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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
四章 オルトメイアの背徳者
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69 学院生活9

 オルトメイア魔導学院ミッターナハトキャンパス。端から端まで歩けば三時間以上かかる広大な敷地。その中心には大小二十を超える研究施設と教育施設、それらを取り巻くように教職員と学院生の生活施設が点在している。


 学院に来て三週間。時間を見つけて歩き回った中で見つけた憩いの場。そこは適度に草木が残され、綺麗に管理された芝生が生えそろっている。そこに設置されたベンチに座って小一時間過ごすのがグレアムの日課となっていた。


 今日もノートを捲りながら、一人の時間を満喫する。人との繋がりは大切だが、一人の時間もまた同じくらい大切だと思う。


『お屋形様』


 近くに人の気配はないが、空耳でないことはわかっている。グレアムは気にした風もなく、次の頁をめくった。


『セバスティアン・シーレは授業にも出ず部屋に閉じこもっている模様』


「……」


『あの生首もシーレの本邸に知らせることなく秘密裏に処分したようです』


 深夜、使用人が丸い包みを抱えて森の奥へと入っていく姿が目撃されている。


(……)


 グレアムは前世で見た古い外国映画を参考にした方法で、セバスティアンを脅迫した。


 ”これ以上やるなら、お前もこうなる”


 彼はメッセージを正しく受け取ってくれたようだ。これでしばらくは――少なくともグレアムが学院にいる間は大人しくしていることだろう。


『……』


 報告はもう終わったはずだ。だが、気配は消えない。


 グレアムは周囲を確認する。この広場には、誰かしら人がいるが、今はグレアム一人だけのようだ。


「どうした?」


『外との連絡に失敗しました』


「……」


『幾重にもダミーを経由しているうえ、内容も無関係のため我々のことは露見していませんが……』


「やはり外との連絡は不可能か」


『……』


 それ自体は想定していたことだ。だが、連絡できなくとも大きな問題はない。ジャンジャクホウルには兵権と決裁権を託したオーソンとアリオンがいる。影武者としてシャルもいる。彼らがうまくやってくれるだろう。


 そして、オルトメイアには自分がいる。ここでオルトメイアに関するすべての情報を得て、すべてを決定する。


 とはいえ、外の状況がわからないというのも不安だ。徹底的な安全策を講じた上で、外との連絡手段を模索しているが、成果は上がっていない。


『グスタブ=ソーントーンの協力を仰げないでしょうか?』


「なに?」


『彼はここに入る独自の手段を持っている様子。彼を通じて外と連絡しては?』


「……」


 ソーントーンとの現在の関係は一応、良好と言っていい。セバスティアンの件も積極的に協力してくれた。暗殺者の生首をセバスティアンのベッドに運んだのはソーントーンだ。だが――


「ダメだな」


『……』


「セバスティアンの件はお互いにメリットがあった」


 グレアムが殺されてはソーントーンの潜伏先が無くなってしまう。


「だが、ジャンジャクホウルとの連絡はソーントーンにメリットがない」


 それをソーントーンに依頼すれば、見返りを求められるだろう。そして、その見返りはソーントーンの目的の協力であろうことは想像に難くない。


 世界樹の復活を目的とするソーントーン。グレアムはその詳細を聞いていない。目的の成就が聖国に不利益を齎すかどうかを訊ねた時、不利益どころか試みるだけで明確な敵対行為だとソーントーンが断言したからだ。


 聖国との戦争を回避したいグレアムとしては、ソーントーンに協力することなどできはしない。詳細を知ること自体が危険だと判断したのだ。結局、ソーントーンとは今の緩やかな同盟関係を維持することがベストだと思えた。


「外との連絡手段はこちらで検討する。今は情報収集に尽力してくれ」


 レナ・ハワードとケルスティンの捜索。

 聖国が戦争を仕掛ける理由。

 スライム殺しの聖結界。


 時間制限がある中で、解決しなければならないことは多い。これ以上、頭の痛いことは増やしたくない。だが――


「ここにいたのね」


 否が応でも、増えてしまった頭痛の種が笑顔を浮かべてやってきた。


「……やあ、マイハニー」


 グレアムは顔が引き攣らないようにするのに努力を必要とした。

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