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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
四章 オルトメイアの背徳者
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73 第1回月末試験1

 シュン!


 学院の一室から転移魔術陣で飛ばされてきた場所は、どことも知れぬ迷宮(ダンジョン)――その数多ある通路の突き当たりだった。左右と背後は土の壁で囲まれ、先が見通せぬほど長く続く道が前面に広がっている。道幅は大人の男五人が手を広げて並んでもなお余る。一方で天井は五メイルほど。息苦しさは感じないが飛ぶには少し難儀しそうな高さだった。


 グレアムは転移魔術陣を出て一歩歩いた。靴底を通して足裏から歪みを感じる。その原因は床から所々に飛び出る根だ。歩くにはさほど問題ないが、緊急時には出っ張りに躓いて転ぶかもしれない。


 視界は悪くない。床や壁から所々生えたシロツメクサのような花がうっすらと光を放っているからだ。ほぼ無尽蔵だった魔力を人並にしか使えなくなった今、<光明(ライト)>の魔力だけでも節約できるのはありがたい。


 シロツメクサの光源に照らされた通路には不規則に脇道が存在していた。その最初の一つに差し掛かると、獣の呻き声が聞こえてきた。


「グルルッ」


「……」 


 グレアムは腰の剣を抜き、指を軽く傷つけた左手に魔杖を持った。右手の剣はブラリと下げ、足元を確認する。


(やはり足場が悪いな)


 強くなる獣臭。脇道から何か出てきた瞬間、狙撃するつもりで魔杖を正面に向けた。


 バッ!


 脇道から飛び出してきたのは黒い四足獣。


(ブラッドクーガー!?)


 大型ネコ科動物の容姿を持つ魔物はグレアムの目の前を横切る形で壁に向かって走る。そのまま壁に激突すると思われたが魔物はシュッタと飛び上がると、まるでそこに引力が発生しているかのように壁に着地した。


「!?」


 床よりも障害の少ない壁を走ってくる。ブラッドクーガーの武器は牙と爪、そして、それ以上に恐ろしいのは全身硬化によるぶちかまし。全身が赤くなったブラッドクーガーの突撃(チャージ)は重装騎士のそれを上回るという。


「グォオオ!」


 その名の由来となった姿になってブラッドクーガーは咆哮とともに横向きに飛び掛かってきた。


 それに対しグレアムは準備していた<火矢(ファイアボルト)>をキャンセル。代わりに展開したのは<魔盾(マジックシールド)>。


 大賢者ヒューストームがカスタマイズした<魔盾>の衝撃吸収機能は2tトラックの衝突にも耐えると思っている。そしてもう一つ、グレアム自身がカスタマイズして組み込んだ機能がある。それは――


 バチッ!


「ギャフ!!?」


 四足魔獣の体が半透明の盾に触れた瞬間、破裂音が響いた。


電撃(ライトニング)>で使われる魔術式の一部を流用し、シールドに触れた瞬間、高圧電流が流れるようにした。半透明の盾から扇状に放出された稲妻がブラッドクーガーの体を焼いた。仲間がいれば危なくて使えない機能だが、単独行動のグレアムには関係ない話だ。


 腹を晒して痙攣する魔物に対し距離を詰めると、その喉に剣を突き立てた。ブラッドクーガーの硬化能力は短時間のようで、両手で力を込めれば鉄製の剣はズブリと黒い毛皮と筋肉質の体に突き刺さった。


 魔物が暴れたのは一瞬で、すぐに動かなくなる。魔物が息絶えた瞬間、グレアムの左手首に嵌めた腕輪の宝石が光った。


 魔物が完全に動かなくなったのを確認すると、グレアムは剣を抜いて剣先に付着した血を払う。すると魔石すら取る暇もなく地面から伸びてきた根が瞬く間に魔物の全身を包み込んだ。


 そして、泥沼に沈むように地面に消えていく。剣先から振り払った血すらも消え失せ、まるで魔物の襲撃などなかったかのようだ。


(これで宝箱やドロップ品があれば、まさにダンジョンだな。俺がクサモに作ったなんちゃってダンジョンなんか子供騙しだ)


 グレアムは腰に剣を収めると、次の獲物を求めて歩き出した。


 ―― 三時間前 ――


 月末となり最初の試験が始まった。内容は筆記試験、そして貴族階級には実技試験がある。それは迷宮に潜っての魔物の討伐だった。


『君たちには今配った魔道具を手首に装着してもらう。装着者の行動履歴が登録され、討伐した魔物の種類と数によって点数をつけさせてもらう』


 大講堂に集められたCクラス試験者の前で試験官はそう説明する。ちなみにBクラス以上の試験者はここにはいない。Cクラスは午前が筆記試験で午後が実技試験となり、Bクラス以上は逆になる。つまり、Bクラス以上は既に迷宮に潜って試験を受けている最中ということだ。


『――リタイアする場合は手首の内側にある宝玉を強く押し込め。救護員が駆けつける手はずになっている。だが、すぐに救助できるわけではないことに留意しろ』


 救護員は被救護員にもっとも近い転移陣に転送後、そこから被救護員の元まで駆けつける必要がある。入り組んだ地形や途中で魔物に遭遇する可能性もあるため、救助が遅れる可能性もあるという。


「噂じゃAクラス以上の魔道具には緊急の転移陣が組み込まれてるらしいぜ」

「俺たちのには何で組み込まれてないんだ?」

「そりゃ持ち運びできる転移陣なんて古代魔国製に決まってるだろ」

「そんな貴重品は俺たちには使えないってか」


 グレアムの前にいる生徒がそんな話をしていた。真偽は定かではないが、ありそうな話ではあると思った。命の価値は平等ではない。特にこの世界では。


 グレアムが手首につけている魔道具は古代魔国製のレプリカとのことだ。ただ、転移機能だけ再現できなかったという。


『迷宮突入後、一定時間の経過で帰還用転移陣の場所を腕輪が示す。それから30分以内に戻らなけば失格となるので注意するように。……さて、上位クラスの実技試験が終わったそうだ。午後の鐘が鳴り次第、君たちにも順次迷宮に突入してもらう。準備に怠りがないように』


 試験官が退出後、巨大なディスプレイが空中に投影された。そこには上位クラスの生徒名とその右側に数値が表示され数値が大きな順に並んでいる。おそらくは実技の試験結果だろう。


 それが表示された瞬間、大きなどよめきが起きた。


 1.ティーセ・ジルフ・オクタヴィオ 524

 2.アルベール・デュカス・オクタヴィオ 267


 ティーセがこの国の王太子(アルベール)を抑えて一位になっていた。しかもダブルスコアに近い数値をつけて。


(筆記にくらべて実技は自信がありそうだったのはこういうことか)


 ティーセの【妖精飛行】は魔物と戦う際に1.5倍の身体強化バフがつくという。しかも背中の羽の数分強化される。元の力が10で羽の数が6とすれば10×1.5×1.5×1.5×1.5×1.5×1.5=113.9となり実に11倍ものパワーアップができる。


 迷宮に突入したティーセが魔物を蹴散らして点数を稼ぎまくる姿が容易に想像できた。


(あいつもたいがいチートだよなぁ)


 そんな感想を抱きながら視線を下に移す。


 3.バルドー 259


「3位のバルドーって誰だ? 家名がないところをみると平民か? なんで平民が実技試験をやってんだ?」

「聖王家の特別推薦枠って話らしいぜ。特に戦闘力の高い傭兵なんかが選ばれるらしい。……見ろよ。ご本人様だぜ」


 視線を窓に向けると筋骨隆々の大男が通り過ぎていくところだった。


「……おいおいおい。本当に俺たちと同年代か?」

「ああ。あの貫禄。20年は戦場を渡り歩いた歴戦の猛者って感じだ。たぶん30はいってるんじゃないか」

「特別推薦枠ってやつは年齢は関係ないのか?」

「たぶんな。まあ、聖王家つながりなら、かかわり合いにならないほうが賢明だろうな」

「話が合うとも思えないしな」


 生徒達のそんなやり取りが聞こえたのだろうか。大男の「まだ18だ」

 その悲し気な呟きは、誰の耳に届くことも無く空気に溶けて消えていった。


 一方、グレアムはバルドーの下にある名前に内心激しく動揺していた。


 4.ユリヤ・()()() 258


(え? まさかシユエってシユエ公家の関係者? ……まずい)


 グレアムの偽名であるレビイ・ゲベルはシユエ公国男爵家の四男ということになっている。入学して一カ月。ユリヤが本当に公家に縁ある者なら挨拶ぐらいはしてしかるべきなのに完全に無視した形になっている。


(クラス分け試験の結果が貼り出された時になぜ見落とした?)


 剣術試験でボコボコにしたセバスティアン・シーレの結果が気になっていたし、途中で呼びかけられて……、さらに放課後にはクラス分け試験の結果は撤去されていたので、改めて確認することもできなかったのだ。


 王侯貴族は面子を重んじる。ユリヤは顔に泥を塗られたと思っているかもしれない。


(このまま気づかなかったふりしてすっとぼけるとか…….できないよなあ)


 早急に対処すべき案件としてグレアムは心にメモした。

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