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最弱スライム使いの最強魔導  作者: あいうえワをん
四章 オルトメイアの背徳者
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60 学院生活3(魔法学概論)

 オルトメイア魔導学院の教室は、前世の大学でよく見られた横長の机が階段状に設置された階段教室が多い。ホームルームがないところや、必修科目以外は自分で自由に授業を選択することも大学に近い。ただし、選択科目はクラスランクによって受けられる授業に制限がある。例えば聖国元魔導師団長に師事できるのはAクラス以上と定められている。


 さて、Cクラスに所属するグレアム。学院が始まって既に一週間が経過した。その間、特に可もなく不可もなく過ごしている……。――過ごしていた。


『――というように天使や悪魔、精霊などといった超常の存在が使う力を魔法と呼ぶことから始まり――魔"法"とある通り、世界のルールを一時的に書き換えることがその力の本質と言われてる。よく魔術と比較されるが、魔術はあくまで世界のルールに則り、そのルール内で――』


 どこかくたびれた感じのする講師が『魔法学概論』の教科書を片手に解説している。


(悪魔と精霊もいるんだ。……まあ、天使がいるんだからいてもおかしくないか)


 なんなら地獄の鬼もこの世界に来ている。もう何が出てきても驚かない。


『――我々が持つスキルも神から授けられた魔法の一種とされていることは前回説明したとおりだが、幻獣と魔物――例えば、家屋よりも大きな巨体で空を飛ぶ、あるいは泳ぐように土の中を進む。これらは魔法の行使によって実現していると考え――』


「え?」


 その講義の内容に思わず声が出てしまう。


『どうかしたかね?』


 小さい声であったが、教室の前の方にいたグレアムは、その呟きを講師に聞かれてしまう。


「いえ、魔物の能力を魔法の一種とする見方を意外に思いまして」


『ふむ。どうしてそう思ったのかね』


「……スキルとは神から選ばれし者に与えられた神の御業であり神聖なものであると信じられています。魔物の能力と同一視するのは冒涜だと怒りだす人もいるのではないかと」


 グレアムとしては、スキルをそんなに神聖視していない。ただ、そう考える人間は――特に神殿関係者に――多く、宗教国家たる聖国でもそう考えると思っていた。


『なるほど。たしかに過去、そのように考える輩もいたようだ。だが、"魔法学"に宗教学の観点を持ち込むべきではない。宗教学もまた有用であることは否定しないが、それらは分離して考えるべきだ』


「"魔法"そのものに、神聖も邪悪もないということですか」


『その通り。よい質問だった。名前は?』


「レビイ・ゲベルです」


『加点しておこう』


 学院の成績は月に一度行われる科目ごとの試験によって決まるが、授業中の加点・減点も大きなポイントになる。思わぬ幸運に少し嬉しく感じるグレアム。それにしても、と思う。


(聞いていたとおり、レベルが高いな)


 オルトメイア魔導学院とは、魔術師の育成と魔術の開発、そして()()の研究を行う最高峰の高等教育機関という触れ込みに噓偽りなしと感じる。


 グレアムは手元の教科書の最後のページにある奥付を見てみた。監修に"ヴァイセ・リンチ"という名前がある。確か六人いる枢機卿の一人だ。万能の天才と呼ばれていたことを思い出す。そして、そのヴァイセの隣に並ぶ名前を見て、驚きと共に納得する。


 "ヒューストーム=ハーバード"


 魔術の天才にして今は亡きグレアムの師。"ハーバード"はヒューストームに爵位が与えられていた時の姓だ。濡れ衣を着せられてブロランカ送りになった際に剥奪されたが。


『――魔術と魔法の違いについて、"感知"を例にあげてみる。<魔術感知(センスマジック)>や<魔導感知(センスオーラ)>は特殊な魔力波を展開し、それに触れたものを感知・解析する魔術だ。いわば魔力波が術者の目や耳のような感覚器官になるわけだな。

 "見て触って知る。感知するには何かしらの感覚器官を介さなくてはならない"

 魔術による感知はそのルールに則ったものだ。

 ところが、探知系スキルではそのような魔力波はまったく検知されない。対象から一定の距離が離れた場合や、対象をアダマンタイトでできた箱などに納めてしまえば探知はほぼ不可能になることから魔力波ではなくとも何らかのエネルギー波が展開されていると予想されていたが、距離に関係なく探知可能なスキルの存在や、アダマンタイトが魔力波を減衰するが通してしまう事実――つまり、アダマンタイトはエネルギー波を遮断するのに有効な素材ではなく、探知系スキルが使えなくなるのは別の要因によるもの――という事実から、現在ではほぼ否定されている。つまり、スキル=魔法による"探知"とは、過程を省いて、"知る"という結果を得る――そのように"ルールを書き換えている"というのが近年の解釈だ』


「……」


 帝国軍人キャサリン少尉のスキル【サベイング】は一度見た対象の現在位置と距離を正確に知ることができるというものだ。"ロードビルダー"討伐戦の際、"ロードリサーチャー"と呼ばれる翼竜の電波、魔力波、思念波を阻害する特殊能力によって、通信もレーダー探知もできない中、彼女のスキルは有効だった。


(魔術とはまったく別の理屈で働く"魔法"。いや、そもそも魔法に理屈があるのか?)


 重力"魔法"が存在していても重力"魔術"は存在していない。ある一定の質量があれば、そこに重力が発生するが、なぜそうなるのかは地球の現代科学でもわかっていない。重力発生の過程(メカニズム)が分からなければ魔術足りえないが、過程を省略できる魔法であれば実現できるということだろうか。


(しかし、『ルールを書き換える』とはどういう意味だ? どうすれば、そんなことができるんだ? 結局、"魔法"とは何なんだ?)


『それを探究することが魔法学のテーマじゃよ』


 グレアムは亡き師の幻聴が聞こえた気がした。

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