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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
二章 ブロランカの奴隷
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18 ソーントーン伯爵1

 熱い湯の飛沫がティーセの全身を打つ。


(気持ちいい)


 汗とともに疲れも流れていくようだった。


 水を一瞬で湯に変えてくれる魔道具を持つ者は貴族でも少ない。


 ソーントーンに言いたいことは山ほどあるが、今だけは感謝してもいいと思った。


 一の村でディーグアントの殲滅に成功した後、ティーセは島の南にあるソーントーンの屋敷に飛んだ。


 獣人たちの件でソーントーンに文句を言わなければ、気がすまなかったのだ。


 ティーセは屋敷の家令に本名を名乗る。


 ソーントーンとは面識がある。


 正体を隠しても意味は無い。


 だが、ソーントーンは不在だった。


 王宮に赴いているという。


 ソーントーンは低位の『転移』スキル持ちだ。


 遅くとも昼過ぎには戻ってくるだろうとのことだった。


 怒りのやり場を失ったティーセは、家令からシャワーと食事と仮眠を勧められた。


 一昼夜、飛んだ上に昨夜の戦闘だ。


 正直、その申し出はありがたかった。


(まず、シャワーね)


 ウキウキ気分で浴場に向かうティーセ。


 ふと、何か大事なことを忘れているような気がした。


(まぁ、いいわ。大事なことならいずれ思い出すでしょ)


 そうして、ティーセが二の村のことを思い出すのは、ベッドに入って十分後のことであった。


 ◇


 ソーントーンは聞き間違えたかと思った。


「……失礼ながら陛下、そのティーセ様は、ティーセ王女殿下のことでしょうか?」


「そうだ、()()ティーセだ」


 国王ジョセフは他にいるのかと言わんばかりに呆れ顔だ。


「我が愚息アシュターによれば、例の政策の件で怒り、ブロランカに飛んだとのことだ」


「単身で? 護衛もなく?」


「何を今さら」


 ソーントーンは絶句した。


 いくら『妖精飛行』という類稀なスキルを持っているとはいえ、一国の王女としてその行動はエキセントリックに過ぎる。


 いや、そもそもティーセが傭兵をやっていること事態が異常なのだ。


 ジョセフの第二十一子、ティーセ・ジルフ・オクタヴィオがルイーセという偽名で傭兵をやっていることは公然の秘密だった。


 ティーセが正体を隠すには彼女のスキルはあまりに目立つ。『妖精飛行』スキルを持った十歳前後の少女など、滅多にいるものではない。


 王都でティーセのことを知らぬ者はいないだろう。


 僻地でも耳聡い者なら噂くらいは聞いているかもしれない。


 そうして、悪心持つ者がよからぬ事を企むかもしれないのだ。


 それでも、今日までティーセが無事でいられたのは、彼女自身の能力が高いこともあるが、何より国の民に愛されているからだ。


 仮に誘拐でもされれば傭兵ギルドは血眼になって探すだろう。人探しに有用なスキルを持つ者もギルドに所属している。


 一方で、国が必死に探すかといえばそれは怪しい。


 国王のジョセフが娘のティーセのことをあまり好いてはいないからだ。


 虚栄心の強いジョセフにとって自分より民に人気のある女の存在など認めたくないのだろう。ましてや、それが自分の娘ならばなおさらだ。


 ティーセは二十一番目の子供で王位継承権の順位も低い。


 要するに、ティーセに手を出すことは、労多くして功なしとなる公算のほうが大きい。


 ジョセフの寵愛の薄いティーセを攫ったところでジョセフが身代金を出すとは限らず、一方で傭兵ギルドによって探し出された誘拐犯は彼らにどんな目に合わされるか、わかったものではない。

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