜んでご紹介にあずかると思うが。


「……さて、そろそろか」


「あら? 用事? 恋人を放って?」


「許せマイハニー。男にはいかなきゃならないときがあるんだ」


 本音を言えばグレアムだって行きたくない。

 上司との面談はいつだって気が重いのだ。


「わかってるわよ。ユリヤ殿下によろしくね。あ、それと――」


「?」


「総合一位、おめでとう!」


「…………ありがと」


 微妙な表情でグレアムは返した。


 結局、第1回月末試験の結果は間違いでも何でもなく、レビイ・ゲベル(グレアム)が一位で確定した。

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