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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
四章 オルトメイアの背徳者
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76 第1回月末試験4

「ブモォオオオ!」


(ウルリーカのことを思い出して現実逃避している場合じゃなかった)


 白カバが相手していたミノタウロスの一体がこちらに向かってきた。


 グレアムは迎え撃つべく腰のホルスターから魔杖を抜く。


 バシュ!


 三メイル近い背丈を持つミノタウロス。その顔面に向かって<火矢(ファイアボルト)>の火線が走った。


「っ!」


 だが、ミノタウロスが眼前に翳した両手斧によって防がれる。


 バチッ!


 火花が散って、<火矢>が直撃した両手斧の刃部分が赤熱する。


「ブォオオオ!」


 その両手斧をミノタウロスは横薙ぎに振るった。


 ゴウッ!


 金属鎧すら引き裂くその膂力を持って振るわれた斧の速度は二〇〇キロメイルを超えるといわれている。それでも、グレアムの目には迫りくる両手斧がはっきりと見えた。


(後ろは壁、逃げ場はない――なら)


 グレアムは直進する。ミノタウロスの丸太のような太い腕が頭上を通過した。


 グレアムは折れた剣を逆手に持つとミノタウロスの足の付け根に叩き込んだ。狙いは鼠径部の大腿動脈。だが――


(硬っ!)


 まるで大型産業車両の特殊タイヤを叩いた時のような感触。だが、それでも剣はミノタウロスの足の付け根にめり込んだ。動脈に届いていれば大出血を起こす。


(!?)


 剣を抜く前にミノタウロスの膝蹴りが飛んできた。グレアムは剣の柄から手を離し、海老反りになって躱した。


「こんの!」


 片足立ちとなったミノタウロス。人間のアキレス腱の部分に力の限り蹴りを叩き込んだ。


「グモォオオオ!」


 口から唾と涎を垂らし苦悶の声を上げる。グレアムは蹴った反動でミノタウロスから距離をとると、振り向き様に最大威力の<魔矢(エナジーボルト)>を放った。


 バシュ!


 ミノタウロスの頭部に風穴が開き、長い舌がダランと垂れた。それと、ほぼ同時に腕輪から討伐を示す光が放たれる。


 念の為ともう一発、今度は胸に<火矢>を放つ。着弾の衝撃で仰向けに倒れーー


 ドォン!


 地響きをたてた。


(他に敵は?)


 周囲を警戒する。他のミノタウロスは大型草食獣によって既に殲滅され、壁に貼り付いている魔物も存在しなかったがーー


「?」


 いつのまにか腕輪から細い糸のようなものが伸びていた。


(なんだ?)


 触ってみるが触れられない。指が素通りしてしまう。観察しているうちにも糸は伸びていき、やがてその先端が通路の一つに入っていく。


(……もしかして、帰還用転移陣の場所まで伸びてるのか。まるでアリアドネの糸だな)


 ギリシア神話の英雄テセウスが迷宮に閉じ込められたミノタウロスを退治後、無事地上に戻れるようにアリアドネが渡した糸玉。通り道に沿って糸を張りながら奥へと進み、その糸をたどって戻ってこれるようにと。先ほど退治したのがミノタウロスなのも帰還用転移陣の場所を示すのが糸のようなものなのも、きっと偶然だろうが前世と奇妙な繋がりを感じさせる。


(そういえば)


 ミノタウロスを迷宮に閉じ込めたミノス王は十四人の少年少女をミノタウロスの生贄として数年ごとに捧げたという。なぜか、グレアムはそんなことを思い出した。


 ◇


『<眷属召喚(サモン・ファミリア)>という魔術が存在する』


 グレアムは亡き師――大賢者ヒューストームの言葉を思い出していた。


『先日教えた<物品召喚(アポート)>とは似て非なる。確かにマーキングした動物や幻獣を召喚する方式も存在するが、それは召喚方法の一つにすぎん。むしろ<眷属召喚>の肝は召喚した眷属(ファミリア)を使役することにある。眷属の意思と意識を保ったまま、召喚主の意志に従わせる高度な理論が必要となる高難度魔術なのだ』


(……でかいな)


 薄暗い迷宮の中で、ミノタウロスの群れを殲滅した白象と白サイと白カバにグレアムは囲まれていた。体高三メイルを超える白象の鼻が目の前で揺れ、左は白サイの金属製の角が触れんばかりに迫り、右は白カバの巨体が塞いで、後ろは壁という状況。


 前世でもこんな近くに大型草食獣を観察したことはない。ちょっと得した気分になりながらも、ちょっとじゃれてきただけで全身複雑骨折になりそうな状況に身が震える。


「あの~」


 グレアムは彼らをしっかりと制御できていることを祈る気持ちで、先ほど命を助けた女生徒に声をかけた。ブラッドクーガーの血を全身に浴びた彼女は白カバの反対側で、濡らした手巾で身を拭っているようだった。


「もう少し待ってなさい。レビイ・ゲベル」


「……はい」


 名乗った覚えはない。だが、ティーセの恋人役となったことで有名になっていることは自覚している。グレアムは彼女を知らないが、彼女が自分を知っていてもおかしくない。


「フー」


 生暖かい象の鼻息がグレアムにかかる。


(あれ? あまり臭くない?)


 匂い消しの魔道具かポーションでも服用しているのだろうか。動物特有の生臭さをあまり感じなかった。目の前の鼻を触ってみようと手を伸ばしかけたが、その前にグレアムの体に鼻が巻き付き持ち上げられる。


(うお!)


 少し驚いたが、その動作はゆっくりしたもので害意はないと感じたので、そのまま身を任せていると白サイの背中に乗せられた。


「待たせたわね。行きましょうか。どうせ行先は同じですから」


 白カバの背中に乗った女生徒が自分の腕輪を見せてくる。彼女の腕輪からも魔術の糸が伸び、グレアムの糸と途中で合流していた。


「まずは助けていただいてお礼をいいます。

 私はジョスリーヌ・ペタン。

 ユリヤ・シユエ公女殿下の付き人として公国から派遣された魔術師です」


「……」


 グレアムは今すぐ白サイの背から飛び降りて逃げ出したくなった。

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