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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
四章 オルトメイアの背徳者
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78 学院生活12

●アラン・ドヌブ

 ドヌブ村の馬鈴薯農家の長男。黒髪黒瞳。スキルは【雷魔術】。


●トマ・アライソン

 平民。金短髪。スキルは【あおり耐性】。


●アンネ・ヘッシャー

 赤髪。平民。スキルは【食い溜め】。


●リリィ・マーケル

 白髪。平民。シーレ家の雇われ魔術師。

「「「「「かんぱ~い!!!」」」」」


 グレアムは自室のリビングでアラン、トマ、アンネ、リリィの四人と杯を触れ合わせた。キィンと軽やかな音を響かせた杯には葡萄酒が入っている。


 先日、行われた初めての月末試験で彼ら四人は無事、除籍処分を免れることができた。その祝賀会をささやかながら開こうということでグレアムの部屋に集まったのだ。


「ごくっ、ごくっ、ごくっ、はぁ~」


 葡萄酒を一息で飲み切ったトマは感極まったように息を吐く。


「数理の二問目、間違えたとわかったとき、マジ死んだかと思ったわ」


「あれはひっかけ問題だったよね。一問目で一番難しい問題を出して時間をかけすぎたところで、あれがくると焦ってひっかかっちゃう」


「レビイの忠告通り、まず全部の設問を確認して簡単なところから取り掛かって助かったわ。おかげで余裕もって取りかかれた」


「トマさんはそうしなかったんですか?」


「したよ! したけど見事にひっかかっちまったんだ!」


 そう口では嘆きつつもトマの表情は明るい。四人の中で一番成績は悪かったとはいえ、全体的にみれば悪くなかったからだ。ちなみにリリィ、アラン、アンネ、トマの順だ。リリィにいたってはAクラスでもおかしくない成績だった。もっとも、Bクラス以上は実技試験が必要なのでリリィは来月もCクラスであるが。


「はぁ~。……このカナッペ(※一口大に切ったパンにチーズ、肉、魚、野菜などを盛った料理)うめえな」


「お褒めいただきありがとうございます」


 追加の料理を運んできたソーントーンがトマに礼を言う。パトリク姿のソーントーンは普段の鉄面皮が嘘のように表情が柔らかい。ソーントーンは執事を演じるにあたり、記憶の中のパトリクを参考にしているのだという。柔和でありながら、ソーントーンを執事として完璧に鍛えた有能な人物像が想像できる。


「ホントにね。食堂の食事よりもおいしんじゃない?」


「わたしもそう思う。すごく美味しいです、パトリクさん」


「ありがとうございます」


(あれ? こいつもしかして、ホントに喜んでない?)


 先ほどよりもソーントーンの雰囲気と足取りが軽くなった気がする。気のせいかもしれないが。


「そういえば、レビイの成績はどうだったんだ?」


「まだ出てないよ」


「そうなのか? 貴族様の成績は時間がかかるんだな」


「追試してるのよ。実技試験で失格した生徒のために」


「へん! うらやましいね! 俺たち(平民)にはそんな救済措置、ありえねえってのに!」


「まあまあ」


 怒るトマにアランが宥める。


「ん? じゃあ、あれはどうなるんだ?」


「あれ?」


 グレアムの問いに、トマがいかにも口を滑らせたという顔をした。


「何か悪だくみしてるわね?」


「ひ、人聞きの悪いこと言うなよ。た、ただ――」


「ただ?」


「ち、ちょっと、貴族様の成績順で賭けを……」


「呆れた。へたしたら不敬罪で死刑よ」


「い、いいじゃねえか。ちょっとした楽しみもないとやってられねえよ」


「学院の長年の慣習みたいで、お目こぼしされてるみたいだよ」


「アランさん。あなたまで……」


「いや、僕は説明を聞いただけで賭けてないよ。ちなみにトマは追試を受けた貴族様の方が有利になって順位に影響があるんじゃないかって気にしてるんだと思うけど、追試の点数は本試の半掛けになるからその心配はないよ」


「おお、そりゃ安心だ」


「安心じゃないわよ。まあいいわ。それで、トマは誰に賭けたの?」


「もちろん、ティーセ殿下の単勝一点買いだ!」


「……それってティーセ殿下が全学年で一位ってこと?」


「そうだ」


 トマの言葉にアンネとリリィ、そしてグレアムは頭を抱えた。


「それは……難しいな」


 何せティーセは筆記試験の結果が悪すぎた。自己採点させてみたところ全体的に四割も取れていなかったのだ。それでも実技試験が圧倒的だったので学年一位は間違いないだろうが。


「ティーセも上位にはいくだろうけど、一位は無難にアルベール殿下じゃないのか?」


「まあそうでしょうね。アルベール殿下の入学以来、総合一位は誰にも譲ったことがないって話だから」


「いいや! 俺のカンではそろそろ負けるはずだ! なぜなら頭がよくて強くてイケメンで王太子にそのうえ人格者! こんな完璧超人、そろそろ挫折の一つも味わわなきゃ不公平ってもんだ!」


「完全にきみの逆恨みじゃないか」


「男の嫉妬は醜いですね」


「ホントに不敬罪で死刑にならないかしら」


 トマ以外の四人は呆れ顔であったが、実はトマのカンが的中していたことが後に判明する。


「トマのことは置いておいて、レビイ、あの話は?」


 アランに促されグレアムは杯を置いた。アランには事前に相談していたのだ。


「うん。実は――」


 そうしてグレアムは話した。ユリヤ・シユエ公女殿下と次の実技試験でパーティを組むことになったことを。そして、アラン、トマ、アンネ、リリィの四人もユリヤのパーティに参加してもよいと言質をもらっていることを。


「君たちの実技試験は次々回からになるから、それまでに状況は変わるかもしれないけど」


「私は別にかまわないわよ」


「アンネちゃんがいいなら私も」


 随分、あっさり承諾したなとグレアムは思った。


「貴族様の勧誘が激しくなったのよ。初めて実技試験を経験した貴族様が一人じゃ迷宮は無理だって思い知ったみたい」


「追試も貴族様同士でパーティを組んで挑んだみたいだよ」


「ああ、なるほど」


 "肉壁"は必要。試験時間が短いと思ったが、新入生貴族にそれを実感させるための初回実技試験だったのかもしれない。


「既に貴族様のパーティに所属している平民は誘えないっていう暗黙のルールがあるみたいなんです。一応、私たちはレビイさんのパーティと見なされているみたいで誘いは今のところないんですが……」


「絶対じゃないし。でも、ユリヤ様の名前なら流石に引くでしょ。

 ユリヤ様の人となりは知らないから少し不安だけど、守ってくれるんでしょ?」


「ああ、それはもちろん」


「大丈夫かあ? レビイの立場的に上にユリヤ様、下に俺たちっていうポジションにつかされそう」


「……」


 いわゆる中間管理職という立場だ。上と下の板挟み。もっともストレスを抱えやすい立場で、胃とメンタルをやった人間を前世で何人も知っていた。


「……が、がんばる」


 "フッ"とパトリク姿のソーントーンが鼻で笑った気がした。


「アランはどうするの?」


「もちろん参加するよ」


「なんで俺には聞かないんだよ?」


「参加でしょ」


「いや、まぁそりゃそうだけどさぁ」


「実技試験四位と()()が所属するパーティです。断る選択肢はありませんからね」


 Cクラス貴族の実技試験実施後も実技試験成績上位四名は変わらなかったが、五位は入れ替えがあった。


 そこになぜかレビイ・ゲベルの名前があったのだ。


「初めて会った時からただものじゃねえと思っていたぜ」


「調子いいわね。でもホントすごいわ」


「悪い。何かの間違いだ」


 謙遜でなく本心からそう言った。グレアムが倒した魔物はブラッドクーガー二体にグール四体、そしてミノタウロス一体だ。魔物ごとに点数が違うのか知らないが、ティーセに確認したところ彼女はグレアムの四倍以上の魔物を倒している。それでグレアムの点数が彼女の半分というのは計算が合わない。


「魔物を倒す以外に加点ポイントがあるのかな? 何か身に覚えは?」


 平民四人はグレアムを見つめる。成績に関わってくるので皆、真剣だった。


「加点ポイントは思い当たらないが、間違いの思い当たりはある」


 それはユリヤの付き人ジョスリーヌ・ペタンだった。少なくとも九体のミノタウロスを倒しているはずなのに彼女の名前が試験結果表のどこにもなかったのだ。


「たぶん何かの間違いで彼女の点数が俺に入ってしまったんじゃないかな。学院に申告済みなんで総合成績発表までには是正されるんじゃないか」


「なんだ、そんなことか」


「でも何だかレビイらしいわ」


 そこからなごやかな空気が流れる。尽きぬ話題と美味い酒と食事によって、五人はその日遅くまで共に過ごすことになった。グレアムにとって、四人が本当に気が置けない友人となった時間だったのかもしれない。




 そして、後日発表された総合成績――


「え?」


 1位 レビイ・ゲベル

 2位 アルベール・デュカス・オクタヴィオ

 3位 ティーセ・ジルフ・オクタヴィオ

 4位 ユリヤ・シユエ

 5位 ロナルド・レームブルック


 入学以来、アルベールが守り続けた位置に、なぜかグレアムの偽名があった。

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