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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
四章 オルトメイアの背徳者
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61 学院生活4

●アラン・ドヌブ

 ドヌブ村の馬鈴薯農家の長男。黒髪黒瞳。スキルは【雷魔術】。


●トマ・アライソン

 平民。金短髪。スキルは【あおり耐性】。


●アンネ・ヘッシャー

 赤髪。平民。スキルは【食い溜め】。


●リリィ・マーケル

 白髪。平民。シーレ家の雇われ魔術師。


●セバスティアン・シーレ

 伯爵家の御曹司。オレンジ色のおかっぱ頭。"本物"(のアホ)認定された上、グレアムの地雷を踏んでボコボコにされた。

「魔法学なんて、また珍しいものをとったな」


 昼休み、学院の食堂でグレアムとアラン、トマ、そしてアンネとリリィとで食事中に、トマがそう話題を振ってきた。


『魔法学概論』は選択科目であり、この五人の中ではグレアムしか取っていない。


「うん。ちょっと、魔法を使ってみたくて」


「「「「……」」」」


 四人がスプーンを口元に運ぶグレアムを怪訝な顔つきで見てくる。


「何だい?」


「魔法を魔術で実現する、みたいなことじゃなく?」


「ああ。魔法そのものを自由に使ってみたい」


 例えば、"ロードビルダー"が使っていたような重力魔法や創造魔法、そして回復魔法だ。


「レビイ。人間に、魔法は使えないよ」


 魔法を自由に使えるのは天使や悪魔、精霊、そして上級竜(エルダードラゴン)のような超常の存在だけと言われている。人間にはその素養がない。それを哀れんだ神が人間に与えたのが魔法の一種であるスキルと言われている。


「そうみたいだね」


「そうみたいだねって、わかっているなら」とトマ達は呆れ顔だ。


 魔法学は実用性がない学問だと思われて人気がない。何かの役に立つどうかという実利的な観点は、特に平民には重要視されるからだ。


「う~ん。何て言うかな。やらずに諦めたくないんだよ」


「ああ、それは何となく分かる気がするわ」とアンネ。


「魔術ではダメなことなんですか?」


 リリィの言いたいことはわかる。攻撃も防御も索敵も回復も飛行すら魔術でできる。それでも魔法が必要なのかと。


「もし、突然、魔術が使えなくなったらと思って」


 実際、ジャンジャックホウルにほとんどすべてのスライムを置いてきた今のグレアムに、魔術は()()使えない。


「それに」


「それに?」


 グレアムは思い出す。"ロードビルダー"との戦いを。


 何十、何百もの<破壊光線(ディザスタービーム)>を束ねた<集束破壊光線メガディザスタービーム>を空間を歪めることで防がれ、虎の子の切り札ともいえた<偽装隕石召喚(メテオ・フェイン)>は弾き返されるところだった。


 これに<白>を加えて火力は充分と考えていたグレアムにとって、これは悪夢だった。アダマンタイトの防壁すら貫通し、目標を破壊できると思っていたのに、想定外の方法で防がれたのだ。


(魔術一辺倒は危険だ)


 それが"ロードビルダー"討伐戦で得た反省と教訓だった。


 一応、レールガンも運用しているので魔術一辺倒というわけではないが、結局、それもサンダースライムが発する大電力を利用している以上、スライムを封じられれば使えなくなる。


(魔術に代わる、しかもスライムに頼らない攻撃手段が必要だ)


 そう考え原子爆弾の製造も検討してみたが色々な問題があって断念した。そこで、今度は魔法について検討してみることにしたのだ。


 そんなことを色々誤魔化しながらグレアムは四人に説明する。


「ふーん。貴族様はそんなことまで考えなきゃいけないのか」


「まあ、平民には平民の、貴族様には貴族様の苦労があるのでしょ」


「貴族様の苦労といえば、"王女"様も大変みたいだな?」


「王女?」


 聖国に王女などいただろうかとグレアムは疑問に思った。聖国女王リュディヴィーヌの子供はアルベール一人だと記憶している。


「王国からの留学生よ。正確には"王女"じゃなくて"王妹"」


「二つ名が"妖精王女"なんだから"王女"でいいんだよ」


「ああ、ティーセ殿下のことか」とグレアムは得心する。


 ティーセはこの学院でも有名になっているようだ。ただ、こちらは下級貴族と平民、向こうは三大大国の王族のため、まったく接点はなかったが。


「ふーん。やっぱりレビイも"王女"様のことが気になるのね」とアンネがなぜか不満顔で言う。


「当然だろ。とんでもない美人なうえに、あのスタイル。むしゃぶりつきてぇ」


 鼻の下の伸ばすトマに、侮蔑の視線を向けるアンネとリリィ。


「なあ、レビイ、お前もそう思うだろ?」


(まあ、確かにスタイルは良かったな)


 三年前のブロランカの地下冷泉で見た時は、それほどでもなかったが、一週間前に見たティーセは出ているところは出て、引っ込んでいるところは引っ込んでいて、数年でこんなに変わるものかと妙な感心をしたものだった。だが、そんなことを口にしようものなら思春期の少女二人からの侮蔑の視線は、今度はグレアムに向けられることだろう。話題を変えることにする。


「ティーセ殿下が大変ってどういうこと?」


「ああ、そうそう。なんでも学院中の貴族の子弟から求婚と求愛がひっきりなしにきてるそうだぜ」


「一部の貴族令嬢からもきてるそうよ」


「歓迎式典のティーセ殿下、素敵でしたものね」


「?」


「ああ、レビイは歓迎式典、出ていなかったんだっけ? ティーセ殿下、男装して出たんだよ。それがすごく格好良くて一部の令嬢が熱をあげちゃって」


「男装の麗人というやつか。でも、なんでまた男装を?」


「式典の後にダンスパーティーがあったんだけど、殿下には"婚約者"がいるらしくて、その人を差し置いて男性と踊るわけにはいかないということで――」


「代わりに男装して御令嬢たちと踊ったわけ」


(……婚約者がいるのか)


 まあ、ティーセの立場なら、いてもおかしくはない。


(?)


 なんだろう。今、食べたピラフのせいで胸焼けでもしたかな。いや、それよりも――


「待て待て。婚約者がいるなら求婚とか求愛しちゃまずいだろ」


 この学園の貴族の子弟は何のためにティーセが男装してダンスパーティーに出たと思ってるんだとグレアムは呆れる。


「そこはだからオルトメイアという閉鎖空間にいる間だけのアバンチュール(火遊び)を楽しもうってことじゃないのか。俺も一日でいいから遊びてえ。いや、遊ばれてえ」


「ふん。生まれが下賤な者は発する言葉まで下賤だな」


 五人が座るテーブルにオレンジ色のおかっぱ頭がやってきた。


「……セバスティアン様」


 リリィが硬い表情で呟く。


「探したぞ。レビイ・ゲベル」


「……どうも。剣術試験以来ですね」


 そうグレアムが言うとセバスティアンはピクリと顔を引き攣らせた。だが、すぐに表情を戻し、笑みを浮かべる。その笑みは虚勢ではなく、どこか余裕を感じさせるものだった。


「何か御用でしょうか?」


「単刀直入に言う。俺の下につけ」


「え? 嫌です」


「……」


 にべもないグレアムの言葉に再びセバスティアンの顔が引き攣った。


「け、剣も魔術も少しはやるようだからな。この俺のために働くことを許して――」


「もらう必要はないです。話はそれだけですか?」


 友人(トマ)を下賤呼ばわりする奴と話すことはない。


「……後悔することになるぞ」


 セバスティアンは笑みを消し、その瞳に酷薄な色を浮かべた。


「……」


 グレアムが何も言わないままでいると、セバスティアンは舌打ちをする。


「で、貴様はここで何をしている?」


 リリィの近くへ歩いていく。


「わ、わたしは――」


「黙れ。反論を許した覚えはない」


 セバスティアンはリリィの二の腕を掴み、椅子から立ち上がらせようとしたところで――


「おい」


 グレアムの短くも怒りを含む、低く重い声が轟いた。


 それにセバスティアンはビクリと動きを止める。


「女性は大切に扱えと忠告したはずですよ」


「わ、我が家の領民のことに口出ししないでもらおうか」


 グレアムの本気の怒気に一瞬怯んだものの、分はこちらにあることを思い出し勢いを取り戻すセバスティアン。リリィ・マーケルはシーレ伯爵家所有の平民。いかように扱おうが口出しされる謂れはない。ましてや他国の貴族なぞに。


 その理をグレアムも分かっていたが退く気はない。


 睨みあうグレアムとセバスティアン。


 その時、固唾を飲んでこの状況を見守ってた周囲がにわかに騒がしくなる。


「ごめんなさい。ちょっといいかしら」


 サファイア色の髪を持つ美しい女性が、グレアム達に話しかけてきた。

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